ブーステッド

『死ぬがいい、平民!!』


 ゴールドイーグルの、既に向けられていたマシンガンの銃口が連続で火を吹く。だが、それをレイトはホワイトビルスターを横に飛ばして回避。

 

『レイト、まずは右足』

「承知いたしました、お嬢様」

『な、なんだ、今の通信は……?』


 ――そして、聞こえた命令をこなす。

 一瞬でスナイパーキャノンの照準をゴールドイーグルの右足に合わせ、引き金を引く。

 次の瞬間、ゴールドイーグルの右足がペイントに濡れた。

 

『なっ!? あ、当てた!? スナイパーキャノンなどというゴミ武器を!?』

『次、左手』

「承知いたしました」

『クソッ、そんなまぐれが!!』


 本来、決闘で使うネメシスにはペイント弾が当たった場所は動かなくなるようにOSにプログラムが組み込まれているはずだが、相手はそのプログラムを起動していないらしい。

 何も無かったかのように右足を動かし、ブースターを吹かせる。

 が、動いた先の左手に、ペイント弾がヒットする。

 

『なっ!?』

『次は、そうだね……右肩とかいける?』

「勿論です」


 相手は弾をばらまきながら回避行動に入っているが、その行動の全てが未熟。

 攻撃を避け、隙を縫って右肩にペイント弾をぶち当てる。

 

『クソッ、クソッ!! 貴様、俺のゴールドイーグルを汚して、生きて帰れると思うなよ!!』

『うるさいなぁ……じゃあ次、左足からもう一回左手。そのあとコクピットね』

「楽勝ですね。もっと細かく言ってもいいんですよ? 左親指とか」

『じゃあ、左手は人差し指に当ててみて』

「構いませんよ。僕、外しませんから」

『そんなゲーム感覚で、当てられるわけが!!』

「学習しなよ。もっとも、学習したところで外さないけどさ」


 相手からの通信が鬱陶しいが、だとしても外さない。

 一発目。右足にヒット。

 二発目。相手は手を隠そうとしてきたが、その前に人差し指を撃ち抜く。

 三発目。なんとか逃げようとするゴールドイーグルのコクピットにペイント弾を直撃させる。

 

「実戦なら達磨になった上にコクピットを撃ち抜かれて即死だ。どうです? お嬢様」

『うん、満点! 凄いねレイト!』


 レイトがカタリナと通信を繋いで行ったゲーム。

 それはただの的当てだ。

 カタリナが指示する敵ネメシスの部位をレイトが撃ち抜く。そんな簡単で、しかし成すには難しく、この時代のトップエースでもできっこない的当てゲーム。

 その光景はとてもじゃないが現実であるとは考えられない程。現に、格納庫でメルは何度も目を擦って現実を直視しないようにしているし、セレスは口が開きっぱなしだ。

 メルはレイトが強いと信じていなかったし、セレスは信じていたがここまでとは思っていなかった。

 マシンガンの弾を軽く捌いて扱いが難しいと言われるスナイパーキャノンを全弾カタリナが指示した部位に当てるなど、人間技ではない。

 相手がトウマやサラであれば、流石に的当ては無理だが、ランドマン程度にならこの程度は可能。

 つまり、相手がトウマとサラ並みの腕でもない限り、この的当てゲームから逃げることは不可能ということだ。


『き、さまらぁ……!!』

「吠えるくらいなら来なよ、雑魚。そっちは実弾使ってるんでしょ? ほら、当ててみなよ。こちとら男爵家が雇ったただの使用人だよ?」

『殺す……!! 殺してやる……!!』


 レイトの挑発に乗り、ウェイドは何の躊躇もなくマシンガンの引き金を引く。

 が、その弾は全て盾により防がれ、当たらない。

 更にレイトはそのまま直進。マシンガンの弾を盾で弾きながら一気にゴールドイーグルに接近する。

 

『狙撃機が格闘戦!? 馬鹿にするなァ!!』

「悪いけどこれも僕の立派な武器なんでね!! ブーストシールドナッコォッ!!」


 ゴールドイーグルはセイバーを抜いてホワイトビルスターを斬ろうとするが、その前に盾のブースターにより加速したホワイトビルスターの拳……というよりも盾の先端がゴールドイーグルの装甲を凹ませた。

 

『がぁぁぁ!!? こ、こいつ、なんて野蛮な!!』

「寝てろクズが!! ブーストシールドナックルッ!!」


 更に追撃のブーストシールドナックル。

 その一撃はゴールドイーグルのコクピット……ではなく、今はセイバーを持つ右腕の関節にねじ込まれた。

 

『な、なんだ!? レッドアラート!!?』

「貫け、ホワイトビルスターッ!!」


 そして、そのままの勢いで右腕部の関節を盾で無理矢理破壊。

 非武装のはずのホワイトビルスターの攻撃により、ゴールドイーグルの右腕が吹き飛んだ。

 

