不正の一手
ホワイトビルスターがカタパルトの力により決闘場を飛翔する。
真っ白なその機体は陽の輝きにも負けず、力強く飛翔し、決闘場に着地する。
その姿は腕部と一体化したスナイパーキャノンを携えた異形の姿。これまでにないネメシスの姿に、ホーキンス家の人間は声を上げている。
『続いて、ホーキンス家陣営のネメシス、出撃してください』
審判からの言葉が聞こえてからすぐ、相手側のカタパルトから機体が射出される。
その機体は。
「うげっ」
金色だった。
目に悪い上に、下品。
ちらっとカタリナ達の方を見ると絶句している。
『どんなネメシスが来るかと思えば、なんだそのネメシスは。まぁ、所詮は男爵家が雇える程度のネメシスという事か』
「あ、うん……」
そう、ここに来た初日に見かけた、全身金色で変な装飾も沢山ついた趣味の悪い中身ブレイクイーグルのネメシス。
あれが目の前に降ってきたのだ。
そりゃもう、まさかこれと戦わされるとは思っていなかったレイトは絶句しているし、なんだったら陽の光を受けてシンプルに眩しい。とっとと土で汚して陽の光を反射できなくしてやりたい。
『どうやら俺の『ゴールドイーグル』を前に言葉が出ないようだな! この威光、正しく俺に相応しい!!』
「……そういう所は尊敬できるなぁ、マジで」
『ん? よく見れば貴様、あの時後ろにいた使用人か。まさか傭兵でもなく使用人を出してくるとはな。ビアード家はよっぽど金がないらしい』
「もう好きにしてくれ……」
レイトは溜め息を吐いて操縦桿を握る。
もう何言ってもダメだってこれ。痛い目見せないといけないって。
『それでは、これより決闘を……』
さぁ、始まる。
そう思った瞬間だった。
敵の趣味悪ブレイクイーグル……いや、ゴールドイーグルが銃口をホワイトビルスターに向けた。
その瞬間、レイトは盾を構える。
直後、銃声と衝撃。
『おっと、手が滑った』
『なっ、ホーキンス家陣営、反則ですよ!!』
『手が滑っただけだ、別にいいだろう?』
あちらは何かほざいているが、重要なのはそこじゃない。
フライングなんて可愛いものだ。
何故ならこの衝撃、盾に伝わるこの感覚と、盾についた銃痕は。
「……実弾か」
『ま、まさか……ホーキンス家陣営は反則、不戦敗――』
『おいおい審判。それ以上言うとまた手が滑るかもしれないぞ? お前の席に向けてな』
――決闘場には簡易的な壁こそあるが、そう何発もの銃弾を受けることは想定していない。
もしも放送室に向けて実弾が撃ち込まれれば、審判はミンチよりもひどい状態になってしまうだろう。
「……お嬢様たちは避難を。格納庫の方なら安全です」
『レイト……勝てるんだね?』
「当然です。それに、あそこまで清々しいクズなら……本気で倒しても、心は痛まない。審判も、続けてください。僕はこのまま決闘に挑みます」
『ほう?』
『しょ、正気ですか!? 相手は実弾を使っている……当たれば死ぬんですよ!?』
「構わないよ。どうせ、僕を仕留める事なんざできやしないから。ただ、その代わりにお嬢様の避難だけは待ってほしい。その間、僕はここから動かない」
『いいだろう、好きにしろ。審判、奴の主が格納庫に着いたら即座に決闘を始めろ』
『…………いいでしょう。双方同意の上でしたら。ただ、ホーキンス家には然るべき罰が与えられると思ってください』
『やれるものならな』
そして、暫くのインターバル。
だが、その間も何度も「手が滑った」の言葉と共にゴールドイーグルの持つマシンガンの銃口から銃弾が一発放たれ、それをレイトが防ぐという光景が繰り広げられた。
そこまでやってしても不意打ちが決まらなかったからかウェイドは目に見えて不機嫌になり、レイトもまた、不機嫌になっていく。
ネメシスオンラインも行儀がいいプレイヤーばかりではなかったが、ここまでのクズは早々いない。
だが、出てくるクズに行う事は常に同じだ。
『……格納庫にカタリナ・ビアード嬢が着いたとのことです。それでは、試合開始!』
実力でねじ伏せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます