クイーン
トウマが発動したL- V.O.O.S.T。
そのV.O.O.S.Tは普段のV.O.O.S.Tとは違い、背中の一番大きな光の翼のみが展開されている。
『えっ、そんな事できたの!?』
「あぁ。セパレートウィングが付いた分だけ機体の安定性が上がったんだ。だから、セパレートウィングをドッキングさせた時だけはこうやって光の翼を部分展開できるんだ」
『すごっ……ちなみに時間制限は?』
「ふっ……ティファさん、言ってやりなさい」
『えぇ、言ってやるわ。L-V.O.O.S.Tの時間制限は――無限よ』
『とうとうやりやがったわね!!?』
そう、展開できる光の翼は背中の一番大きな光の翼だけであるが、代わりにV.O.O.S.Tの八割近い性能を引き出した状態で戦う事ができる。それこそがL-V.O.O.S.T。
その制限時間は、無限。つまり、L-V.O.O.S.Tはセパレートウィングという手数を無くしてしまうものの、代わりにV.O.O.S.Tをほぼ無制限に使うことができる、スプライシングの完成形の一つだ。
「そんじゃ、お先に失礼するぜ! 駆け抜けろ、オーバースプライシング!!」
オーバースプライシングが一気に地下空間を駆け抜ける。
光の翼に触れた原生生物は次々と焼き殺されていき、ボトボトと落ちていく。
ただでさえ無敵に近かったV.O.O.S.Tの制限時間が無くなったのだ。そりゃ無双にも近い事はできるだろう。
だが、ラーマナMk-Xだって負けてはいない。
『こっちはV.O.O.S.Tこそないけど、ちょっと恐ろしい事だってできるのよ!!』
ラーマナMk-Xはアーマードブラストにより多少の被弾は問題ない設計となっている。
故に、通常時は取り付けられている盾そのものを武器としても問題ない作りとなっている。
ティファがもしもV.O.O.S.Tに似た力が敵に回った時、質量の差で一気に相手を潰せるように。火力が足りないなら物理で殴ればいいじゃないか、という頭の悪い脳筋戦法を昇華させたその武器は。
『せーのっ! ウィングブーメランッ!!』
フェンサーウィングを盾に取り付け、フェンサーウィング全体からビームの刃を展開し、盾の側面全体にビームの刃を展開する。
その状態でフェンサーウィングの自律移動能力によりビームの刃が生えた円盤みたいになった盾を自由自在に飛ばす戦法。
名付けて、ウィングブーメラン。
「えっ、何それ急にスーパーロボットみたいな武器出てくるじゃん!?」
『こいつならV.O.O.S.Tの光の翼もぶち抜ける! 対大型専用の質量兵器よ!!』
「しかも盾に有線内蔵されてるのに盾そのものが飛んでるからほぼ無線兵器になってんじゃん!? 卑怯くせぇ!!?」
空飛ぶシールドは次々と原生生物を切り裂いていく。更にそこにラーマナMk-Xまでもが混ざって攻撃するものだから、もうとんでもない絵面になっている。
2機のネメシスは百倍以上の敵を相手にしているのにも関わらず、無双の様相を見せている。
これならば、この空間にいる原生生物はある程度狩りつくすことができるだろう。
しかし、この巣はまだ他にもあるのだという。ここの原生生物を狩り尽くしても相対的な数としては数パーセント減らせたか減らせないか、程度だろう。
「けど、これで数を減らせば撤退しても問題は無いな!」
『船団の方もとっとと帰る準備してればいいけどね! とにかくあたし達はもうこれが終わったら帰る! 報酬貰ったらとっとと帰宅よ帰宅!』
「家じゃなくて船しかないけどな!! 定住地無し!!」
2人で若干ギャグみたいなことを叫びながら数を減らしていく。
しかし、羽音はいつまで経っても減らない。さっきからマイクが拾う音は騒がしいままだ。
というか。
なんというか。
「……なんかさ、ちょっと気になったんだけど」
『ん?』
「……さっきからさ、なんかすっげー低い羽音聞こえない?」
『……なんか聞こえる気がする』
「ティファさんや、ソナーまだ動いてるかね?」
『あっ、ごめん。ちょっと目ぇ逸らしてた。船団にデータ送ってたから…………oh』
なんかティファからおぅ……って聞こえた。
