新たなる依頼の受注

 傭兵の仕事は基本的に金を積まれて頼まれればやる、という物だ。

 それ故に、時には賊まがいの事を裏がありそうな企業から頼まれたり、何某の暗殺を頼まれたり。そう言った後ろめたい依頼も結構な頻度で来るものだ。

 特に、有名な傭兵であればあるほど、だ。

 

「こっちは企業のお偉いさんの排除の依頼、こっちは運搬船の撃墜……ったく、そういうのはお断りだってんのに」

「仕方ないわよ。こんな速度で名を上げた傭兵なんて、裏で何やってるか分からないんだから」


 ティファとサラは傭兵協会で端末をいじくりながら溜め息を吐いていた。

 宇宙色の流星、と呼ばれるようになった自分達だが、そこに指名で来る依頼は八割くらいが体よく自分たちを扱いたいという願望が浮き出た依頼。そして、残りの一割五分は企業間の争いや暗殺はお断りだと言っているのにも関わらずやってくる、後ろめたい依頼。

 そういう依頼は基本的に無視しているのだが、それでも来る頻度は少なくない。

 残りの五分のまともな依頼に思わず涙が流れそうになるほどだ。

 

「こっちももっと名を上げたいならこの依頼を格安でやれとか、金なら払うから後ろめたい事をしろだとか。なーんで人攫いなんていう賊の真似をしなきゃならないんだっての」

「こちとら金は程々でいいからまともな仕事したいんだっての」


 ちょっときな臭い依頼があまりにも多いので、外に漏れないようにと傭兵協会内で有償で貸し出している個室の中で依頼の整理をしているのだが、本当に個室があってよかったと心から思う。

 だってここにある依頼の一割五分は外に漏れようものなら一気にビックニュースになってもおかしくないような依頼ばかりだ。

 政治家の汚職、企業間の競り合い、どこかのセレブからの後ろめたい依頼。見ていて嫌になるものばかりだ。

 流石に政治家の汚職なんかはそれとなく外部に流してはいるが、他の依頼は外に流すとこちらがコロニー内での暗殺などをされかねないので、どうするべきか悩んで見なかったことに。

 本当に、本当に嫌になる。

 

「……ん? この依頼」

「どーかした?」


 溜め息を吐きながら、以前どこかで仕事をした気がするコロニーからのズヴェーリ掃討依頼を含めたほぼ全ての依頼を受けない物として分別している中、ふとティファが一つの依頼に視線を奪われた。

 その依頼をサラも覗き込んだ。

 そこに書いてあったのは、人探しの依頼。

 いや、正確には人を取り戻してほしいという依頼だった。

 

「……ここからここまでの航路に出現した賊に攫われたであろう両親の捜索と救助依頼ね」

「まぁ、そこそこありがちな依頼だけど……どうかしたの?」

「依頼主」


 ティファの言葉を聞いてサラは依頼主を見る。

 そこに書いてあったのは普通の人の名前だ。だが、依頼人の素性を記載する欄には、その人の自己紹介らしき文章と年齢が書かれていた。

 年齢は、10歳。まだ子供だ。

 

「子供からの依頼……」

「そう。しかも、報酬なんて」

「……子供の小遣いにしちゃ、頑張った方ね」


 報酬は2457ガルド。多分、依頼主の子供が出せる精一杯の額なのだろう。

 それを確認してから、ティファは依頼に検索をかける。検索対象は、この依頼主の子供と同じ苗字。

 すると、一件引っかかった。

 同じような依頼で、依頼主は高齢の夫婦。息子夫婦を探してほしいという依頼内容で、報酬は3000万。


「……でも、無茶よ。この人たちが攫われたのはもう3か月も前。どこかに売られているに決まっているわ」


 ――宙賊というのは、人を人として見ないようなクソッタレどもだ。

 人を攫い、そして『加工』し、出荷する。

 加工の種類には色々とあるが、代表的な物で言えば薬漬け、人体のパーツの切断や内臓の摘出、冷凍保存。酷い時には、人体由来の何かを作るためだけに薬物を投与されたり遺伝子を操作され、精神を壊れたタダの装置にされている場合もある。

 そういう、人を人として思わない事を平然とするからこそ、宙賊は殺さなければならない。

 そして、3か月という時間は、『加工』を行うにはあまりにも十分すぎる時間だ。

 薬漬けや冷凍保存ならまだ間に合う可能性もあるが、もしもパーツの切断や内臓の摘出をされていたら、もう助けることはできない。薬物投与及び遺伝子操作で装置に加工されていた場合もだ。

 そして、薬漬けや冷凍保存をされていた場合でも、だ。

 賊は独自のルートで商品を売りさばく。ブラックマーケットだったり、賊独自の市場だったり、その幅はあまりにも広い。

 故に、この依頼を達成することはほぼ不可能。そう思っても差し支えがない。

 だが。

 

「……まぁ、やるだけやってみましょう」

「正気?」

「正気よ。ただ、そうね……わたしだって親を理不尽に亡くしたんだもの。それを阻止できるならしてあげたいって、思っちゃっただけ」


 ティファの言葉を聞いてサラが口をつぐんだ。

 少しばかり無神経な事を言った。そんな自覚があった。

 ティファはサラよりも傭兵歴が長い。そんな彼女が、この依頼は達成不可能かもしれない、なんて考えないわけがない。

 それでもやってみたいと言うのならば。

 

「……しゃーないわね。手伝うわよ」

「ありがと」

「別にいいわよ。偶には善性由来の人助けだって悪くないって思っただけ」


 別に金には困っていない。力はある。

 ならば試したっていい。そう思っただけだ。

 サラは頷き、ティファは依頼を受ける。

 子供からの依頼。たった2457ガルドが報酬の達成不可能かもしれない依頼を。


****


「さて、依頼を受けたはいいけど……なんか今回は嫌な予感がするのよね」


 そう言いながら、ティファは珍しくラーマナMk-Xをサラから借りて大型船の外装にとある物を装着していた。

 ここ最近暇な時間が続いたので、適当に作っていた一品だ。

 明らかにネメシス向けの物ではないためトウマとサラはスルーしていたが、割とブレイクスルーな一品だ。

 それを、生身では流石に運搬できなかったため、ネメシスを使って運搬、宙域でネメシスを使い接続作業をしている。

 オーバースプライシングを借りてもよかったのだが、アレはちょっとピーキー過ぎるので、まだティファでも何とか動かせるラーマナを借りていた。


「こんなの使う時が来なきゃいいけど……まぁ、念の為ね。これならキングズヴェーリも真正面から撃ち抜けるし」


 ちょっとこの世界の常識的におかしい事を口にしながら、ティファは作業を進めるのであった。

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