『な、なにぃ!!? こ、こいつ、盾で!!?』

「もう一発ッ!!」


 更に盾を構えるレイト。

 だが、流石にゴールドイーグルも動く。

 

『こ、この距離ならァ!!』


 残った左腕でマシンガンを持ち、ろくに狙いもつけずに乱射する。

 が、距離が近いためそれでもホワイトビルスターには当たる。とにかく牽制にでも何にでもなれ、という魂胆の射撃だろう。

 だが、即座にレイトは盾を使い弾丸を防ぐ。その程度、手の動かし方を見た瞬間に読んでいた。

 

「こちとら足癖も悪くってさぁ!!」


 そして、直後にマシンガンを蹴り飛ばし、更に追撃でゴールドイーグルに蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。

 普段から脚部ビームセイバーなんていう色物を使っているからこその芸当だ。

 

『なんだとぉ!!? 貴様、俺を蹴ったな!!』

「蹴ったし、今からもう一発殴る!! ブーストシールドナッコォッ!!」


 更に続いてレイトはもう一度、ブーストシールドナックル使い、今度は左腕の関節部に盾の先端をねじ込み、そして左腕を吹き飛ばす。

 これでゴールドイーグルは戦えない。


『き、貴様ァ!! だが!!』


 しかし、ウェイドはゴールドイーグルの頭部をレイトに向ける。

 向けられた頭部を確認し、何があるのかを理解する。

 小さい銃口。間違いない、頭部バルカンだ。ネメシスにしては珍しい上にこんなものはコクピットに直接何発も当てない限り敵を倒せない筈だ。

 なんとなく、このバルカンの使い道を察し、気分が悪くなる。

 故に、何も言わずに頭部をスナイパーキャノンでぶん殴って凹ませる事でバルカンの銃口を潰す。

 勿論、左右両方、スナイパーキャノンで殴って、だ。


「で? 卑怯な手を使った割にそれだけ? 不意打ち、脅迫、実弾……よくもまぁここまで好き勝手したもんだよね。で、しかも負け。恥ずかしい奴だな、お前」

『き、貴様ァ……! 俺はホーキンス家の人間だぞ!』

「でも、そんな事、この決闘には関係ない」


 再びレイトは盾を構える。

 

「コクピットってネメシスの中でも一番脆い部分なんだよ。そこを何発殴られたら死ぬか……試してみる?」

『なっ!? そ、そんな事できるわけが!!』


 直後、無言でレイトはコクピットを殴った。

 

「で?」

『わ、分かった! お、お前、俺に付かないか!! 俺に付けば、ビアード家の全財産はお前にやる!! あそこのいけ好かない男爵令嬢もだ!! ど、どうだ、魅力的だろ!!?』

「いらねぇよ」


 もう一発殴る。

 コクピットハッチが変形した。

 

「僕が聞きたいのは、ここで降参を宣言する言葉だけだ。お前の負けを認める言葉だ。例えここでお前を殺しても事故で済ませてくれるだろうし、殺したって構わないんだけどね。でしょう、審判?」

『…………気が付いたらネメシスのパイロットが死んでいた、という痛々しい事故として記録されるが、私の方から言っておこう。不幸な事故であり、ビアード家に過失は無かったと。武器の持ち込みも確認できていないからな』

『し、審判、貴様!! 学院が用意した審判は公正なハズだろ!!』

『それを放棄したのは君だ。だが、降参の言葉だけは聞いてやる』


 先に審判に喧嘩を売ったのはウェイド、彼だ。

 元々自分から公平性を投げ捨てたのにも関わらず、図々しい事だ。

 

「さて、見立てだと、あと2、3発かな? コクピットでミンチよりも酷い事になってみる気はできた?」

『ぐ、ぐぐぐ……!!』

「別に降参したからと言ってお前が死ぬわけじゃない。ただ、女性に不当に手を出すなって言っているんだ。その条件を呑んだのはお前自身だ」


 盾のブースターが火を吹き始めた。

 あと10秒もしたら、再び盾の先端がコクピットに叩きつけられることだろう。

 その光景を見て、ウェイドは。

 

『…………ま、いった』


 降参の声を上げた。

 レイトのその声を聞き、盾を下ろす。

 

『勝者、ビアード家陣営』


 そして、審判の口から勝者の名が告げられるのであった。

 

「……僕はお前みたいなクズが嫌いなんだ。実戦だったら、迷わず殺していたよ」


 レイトはカタリナとの通信を切ってからウェイドにそう告げ、格納庫へと戻っていった。

 ウェイドはコクピットの中でその言葉を聞き、歯を食いしばり、そして操縦桿を殴った。


「カタリナ・ビアード……!! 覚えておけ……!! 必ず、貴様らを殺してやる……!!」


 オープンチャンネルの通信で聞こえない程度の声で、ウェイドは恨み節を口にするのだった。

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