逆転劇の役者たち

 レイトから聞こえてきた言葉は真逆の言葉だった。

 

「大丈夫です」

「…………え?」


 どういう意味だ?

 

「仕方ないですよ、ご家族の事ですから」


 セレスがどこまで家族の事を想っているかまでは分からない。だが、少なくとも彼女は、自分の事よりも家族の事を大事に想っている。

 例え自分が死んだとしても、家族が助かるのなら。

 彼女はそれを平気で行う。それは分かっていた。


「で、でも、あ、アタシ、は……」

「大丈夫です。それも含めて、全部」


 だって。

 

「ここには僕が居ます。後は、僕に任せてください」

「で、でも、こ、こんな」

「問答無用で撃たれていたらヤバかったですけど、この状況なら大丈夫です。ね、メルさん」


 話を振られたメルは、はい。と頷いた。

 

「……謝るのはこちらもです。私とレイトは、この状況を、予見していました。あくまでも可能性の一つとしてですが」

「え……?」

「なんとか会話の主導権はあちらに渡したまま、レイトが自分の機体に乗るように仕向ける。それが私達の計画でした。お嬢様に何も言わなかったのは、申し訳ないですが……」


 今も床に膝を付いて俯くカタリナに視線を一度落とした。

 そう、この事は全部レイトとメルの予想通りだ。

 ウェイド・ホーキンスが仕掛けてくるタイミングはもうここしかない。もしも予想通り仕掛けてきた場合は流れに乗り、レイトがなんとかネメシスに乗れるようにする。

 例え問答無用で攻撃されても、カタリナ、メル、セレスを連れてホワイトビルスターに飛び込めば何とかなる算段だった。それが間に合う程度にはこの中型船は堅いから。操縦士も、緊急用の脱出ポットで逃がすつもりだった。

 それに、そのための時間稼ぎ用のプランも用意はしてあった。

 

「ど、どこまで知ってたの……?」

「全部です。全部、知っていました。あなたの母君の事も、含めて」


 その言葉が致命打となり、セレスは拳銃を落とした。


「……なに、それ。アタシが馬鹿みたいじゃん」

「…………」

「もういいよ。好きにして。アタシの事を腹いせで殺す? それとももっと酷い事でもする?」

「しませんよ。言ったじゃないですか、大丈夫だって」


 自暴自棄になったセレスの肩に、そっとレイトが手を置いた。

 

「そこまで予想できていて、何も対策しないと思いますか?」

「でも……」

「大丈夫です。アイツが20機もネメシスを出してきたこと、それが一番嬉しい誤算なくらいなんですから」

「え?」

「セレスさん。あなたの問題も、ここまで来たら一気に解決できます。だから、信じてください」


 レイトはそれだけ告げて笑うと、今度はカタリナの前に立ち、そのまま膝を付いた。

 

「お嬢様」

「…………」

「大丈夫です、お嬢様」

「……むり、だよ」


 優しい声色に返ってきたのは、心が折れた声だった。

 

「わたしのせいだ……わたしが、あの時、前に出たから……」

「お嬢様」

「みんな巻き込んで……」

「カタリナお嬢様」

「なんで……? わたし、正しい事をしたのに……」

「カタリナお嬢様!」

「こんな事なら、わたし、あんなこと!!」

「カタリナ!!」


 それ以上は言わせない。

 言わせてはならない。

 その意志を込めて、カタリナの名を呼び、肩を掴んだ。

 そこまでしてようやくカタリナの慟哭は止まり、視線がレイトと合った。

 

「大丈夫、僕がいる。君の正義は、僕が命を懸けて汚させやしない! 君のその、眩しいまでの正義は、僕が成す!」

「レイト……」

「信じて。君の護衛は、この程度の逆境で折れるほど柔じゃない。君の正義は、こんな邪悪に負けやしないほど尊くて、素晴らしいものだと!」


 レイトはこの状況を打破する手札を持っている。

 だからこそ、カタリナを奮起する。

 彼女の眩しいまでに輝くその心は、これ以上汚れてはいけない。折れさせてはいけない。

 