嫌な予感。
『なんかソナーにとんでもないデカさの原生生物が映っている気がする』
なるほど、とんでもなくデカい原生生物。
蜂の中でデカいのって確か。
「……もしかして、女王?」
『え、女王って』
「蜂ってさ、確か基本オスばかりで、一匹だけメスがいる、みたいな感じだった気がする。あと、そのメスって他のオスよりもデカかったような気が……」
記憶を頼りにそんな事を言った瞬間だった。
暗くて見えなかった地下から、他の原生生物よりも十倍はデカい顔が徐々に見えてきた。
『ぎゃーーーーーーーーーーー!!?』
「すげぇ、きゃーじゃなくてぎゃーだ。女子力どこやってきたんだこの貴族令嬢」
『急いでカメラの映像切っといてよかった……』
トウマはサラの悲鳴に女子力のなさを感じながら、完全に動きを止めてしまったラーマナを抱えてその場から逃走。
その瞬間、地下から全長百メートル超の原生生物……女王蜂が姿を現し、スプライシングたちの前に立ちはだかった。
その羽音は低く重く、思わずトウマはマイクの音量を最低値まで下げた。
「で、でっけぇ……」
『き、きもっ…………ぶくぶく……』
「ん? サラ? おーいサラ? あれ? ちょっ、サラさん?」
『ねぇ、悲報よ。コクピットのカメラ映したんだけど、サラが泡吹いて気絶してた』
「嘘じゃん……こいつ虫駄目だっけ……?」
『少なくとも超巨大な虫は女の子誰しも無理よ』
まぁ、確かに見ていると結構気持ち悪い。
特に足の部分。なんかわしゃわしゃしてるしトゲあるし毛みたいなのあるし。
なるほどなるほど。
「やべぇじっくり見てると気分悪くなってきた……普通にきめぇわ……」
『あー、うん……』
ズヴェーリって基本的にこんな気持ち悪くないし、人だって殺してきたが基本的にネメシス越しだったし。こういう虫は別方向からの破壊力がある。
思わずトウマはさっさと視界から外れてほしいという意味を込めてS.I.V.A.Rを放つ。
が、S.I.V.A.Rから放たれたビームは女王蜂の体を穿つものの、銃口程度の大きさの穴は女王蜂にとって致命傷にはならなかったのか、その痛みに怒りスプライシングへと突っ込んでくる。
「うお藪蛇ッ!!」
巨体による体当たりを何とか回避。
しかし女王蜂は巨体に見合わぬ旋回力を見せてすぐに突進してくる。
それも避け攻勢に出ようとするが、気絶したサラが邪魔すぎて中々攻勢に出れないのでモヤモヤする。
しかし、モヤモヤしてすぐにサラが飛ばしたウィングブーメランが一人でに帰還。ラーマナの手にドッキングした。
『あー、トウマ。こっちでフェンサーウィングを遠隔操作してサラを帰還させるから、本気でやっちゃっていいわよ』
「おっ、マジ?」
『マジ。えっと、こうして、こうしてっと』
ティファが何かを操作すると、フェンサーウィングはひとりでに盾から分離し、ラーマナを下から持ち上げるとそのままラーマナを運んで行った。
なんとも情けない退場であるが、これでお荷物はいなくなった。
全力を出せる。
****
あとがきになります。
今回もコメントできてた質問に対する答えをQA形式で。
Q:音量対策ってしてなかったの? もしかして宇宙戦メインだからプログラムし忘れ?
A:ティファのプログラムし忘れです。前回の地上戦(ハインリッヒ騎兵団との地上での模擬戦)で特に問題が無かったので、そのままにしてた感じですね。その結果、今回の超低音の羽音爆撃にパイロット側で対処せざるをえなかった感じです。
普通のOSならここら辺も対処済みなのですが、OSから何までティファ手製なのでこうなってます。
Q:ウィングシリーズって有線だと激しい動きする時に邪魔じゃない?
A:邪魔です。邪魔ですが、無線にするまでの技術力がティファにまだ無かっただけです。
具体的にはエネルギー問題ですね。ウィングが小さい/薄いため動力炉を積めず、やむを得ず有線化させてます。
もっと大きくて厚ければ動力炉を直接搭載させて無線化&S.I.V.AR搭載も可能です。
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