勝利の凱旋

 格納庫に戻りホワイトビルスターから降りたレイトを迎えたのは、やはりカタリナだった。

 

「レイト! お帰り!」

「ただいま戻りました、お嬢さ、おっと!?」


 ホワイトビルスターから降り、頭を下げようとしたレイトだったが、その前になんとカタリナがタックルのような勢いでレイトに抱き着いてきた。

 なんとかそれを受け止め踏ん張り、カタリナごと転ぶのは避けられたが、その後ろではメルが凄い顔をしている。

 

「信じてた! レイトなら勝てるって!」

「……はい、ありがとうございます」


 だが、今のカタリナを無理に引きはがすわけにもいかず、レイトはカタリナの言葉に頷く。

 そして、その体が少しだけ震えているのを感じ、そっとカタリナの背を撫でた。

 信じていた。そう言っているが、カタリナも怖かったのだろう。

 レイトが負ければ、自分はウェイドの手によりどうなるか分かったものではない。しかも、メルやセレスまで巻き込んで、果てには自身の家族すら巻き込んだ。

 しかも決闘を実際に行ってみれば相手は実弾を使う上に不意打ち、審判の脅迫など反則のオンパレード。

 気が気でないのは当然だ。

 

「……言ったじゃないですか。あなたに勝利を捧げると」

「うん」

「だから、もう大丈夫です。決闘には勝ちました。あなたの善性の、正義の勝利です」

「うん……ありがと」

「この程度の戦果では、勿体ないお言葉です」


 たった数分の戦いで今後の未来が決まる。

 ただの15歳の女の子に、この戦いはあまりにも重すぎた。

 それでも、勝ったのだ。勝って、みせたのだ。

 

「……それで、お嬢様? いつまでレイトに抱き着いているつもりですか?」

「――あっ」


 だが、流石にこれ以上はちょっとメルも見逃せない。

 故に、メルはカタリナに一言注意。その言葉を聞いた瞬間にカタリナは顔を真っ赤にしてレイトから離れた。自分が結構大胆な事をやってしまったという自覚が沸いてきてしまったのだろう。

 ここでレイトが何か言うとカタリナに恥をかかせるかもしれないので、これ以上は触れない。

 

「とにかく、これでこの問題は一件落着。お嬢様の正義は成されました。今日はお嬢様も気を揉んで疲れたでしょうし、勉強会は無しにして休みましょうか」

「う、うん! そ、そうだね!」


 レイトの言葉にカタリナがちょっと大げさに頷く。直後、カタリナは赤い顔を隠さずに格納庫から出て行った。

 メルとセレスもそれを追っていき、レイトはそれを見送って一息吐く。

 さて。

 

「ちょっと嫌な予感もするし、こっちもこっちでやっておくことをやっておかないとね」


 ――ああいうクズが、やられっぱなしで終わるわけがない。

 しかも、奴はイリーガルな手段を平気で取ってきたうえで完膚なきまでにやられて恥をかかされたのだ。

 確実に、どこかのタイミングで仕返しに来る。それも、そう遠くないタイミングで。

 

「よう、レイト。ちょっと役得だったみたいだな…………って、なんだお前、勝ったのに嬉しくなさそうだな?」

「……あぁ、ちょっと考え事を」


 あり得るとするなら、奴は恥をかかされたネメシスを使った場面で何かしら仕掛けてくるはずだ。

 ならば、残りの2か月ほどで自分が打てる最善の手を打たなければならない。

 だったら、そうだ。

 

「すみません、そちらからティファさんに連絡をしてくれませんか?」

「俺が、ティファ嬢ちゃんにか? 一体何をする気だ?」

「ああいう手合いがこれで諦めるとは思いません。だから、最善を尽くしたいんです」

「……そりゃ考えすぎじゃないか?」

「あいつが諦めれば僕が気にしすぎだっただけです」

「そうだが……」

「ティファさんはここに入る事ができない。だから、そちらで一旦ホワイトビルスターを整備という名目で運び出して、ティファさんに届けてほしいんです。ティファさんには、そうですね……守るための力を作ってくれないか、と依頼してください。お金は僕が出します」

「……分かった。とりあえず、こっちはなるべく人の目に付かないように作業もしておく」

「お願いします。それと、ティファさんにはこう伝えてください」


 レイトはメカニックに幾つか注文を伝える。

 その内いくつかは流石に彼女でも無理だろう、という内容だったが、問題ない。

 きっと彼女ならそれを成してくれる。

 問題は金だが、自分の全財産を叩けば彼女も動いてくれるだろう。


「……守ってやるさ。一度守ると決めたんだ。守り切れなきゃ、かっこ悪いだろ」


 ――ホワイトビルスターに不足しているもの。

 それは、守るための力。

 今までは後ろに守るべきものがなかった。だからこそ、不退転の装備を固めて戦えば勝てた。

 だが、これからはそうじゃない。守るべきものを守り切れなければ、勝ちではない。

 ハインリッヒ家も。そして、カタリナも。

 みんな、守り切ってみせる。

 そうじゃなきゃ、かっこ悪いから。

 

「外道は暴力で潰してやるよ」


 こうなればもう自重はしない。

 金だろうが地位だろうが何だって払ってやる。頭だって下げてやる。

 だから、守るための力を、手に入れる。

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