気楽にいきたい

「は、初めまして。わたしは、カタリナ・ビアード。ビアード男爵家の娘です」

「はい、初めまして。レイト・ムロフシです。ハインリッヒ家で使用人してます」


 それから数日後、レイトはビアード家が出した中型船の中でカタリナと顔合わせをしていた。

 貴族のご令嬢という割には、カタリナはゆるふわな印象だ。美人よりも可愛らしいと言うべきか。

 ライトグリーンの髪色と髪色に合った瞳の色も彼女の可愛らしさに引き立てている。ちなみに胸の膨らみはあるようには見えない。ティファやサラといい勝負をする感じだ。

 そんな彼女が通う学院にはメイドが2人、他にも同行するらしく、その2人は生身の方の護衛兼、カタリナの身の回りの世話をする事になっている。


「……あの、なにか?」


 そんな2人の内、少し性格がキツそうな雰囲気のするメイドがレイトの方を見ている。

 というか、若干睨んでいる。

 故に、一旦カタリナから目を離し、メイド2人に視線を飛ばす。

 彼女達は既に船の中に搬送されたホワイトビルスターの事も見ているのだが、それを含めてレイトに言いたいことがあるようだった。


「いえ……ただ、あなたが本当にお嬢様の護衛ができるのか、不安になっただけです」

「メ、メル、あなた何を」

「申し訳ありません、お嬢様。しかし、彼は今から私達の同僚。故に、言いたい事は山程あります」

「その……この人はハインリッヒ家が送ってくれた護衛なんだよ? 疑ったりなんか……」

「失礼ですが、疑わざるをえません。護衛だと聞いて送られてきた彼は、到底護衛には思えないほど弱々しく、内気なように見えます。さらに、あのネメシス。どこの会社の物か分からない上に腕が武器と一体化している。あんなネメシスでお嬢様を守れると言えるのですか?」


 結構好き勝手言われているが、レイトはそれを軽い笑顔で受け流した。

 そして、口を開く。


「生憎、確かに僕はこの通り、生身の方はなよなよしてて、弱々しくて。騎兵団のシゴキにもついて行けません」

「なら」

「けど、僕にだって譲れない物もある。僕が弱いと言われるのはいい。事実だ。けど、僕の愛機であるホワイトビルスターを侮辱する事は許さない」


 レイトの視線を受け、言いたい放題だったメイド、メルの口が閉じる。

 レイトとて、実戦を潜り抜けたのだ。

 あっ、と声を漏らす間に死んでいても何らおかしくない、キングズヴェーリとの戦いを。


「ホワイトビルスターは僕と一緒に何万もの戦いを共にした相棒だ。この世で一番強くてカッコいいネメシスだ。それを侮辱する事だけは、断じて許さない。文句があるんならネメシスに乗って来い。戦力を用意してこい。何十人でもいい。1人頭3秒で殺してやる。馬鹿にするんなら僕を馬鹿にしろ。次にホワイトビルスターを馬鹿にしたら、10km先から馬鹿にしたやつをこの世から消滅させてやる。馬鹿にしたホワイトビルスターのスナイパーキャノンで」


 自身の乗るホワイトビルスターは何よりも強く、何よりもカッコいい。

 だからこそ、ホワイトビルスターを馬鹿にされる事だけは何よりも許せなかった。

 自身に言われたことは事実だ。レイト自身が受け入れている事実だ。だから許せる。これからの課題として受け入れる。

 だが、ホワイトビルスターだけは別だ。それだけは、別なのだ。


「……すみません、これから一緒に仕事するのに、こんな事言ってしまって。ただ、僕の愛機だけはどうしても許せない一線なんです」


 そう告げると、レイトはカタリナに頭を下げた。


「申し訳ございません、カタリナお嬢様。あなたの側近に不躾な真似をしました。僕の事がお気に召さないのでしたら、ハインリッヒ家に突き返していただいて構いません。どんな処分も、甘んじて受け入れます」

「い、いや、その、今のはこちらが悪いから……むしろ、わたしの方が謝らないと……」


 頭を下げたレイトだったが、すぐにカタリナが謝りながら頭を下げようとする。

 しかし、それをカタリナの動きで何となく察したレイトは、一旦顔を上げてそれを止めさせた。


「それは駄目です、カタリナお嬢様。あなたは今、ビアード家の者としてここに立っているんです。あなたが頭を下げるという事は、ビアード家そのものが僕に謝るようなものと捉えられてもおかしくないんです。あなた個人の意見ならまだしも、それを態度に出してはいけません」

「えっ、あ、うん……えっと、ごめんなさい……」

「いや、だから謝ったら……あー、まぁ、いいのかなぁ……」


 一丁前に意見を言っているが、これは全てハインリッヒ家で学んだ事。

 主に頭を下げさせる事の重大さは、主の家に直接影響するのだと。

 故に、レイトは間違いがあっても無かったことにできるこの場で提言したのだが、どうもカタリナはあまり人に強気には出られないようで、頭こそ下げなかったが謝ってしまった。

 こういう時は謝らず、次からは気を付けるから許せ、でいいのだ。

 貴族という立場はこれくらい言えないと駄目だ。


「……分かりました。僕はカタリナお嬢様と初めて会ってから、何も聞いてません。だから謝るような事も、怒るような事もありませんでした。そこのメイドの……メルさんでしたっけ? あなたも、それでいいですか?」

「…………いいでしょう。こちらも、そちらの事情を知らずに不躾でした」

「さて、なんの事やら?」

「えぇ、なんの事でしたかね」


 ここは一旦、こちらが主導して話を切り上げなければ駄目だと判断し、レイトが半ば強引に話しを打ち切る。

 メルもその対応に異論は無いらしく、話を合わせてくれた。

 こういう人は主を想っているからこそ、主と出会う人間に強く当たり、試す。特に護衛のような腕っ節が必要な人間には。

 どうやらレイトの啖呵は合格だったらしい。


「カタリナお嬢様。僕は今回、護衛としての命もそうですが、使用人としての命も受けております。僕の事は一介の使用人として扱ってください」

「う、うん、わかった」

「それではお嬢様。そろそろ船を出しますので、お部屋へ」


 カタリナはレイトの言葉に頷くと、メルの案内に従って船の中へ戻っていった。

 それを見送って、少しレイトは不安になる。

 貴族の集まる場というのは、見栄も態度も大事になる。あの内気なお嬢様が耐えきれるのか、と。

 ついつい、そう思ってしまったのだった。



****



 Tips:私が書く作品のメインヒロインは二次創作を除くとちっぱいになるという運命があります(例:天災ロリメカニックと天才ロリパイロットの傭兵2人)

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