「約束する。僕は、ここにいる全員を生きて帰す。そして、君の正義を体現する」

「れい、と……」

「だから、安心して待っていて。だって、君の護衛は、この世で一番強いんだから」


 レイトの言葉に、カタリナは、涙を浮かべながら、頷いた。

 それを見てレイトも頷き、立ち上がる。

 

「メルさん。後はお願いします」

「分かっています。それと、ご武運を」

「はい」


 レイトは操縦室を出て格納庫へ向かって駆けだした。

 着替えている暇はない。燕尾服のまま己の愛機に乗り込む。

 ティファに依頼した守るための力。それは、レイトも予め確認してあるし、十分に動くことも確認できている。

 大丈夫だ。これが動くのなら、後はなんとでもなる。

 意を決して、開かれたハッチから飛び出し、余計な動きは見せずにウェイドの乗るゴールドイーグルの前に姿を見せる。

 

『ようやく来たか』

「来てやったよ」

『ならいい。おっと、それ以上動くなよ? 動けばお前の大事なお嬢様が爆発に巻き込まれてこの世を去る事になるぞ?』

「『僕は』動かないよ。ほら、とっととやりたい事やれよ」

『……チッ、貴様の恐怖に染まった叫びでも聞きたかったのだがな。ならば、いっそ一撃で殺してやろう!』


 ウェイドは叫び、その手にビームセイバーを展開する。

 あれをコクピットに突っ込まれれば、レイトは蒸発してこの世を去るだろう。

 だが、大丈夫だ。

 既に守るための力を、動かしている。

 

『この俺に歯向かったことを後悔して死ぬがいい!!』


 ゴールドイーグルが突っ込んでくる。

 タイミングは。


「今だ!!」

『なっ、がぁぁ!!?』


 叫び、ゴールドイーグルの刺突を避け、代わりに盾による殴打を御見舞する。

 このタイミング、奴が油断したこのタイミングなら、指示を出すのはワンテンポ遅れる。

 更に胸部と肩部のガトリングとミサイルを当たらない程度に雑に放ち、牽制もする。

 ここまで時間を稼げれば、問題ない。

 

「守れ、『ディフェンダーウィング』ッ!!」


 その声に呼応し、格納庫からソレは飛び出す。

 飛び出したのは、二枚の盾だ。

 それが自ら動き、格納庫から飛び出した。

 

『な、なんだ!? 盾!!?』


 宙賊達は飛び出した盾に驚き、即座に船を攻撃するという行動に出れていない。

 その隙に、レイトは目を閉じ、イメージする。

 敵の位置、敵の持つ武器。

 マシンガンは合計20丁。それを全て潰す。そのための工程を。


「ターゲット、マルチロック……!! 降り注げ!!」


 それをイメージし終えた瞬間、目を開き念じる。

 その命令に従い飛び出した盾、ディフェンダーウィングの先端が開き、そこから光が放たれる。

 そう、荷電粒子が。

 その荷電粒子は次々と放たれ、放たれるごとに敵のマシンガンを焼き、爆発させていく。

 

『な、なんだこれは!!?』

『び、ビーム!? ビームを放っているのか!!?』

『クソッ、あの盾を破壊しろ!!』

『馬鹿どもが!! 狙うのはそっちではない、あそこの船を!!』

「おせぇんだよ、ボンボンが!!」

『がぁ!!?』


 ディフェンダーウィングが動いている間にレイトはゴールドイーグルを蹴り飛ばし、さらに時間を作る。

 ここまで時間ができれば、次の策も打てる。

 

「まだまだ! 来い!!」


 叫び、念じる。

 それに答え、格納庫にあるもう一つの力が飛び立つ。

 ――ティファはレイトからの依頼を受けた際に考えた。

 スプライシングにはV.O.O.S.Tが。ラーマナにはアーマードブラストが与えられた。

 ならば、ホワイトビルスターにも何かを与えるべきではないか、と。

 そう考え、まず考えたのかディフェンダーウィング。ホワイトビルスター専用のウィングだ。それを作成した後、これだけでは守り切れない場面が出てくるかもしれないと考えた。

