レイト・エピソード:学院生活編
海より深い理由
レイトは地球に居た頃、普通の学生だった。
大学3年生。そろそろ就職についても考えなければならない、なんてことを考えつつ、学校には最低限行ってそれ以外の時間は基本的にネメシスオンラインをプレイする。もしくはロボットアニメを見るという、普通の事をしていた青年だった。
しかし、その青春はあまり華があったとは言えなかった。
何せ、レイトは気弱な性格だ。しかもちょっとコミュ障。
そのため、友達は数少ないが居たものの、色気のある話なんて一切なく。ザ・オタクみたいな生活をしていたのだ。
故に学生時代、こんなことがすごく楽しかった! なんてこともなく。
部活動のこんなことで成果を残した! なんてこともなく。寧ろ部活動は下手に運動系の部活に入ってしまったせいで苦痛だった。
勉強凄くできる! というわけでもなく。
つまるところ、自由の利く大学時代以外はあまり楽しくなかった、というのが本音だ。
「と、いう訳で。そんな感じで灰色の青春を過ごした僕にもう一度学校に行けと?」
そんな悲しい本音を理由付きで、レイトは自身の共であるミーシャに語っていた。
どうしてこうなったか? そう言われれば、単純だ。
数分前、レイトはミーシャからこんなことを言われたのだ。
「レイト。すまないが、暫く貴族の子息が通う学校へ行ってくれないか? 勿論、給料は出す。今まで以上にな」
そんな事を言われ、えっ、僕が? となり、学校にはいい思い出がない事を語る事に繋がった。
これにより同情を誘って、分かった。じゃあいい、という言葉を引き出したかったのだが。
「あぁ。それでも行ってほしい」
ミーシャから聞こえた言葉は無情な言葉だった。
レイトはその言葉を聞いて天井を仰いだ。
正直、また学校に行って勉強するよりもここで働いた方がマシだ。ついでに言えば、ここを追い出されてもレイトは先のキングズヴェーリ戦での働きによりハインリッヒ家より渡された報酬があるので、それを使えば十分一生働かずに生きていける。
ここに居るのは、居心地がいいからだ。
だから、学校に行くのは勘弁願いたかった。
「えぇー……嫌だよ……どうして僕がまた学校に通って勉強なんて……」
「ん? ……あっ、すまん。ちょっと先走っていた。何もレイト、お前に今更勉強して来いという訳じゃない」
「どういうこと?」
学校とは勉強するところでは?
そう聞いたレイトだったが、ミーシャはホロウィンドウを一つ表示して話を続けた。
「レイト。君にはこの子、カタリナ嬢の側近兼護衛として学校へ通ってほしい。これが正確な依頼だな」
ホロウィンドウに映ったのは可愛らしい少女だった。
名をカタリナ・ビアード。映画やドラマに重要な役で映っていても何ら問題がないくらいには可愛い少女だ。
「彼女はビアード家の令嬢でな。今年よりティウス王立学院に通う事となっている。俺とサーニャ、サラだって通っていた学校だ」
「へぇ、ミーシャの母校なんだ。それならちょっと興味はあるけど……それとこれとは話が別だと。護衛なんて、僕には無理無理」
「いや、大丈夫だ。何せ、レイトにはネメシス専門の護衛を頼むのだからな」
ネメシス専門。
その言葉を聞いてほう、とレイトは声を漏らす。
トウマからは裏でハインリッヒ家の守護神とまで呼ばれているレイト。ネメシスオンラインにて全一の名を欲しいままにした彼のネメシスを使った護衛など、どんな軍隊を連れてこようと抜くことができない最強の壁となるだろう。
「なるほど。それなら受けてもいいけど……どうして僕なの? この子、ビアード家って所の子なんだよね? そう言うのって、身内から出すもんじゃないの?」
ネメシスが絡むなら話は別。受けたっていい。
しかし疑問なのは、何故ビアード家の護衛をハインリッヒ家の一員であるレイトがしなければならないか、だ。
それについてはミーシャがすぐに答えてくれた。
「ウチとビアード家にはまだ明確な繋がりは無い。真っ赤な他人だな」
「なら」
「落ち着け。まだ、だ。ここの家の次男、ルーク・ビアードにちょっとした事があってな」
そうして映されたのは、イケメンな男。歳としては、ミーシャと同じか少し歳下程度、だろうか。
「彼はカタリナ嬢の兄上でな。そして、独身だ」
「うん」
「で、つい先日、ウチの干物と縁談が成立してな」
「えっ、サーニャ様と?」
「あぁ。彼はどちらかと言うと趣味人でな。趣味に干渉してこない嫁が欲しいと言い今まで嫁探しをしていなくてな。だが、ウチの干物はイケメンが掴まえられればいい。過干渉してこなければ尚良し、というスタンスだった。それ故に、偶々知り合ったビアード家の当主と話した結果、縁談が成立した」
なんともまぁ、とレイトは驚く。
