O-V.O.O.S.T

「よし! なら行くか! ティファ、頼む!」

『はいはい! リミッター全開放! 決戦機能完全開放!!』


 セパレートウィングは何もL-V.O.O.S.Tを発動させるために機体を安定させるのではない。

 本来は更に先。真の決戦機能を開放するための力だ。

 L-V.O.O.S.Tはあくまでも副産物に過ぎないのだ。

 その真の力を。オーバースプライシングは真のV.O.O.S.Tを開放する。

 その名も。

 

「これが俺達の全力! O-V.O.O.S.T(オーバーブースト)発動!!」


 O-V.O.O.S.T。それを発動した瞬間、オーバースプライシングの全身から光の翼が発生する。

 その光の翼は、普段とほぼ変わらない。しかし、背中の翼は一際巨大であり、普段のV.O.O.S.Tよりも遥かに神々しい。

 だが、それだけなら多少強化されただけのV.O.O.S.Tと変わらない。

 しかし、その真価は制限時間にある。

 

『V.O.O.S.T残り時間……30分! よし、実戦でも問題なし!  地上でこれなら宇宙なら1時間は持つわね!!』

「マジか……!! 実質的にV.O.O.S.Tがほぼ制限なしで使えるって事か……!!」

『これがセパレートウィングの本当の力よ!』


 これこそが、セパレートウィングの本来の力。

 すなわち、V.O.O.S.Tの安定化だ。

 セパレートウィングはどうしても機体に負担がかかるため短時間しか使う事ができないV.O.O.S.Tの稼働時間を増やし、更に劣化したL-V.O.O.S.Tなら無制限に使用が可能になるという、外付けの安定装置だ。

 有線自律兵器としての面はあくまでも副次効果に過ぎないのだ。

 

「これならキングズヴェーリが来てももしかしたら単騎で勝てちまうんじゃないかなぁ!!」


 叫びながら、スプライシングを動かす。

 その速度は従来のV.O.O.S.Tよりも速い。これもセパレートウィングによる副次効果だ。V.O.O.S.Tそのものの性能も上がっている。

 それに女王蜂はついて行くことができず、光の翼を羽ばたかせるオーバースプライシングにより膾切りにされた。

 更にオーバースプライシングはそのまま巣板の付け根の部分を光の翼で攻撃。光の翼により巣板の付け根を両断し、そのまま巣板を自由落下させる。それにより巣板は地下に落下し、崩壊を始めた。

 流石にここまでされると原生生物の方も敵を追うだけでは駄目かと判断したのか、巣の方へと飛んでいく。

 

「さて、八つ当たりもしたし帰るか!」


 巣板が破壊され幼虫や蛹が宙を舞い落下していくのを尻目に、トウマは来た道から戻っていく。

 勿論、そのついでに来た道を光の翼やミサイルで破壊して崩落させておき、これ以上自分たちが追われないようにすることも忘れない。

 途中、伸びたままのサラが乗っているラーマナに追いついたため、ラーマナも回収し、そのまま地上へと帰還するのであった。



****



 結局のところ、テラフォーミングは中断される事になった。

 あの巣が地下全体に広がっているのであれば、大陸そのものを吹き飛ばす勢いでなければどうにかすることはできない。

 それどころか、もしかしたらあの巣は大陸がある箇所の地下全体に広がっており、海底の海水が無い場所にも広がっているのではないか。

 そう考えられた結果、これ以上のテラフォーミングは危険だと判断されることになったのだ。

 それ故にテラフォーミング船団と軍は即座に撤退を開始。ティファ達も今回の調査の報酬を貰った所で大気圏外へと離脱。そのままテラフォーミング船団を離れることになった。

 

「あー……ちょっと長めのゆっくりできる依頼かと思ったらまさかここまでこき使われるなんて」

「もう暫くは働かなくてもいいかもね……わたしも久々にハッスルしたけど、そのせいで疲れた……」

「あーうん俺も……」


 今回の依頼では得られるものは金だけ。機体のパワーアップが想定よりも速く進んだものの、あと1か月もあったら自然とできていたものが少し早く完成しただけだ。

 結局、3人は金でいいように扱われたという事である。

 

「にしても、あんなに巨大な生き物……本当にあんな普通の星に出現するようなもんなのかしら?」

「と、言うと?」

「いや、何というか……重力が普通で、空気の成分がちょっと違うだけの星で、あんな巨大で、しかも針が爆発するような生き物が生まれるのかしらって」


 ティファの言葉にトウマ達は首を傾げる。

 そんな事を言われてもトウマ達は生物に関しては完全にノータッチというか、専門外なのでよく分からないとしか言いようがない。

 それに、そんな事を考えたらなんでもありになってしまうような気がする。

 

「まぁ……そういう事もあるだろって事でいいんじゃね? 今回は上手くいったし、人も死ななかった。気楽に行こうぜ? どうせ俺達は傭兵業して金稼ぐだけなんだしさ」

「ン、まぁ……それもそうね。んじゃ、わたし部屋で寝てるから」

「あたしもー……最近夢にあの原生生物の顔面が出てきてちょっと寝不足なの」

「あー……トラウマ級だったしな……んじゃ、俺も寝るか」


 考えても仕方ない。

 目の前に現れるのなら蹴散らすだけ。変わらない生き方を胸に、3人は暫しの間、休息に入るのであった。


「――ん? この依頼…………なるほど、いいじゃない。そういうのはわたし、結構好きよ」

 

 

****



 トウマ達がテラフォーミング船団からの依頼を受ける少し前。


「……えっ、僕が貴族の学校に行く?」


 レイトはちょっと面倒な事に巻き込まれ始めていたのであった。



****



あとがきになります。

という事で、これにて最後は少し駆け足でしたがテラフォーミング船団の話は終わりです。

今回はズヴェーリ以外の敵を出しつつ、スプライシングとラーマナを強化する話でしたので、こんな形になりました。


次回からは時系列的にはトウマ達がテラフォーミング船団に合流する少し前からレイトが巻き込まれている一つの話に焦点を当てます。

なんで貴族でもない奴が貴族の学校に行く羽目になってるんですかね?


では、最後にオーバースプライシングの詳細だけ載せてこの章は終わりとなります。



****



オーバースプライシング

基礎的な情報は既に出ているが、その真価は新たに追加されたセパレートウィングをバックパックの所定の位置にドッキングさせた時に発動可能となるL-V.O.O.S.TとO-V.O.O.S.T、本編未登場のS-V.O.O.S.T(セパレートブースト)にある。

L-V.O.O.S.Tは性能が従来のV.O.O.S.Tの8割程度しか出せないが、それでも時間制限が無い。

O-V.O.O.S.Tは地上で30分、宇宙で1時間発動可能。また、性能も従来のV.O.O.S.Tより2割上昇している。勢いを付ければキングズヴェーリの核まで光の翼を届かせる事が可能。

S-V.O.O.S.Tは従来のV.O.O.S.T+セパレートウィング分離状態のV.O.O.S.T。制限時間は10分だが、セパレートウィングもV.O.O.S.Tを使用して性能が向上するため、実質V.O.O.S.Tを使用した機体が3機に分裂する。

オーバースプライシングの真価はこの3種のV.O.O.S.Tによる状況適応力の高さとV.O.O.S.Tのスペックによる暴力にある。

また、スプライシングPRの時点でそうだったが、もうこの機体はトウマ以外には扱えない機体になっている。サラとレイトでもロクに動かすことができないほど。

しかし、この機体は正真正銘、この宇宙で最強のネメシスである。



****



P.S

蜂ニワカを晒してとんでもない量のコメントが来ました。

その内修正するから許して♡

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