目標を狙い撃つ

 真っ直ぐウェイドを睨み、そして指先を突きつけ。

 カタリナは決闘を申し込んだ。


「……ふ、ははははは!! 何を言い出すかと思えば! お前、俺がウェイド・ホーキンスだと分かって言っているのか!?」

「分かったうえで言っています」

「ふん、馬鹿すぎて笑う気すら失せるな。で、お前の決闘に乗ったとして、俺は何をお前から奪えばいいんだ? あぁ、お前の身柄なんかいらんぞ、ちんちくりんには興味がない」

「コロス」


 一瞬カタリナが豹変した。

 が、すぐに怒りを抑えて元に戻った。

 

「……なんでも要求していいですよ」

「なに?」

「なんだって言ってみろと言っているんです。あなたが、わたしの要求と釣り合う要求を言ってみてください」


 その言葉を聞き、ウェイドは嗤った。

 なんともまぁ、悪人面な笑いだ。思わずレイトも溜め息が出てしまう。

 

「そうか……なら、俺が勝ったら後ろのメイド2人の身柄は俺が貰う。あと、そこの男は首を切ってもらうか」

「いいですよ」

「それと、お前。どこの家の令嬢かは知らんが、この学院を退学してもらうか」

「それだけですか?」

「…………お前、何を言われたのか理解しているのか?」

「理解したうえで言っています。その程度ですか?」

「……なら、はした金だろうが、貴様の家の全財産を貰おうか。家も、使用人も、何もかもだ」

「言いたい事はそれだけですか? ただ、この学院内で完結しないのであれば、わたしも少し要求を変えます。あなたには、一生涯自分から女性に手を出すのを禁じます。こちらは家族を含めた大多数の人間の将来を賭けるんです。まさかホーキンス家の方が断るとは、言いませんよね?」

「貴様、吠えたな……!! いいだろう、その条件で手を打ってやる!!」


 あっという間に話はとんでもない大きさに膨れ上がった。

 最早家同士の戦争みたいな規模だ。

 思わずメルとセレスも止めに入ろうとしたが、それをレイトが手で制した。

 大丈夫だから、と。

 

「ならば今日の放課後に決闘場だ! 逃げてもいいが、その場合は俺の不戦勝とする!」

「構いませんよ。逃げませんから」


 カタリナは表情を変えず、頷いた。

 それが不愉快だったのか、ウェイドは使用人を引き連れてその場を去っていった。

 ――決闘の際に相手が妨害行為に入れば妨害された側の不戦勝となる。

 それに、ウェイドからしたら勝てる勝負をした感覚だ。わざわざ妨害する気にもならないだろう。

 カタリナは去っていくウェイドが視界から外れたのを見て、絡まれていた女子生徒の前に立った。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、だけど……私、助けられてもお礼なんて何も……」

「いらないですよ。わたしがムカついたから決闘を吹っかけただけです」

「で、でも、負けたら……」

「負けませんよ」


 カタリナは自信満々にそう言い、レイトの方を見た。

 

「ね、レイト」

「お任せください、お嬢様。そして、ありがとうございます。僕を信用してくれて」

「うん、凄い信用してる。だから、負けたら許さないからね?」

「心得ました。僕の全力を持って」


 レイトは、目に闘志を滾らせる。

 負けやしない。

 あの最低なクズ野郎に鉄槌を下すために。

 

「あのクズを、撃ち抜いてみせましょう」



****



 決闘場はかなり広い。

 何せ、ネメシス2機が十分に戦うだけのスペースを用意してあるのだから。

 そんな広大なスペースの観客席は広い事はもちろんだが、各ネメシスの様子を映すズーム機能なども存在しており、観戦には困らないようになっている。

 今回の決闘はかなり急に決まったためか、観客席にはカタリナとメル、そしてセレス。それから、ホーキンス家の関係者しか座っていない。そのホーキンス家の関係者もかなりの数だ。

 それから、観客席ではない、放送室とも言える場所。そこには学院側の審判がいる。この審判は買収などに応じない学院側の人間であり、買収が発覚しようものなら家族含めて一生日の下を歩けなくなる契約がされている。

 それ故に、審判買収という反則も気にしなくていい。

 だが、その観客や信販の中にウェイドの姿は見えない。

 

「やはりでしたか……」


 メルはその様子を見て呟いた。

 

「ホーキンス家は護衛を用意せず、ウェイド・ホーキンス本人が決闘に出ると噂が出ていたのですが、どうやら本当だったようですね」

「それだけ、自分の腕に自信があるってこと?」

「そのようです」

「そう……」


 だが、そんな事は関係ない。

 だって。

 