確かにサーニャはかなりの面食いであり、干物だ。
流石に貴族としてのプライドがあるため最低限、体型の維持やらはしているが、イケメンな彼氏欲しいーだなんて男を探さずに寝ぼけたことを言っているほどだ。
しかし、まさかその結果がこうなるとは。
「貴族家の次男というのは、正直に言えば長男のスペアでな。死なない程度に金は与えるが、表立って余計な事はするなと教え込んである」
「うん」
「つまり、家の金でニートしても問題ない。というか出番が来るまでニートしてろ、と言われる立場だ」
「あっ」
「……干物を干しておく先としては最高だろう?」
ミーシャが凄く苦虫を噛み潰したような顔でそう口にした。
まぁ、つまり。
「……互いに要らない物を入れておく箱が欲しかった、と」
「そういう事だ。あっちの次男はとにかくゲームがしたい。ウチの干物は働きたくない。だが、貴族の責務として血は残さねばならない。そして互いに美男美女しか受け付けたくない。それなら偶々噛み合ったこれをくっ付けてゴミ箱に捨てるしかないだろ?」
ミーシャの表情は最早何とも言えない笑顔になっていた。
もう本当に、相当サーニャの事をどうするか悩んでいたのだろう。
レイトはそんな友の心情を察してそっと頷いた。
「で、だ。ウチとしてはあの干物を発送したいのでな……あっちからクーリングオフされないように恩を売っておきたいんだ」
「あっ、それで?」
「そういう事だ。本来はランドマンを出したかったんだが、生憎、ランドマンは今……」
「あー……王都の方に呼ばれてるもんね……」
ランドマンは現在、キングズヴェーリとの戦闘の功績によって王都の方に呼ばれ、王直属の騎兵団の指南役をしている。
キングズヴェーリと長時間戦い、そして生き延びた。その技量はこの世界においてはトップエースどことか異常とも言えるほど。
それ故にランドマンはその功績を買われ、一時的に騎兵団の指南役として仕事をしている。
ミーシャはその話を聞いた時、我が民の盾であり矛である騎兵団の腕がそこまで買われている事をとても誇りに思い、ランドマンもハインリッヒ家の名に泥を塗らない為、その仕事を引き受けた。
今は月に一度ほど帰ってきては成果を報告するために帰ってきているが、護衛までは流石にできない。
「ランドマンは俺達が学校に行くときも護衛をしてくれたから、最適だったんだがな……こればかりは仕方ない」
「だね」
「だから、ランドマンが帰ってくる3か月後まで、レイト。お前にこの仕事を頼みたいんだ」
だが、これもかなり苦渋の決断だ。
流石に騎兵団をこれ以上派遣するのは。というか、騎兵団からしたら貴族まみれの学校に送り込まれるのは流石に重荷も重荷だろうし。
他の使用人は流石に護衛なんてできないし。そもそもネメシスに乗れないし。
そうなると、戦力的には問題なく使用人としての生活も板に付いてきたレイトしか適任が居ないのだ。
「幸いにも、ビアード家は民をよく想う家だ。多少ミスを犯しても許してくれるだろう」
「それならいいけど…………僕があっちで無礼討ちとかされないよね?」
「心配するな。この護衛の立場は傭兵が受ける事も珍しくないからな。そういう奴らは礼儀もへったくれもないから、最低限人としての礼儀があれば急に無礼討ちで殺されることもない」
「ならよかった……ちなみに、無礼討ちの前例があったり?」
「馬鹿な傭兵が貴族令嬢をナンパして唇を奪おうとしてな……直前に相手側の使用人に額を撃たれて死んだ」
「うん、残当」
そりゃそうもなる。
だが、逆に言えばそこまでしなければ私刑されないという事だ。
それならレイトでも務まるだろう。
不安が無いと言えばウソだが、それでもこれぐらいなら大丈夫だろう。
それに、拾ってもらったハインリッヒ家への恩返しにもなるだろう。
「分かった。その仕事受けるよ」
「助かる。これであの干物の出荷先が……!!」
こんな経緯があり、レイトはティウス王立学院。貴族と天才な平民が通うティウス国の中でも最大の学校に、護衛として通う事になったのであった。
****
あとがきになります。
という事で、今回の話はレイトの話となります。
今回の話はトウマ達は極力出てこず、レイトの強化に焦点を当てた話になります。
いつも通りこの話も一本書き終えた状態で投稿しているので、最後までノンストップとなります。
それから、一点ほど。
流石にサブタイトルのネタが尽きました。まさか100話も続くとは思っても居なかったので……
なので、本章からサブタイの元ネタはなくなります。楽しみにしていた方、ごめんなさい。
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