 故に、もう一つの追加武装を考えた。

 それこそが。

 

『な、なんだ、航宙戦闘機!?』

『にしては小型だぞ!?』


 機動力が足りないホワイトビルスター専用の、新たなる翼、追加バックパック。

 

「バックパック、パージ! ドッキングセンサー!!」


 ホワイトビルスターを新たなる次元へと押し上げる、ウィングと並ぶ追加バックパック。

 その名は、ガーディアンパック。

 これを装備したホワイトビルスターは、もうホワイトビルスターではない。

 その名は。

 

「――ライトニングビルスター・ガーディアン!!」


 ライトニングビルスター。

 

「目標を、撃ち貫く!!」


 レイトの新たなる力だ。



****



 あとがきになります。

 今回はホワイトビルスターの新たなる姿、ライトニングビルスター・ガーディアン、ディフェンダーウィング、ガーディアンパックの設定を少し。


ライトニングビルスター・ガーディアン

ホワイトビルスターの新たなる姿。

背中に大型のバックパック、ガーディアンパックと盾を模した2機のウィング、ディフェンダーウィングを装備している。

レイトが苦手と自称している近距離戦闘に対応するのではなく、近距離戦闘から距離を置き、自分の得意な距離で戦う事を。後ろから仲間を守るための力を身に着けた。

そのコンセプトは一撃離脱&専守防衛。

大幅に強化された機動力によって戦場を飛び回り、一撃で相手を撃ち貫き別の場所へと飛び立つ事が主な戦闘方法。

スナイパーキャノンを外さないレイトだからこその戦闘方法。

また、ディフェンダーウィングはガーディアンパックとドッキングすることで追加武装兼追加ブースターとなり、さらに加速することが可能。

基礎性能でオーバースプライシングに並ぶほどであり、レイトが乗る事で戦闘力はO-V.O.O.S.T発動状態のオーバースプライシング&トウマに匹敵する。

名前の元ネタはライトニングガンダム+スタービルドストライクガンダム。ビルドファイターズで好きな機体達です。



ガーディアンパック

ウィングの技術を用いて作られた、宙域戦闘用の戦闘機、航宙戦闘機の姿を模したバックパック。実は没ネタの再利用。

本体の武装として荷電粒子砲、S.I.V.A.Rを二門装備しているため、単騎でも相当な戦闘力を持つ。

また、ウィング技術を用いているため、レイトの脳波で操作が可能。そのため、分離して飛ばす事も可能であり、ガーディアンパックの上に乗って高速で空を飛ぶ狙撃機(必中)という超理不尽ムーブが可能。

しかし、このガーディアンパックを装備したライトニングビルスターにはまだ新たなる機能があって……?



ディフェンダーウィング

ティファが作り上げた第3のウィング。

V.O.O.S.Tの補助として作られたセパレートウィング、攻撃性能を求めて作られたフェンサーウィングに続き、ディフェンダーウィングは防御性能を求めて作られた。

S.I.V.A.Rを内蔵しているが、分離した状態ではエネルギー不足の為、ネメシスを戦闘不能にできるほどの火力を出すことができない。ライトニングビルスターとドッキングした状態でなら十分な火力を叩き出せる。

その代わりに盾としての性能は最上級であり、実弾の攻撃を防ぐのではなく、無効化できる。

レイトは知る由も無いが、例のアレが装甲として使われている。そのため、塗装を剥がすと黄と黒の例の生物由来のアレが…………

また、フェンサーウィングに使われていたエネルギー展開による防御力強化にも成功している上に、レイトの要望でそちらの性能に重点を置いた強化がされているため、S.I.V.A.Rであっても4、5発は耐えるという異常な防御力を手にしている。



ホワイトビルスターの盾

実はウィング技術が搭載された。もうやりたい放題の改造である。

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