「誰が相手でも、レイトは勝つよ」

「……何故、そう言い切れるのです? 彼が負けたら、私達どころかお嬢様まで」

「だって、信じてるから。すっごく、すっごーく信じてるから」


 それに、と言ってカタリナは懐から端末を取り出した。

 画面を見てみると、どうやらレイトと繋がっている様子。

 

「レイト、すっごく面白そうなことを言ってきたんだもん。それが言えるんなら、負ける事なんて無いと思うな」


 カタリナの笑顔にメルは押され、そして何も言えなくなった。

 そして一方その頃、決闘場内の格納庫でレイトは自分の愛機を見上げていた。

 既に腕部スナイパーキャノンと内蔵ガトリングは弾をペイント弾に変えており、マイクロミサイルに関しても弾頭は破裂せず、ペイントが弾けるものに変えている。

 OSも既に訓練用プログラムを起動済み。

 いつでも戦える状態だ。

 

「また頼むよ、相棒」


 レイトの言葉にホワイトビルスターは答えない。

 だが、その無骨さこそが答えだった。

 任せろ、と。愛機は間違いなくそう告げていた。

 機体を見上げ声をかけるレイトを見て、整備を担当していたハインリッヒ家のメカニックが声をかけてきた。

 

「レイト、大変なことになっちまったな?」

「いえ、僕が最後の一押しをした、みたいな所もありますから」

「そ、そうか? ならいいが……勿論、機体は万全だ。思いっきり見せつけてやれ。ハインリッヒ家の最終防衛ラインの力をな」

「はい。見せつけますとも」


 そう告げ、レイトはホワイトビルスターに乗り込もうとする。

 が、ちょっと待て、と声を掛けられ止められた。

 まだ何かあるというのか?

 

「実は、さっき向こう側の格納庫に実弾が運び込まれているのを見た」

「実弾……?」


 決闘は命を奪ってはならないというルールがある。

 だというのに実弾を?

 なるほど、相手はそこまでクズという訳か。

 

「関係ないですね。勝つのは僕です」

「だが、相手が負けを認めずに暴れたらどうするんだ? 脚部のセイバーだって使えないんだぞ」

「物理で殴るだけです。その分、整備は苦労させると思いますが……」


 何となくレイトが何をするのか分かったメカニックは苦笑した。

 こりゃ、相手はトラウマになるだろうな、と。

 

「分かった。ただ、万が一もある。ヤバかったら逃げる事も視野に入れろ。こんな事で死ぬほうが馬鹿らしい」

「分かりました。最も、逃げるような事態が起きるとは思いませんけどね?」


 そう告げ、レイトはコクピットに今度こそ乗った。

 ゲーム時代から愛用している相棒。そのコクピットの中でレイトは深呼吸をして、マイクのミュートを解除する。

 今までカタリナと繋いでいたが、ずっとミュートにしてこちらの会話が効かれないようにしておいた。

 一応、この機体はハインリッヒ家の機密の塊みたいなものなので。

 

「お嬢様、準備できました。あっちも準備ができていれば、審判の声で発進することになります」

『うん、レイト。調子はどう?』

「いつも通りです」


 そう、いつも通り。

 いつも通りの戦いだ。

 

「だから、外しません。言い忘れていましたけど、僕、こいつのスナイパーキャノンを外した事、一度も無いんですよ」

『え? それ本当?』

「本当です。今まで何万発も撃って、一度もです。だから、安心して『ゲーム』を楽しんでください、お嬢様」

『うん、そうする。にしてもレイト、あなたって結構いい性格してるよね?』

「そんないい性格の人間の提案を笑顔で受けるお嬢様こそ」

『ふふふ』

『お、お嬢様が今まで見たことないくらい黒い笑顔を……』

『め、メル!? ちょ、レイト、メルが倒れた!!』


 思わず何やってんだと額に手を当てる。

 が、そろそろ時間だ。

 安全の為、ヘルメットを装着してから操縦桿を握り、カタパルトに足を乗せる。

 

『それでは、これよりウェイド・ホーキンスとカタリナ・ビアードの決闘を始めます』


 審判の声だ。

 もう始まる。

 

『まずはビアード家陣営のネメシス、出撃してください』


 ――さぁ、行くか。

 

「――レイト・ムロフシ。ホワイトビルスター!」


 ペダルを踏み、駆ける!

 

「目標を撃ち抜く!!」


 ホワイトビルスターがカタパルトの力により決闘場を飛翔する。

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