蜂の巣の中へ

「こういうのってホラー映画にありそうだよな……」

『そうね……変なのが出ないといいけど……』


 言いながら、視界に入った原生生物はS.I.V.A.Rで撃ち抜く。

 ぶつからないように慎重に進んでいくが、その光景は全然変わらず。巣と言う割には洞窟がただただ伸びているだけのような気がする。


「こうも長いか……そう言えば、巣を見つけるのに使った原生生物もかなりの距離を移動していたな……」

『流石にぶつからないように慎重に進んでいるとはいえ、中々最奥に辿りつかないわね……』


 こういう時は市場に売っているネメシスには大体ついているオートパイロットが少し恋しくなる。

 ティファの作ったネメシスにはどうせ使わんやろという事でオートパイロット機能は付いていないのだ。実際今まで使う機会なんてなかったし。

 2人は時折コクピット内に常備してあるジュースやらゼリー飲料を飲んで体力を回復させながら前へ前へと進んでいく。

 もしかしたらこの先はずっと洞窟なのではないか。その内地上に出るのではないか。そんな事を考えたが、実際にはこの洞窟は徐々に下へ下へと進んでいるため、地上に出ることはまずない。

 故に、いつ敵が出てくるかもわからない状態で2人は進んでいき――

 

「……サラ」

『えぇ。気づいたわ』

「あぁ。ギチギチと嫌な音だ……確実に原生生物がいる」


 そして、その音に気が付いた。

 ギチ、ギチ、と。異様な音が洞窟内に響き渡り始めたのだ。

 その音は原生生物が出していた音と同じように聞こえるが、少し違う。

 その不気味な音を聞きながら2人は気を引き締め、前に進む。

 そして、洞窟の狭い道が途切れる。まるで広い空間が広がっているかのような道の先に2人は息を呑み、一気に前へと飛び出して――

 

『な、なに、コレ……!!』

「あるとは思っていたが……このデカさ、どうなっていやがる……!!?」


 そこにあったのは、蜂の巣の内部のようなものだった。

 六角形の穴が開いた巣板が、目の前の巨大な空間には広がっていた。

 その板の数は十、二十、三十……それ以上。数えるのも馬鹿らしいほど、それは下へ下へと延びていた。

 更にその六角形の穴の中には白色の芋虫、蜂の幼虫と思わしき物が埋まっており、その幼虫がギチギチと音を鳴らしている。

 その巣の周辺には無数の原生生物が飛び回っており、壁にも巣板にも、原生生物が張り付いている。

 その数は100や200などではくだらない。1000か10000か。少なくとも、大量殺戮兵器も無しに駆除しきれる量ではない。


「しかも底が見えない……!? ティファ、そっち見えてるか!!?」

『え、えぇ。見えているわ。トウマ、スプライシングの盾の裏に音響ソナーを付けておいたから、それを外して落としてみて。それで深さを測定するわ』

「わ、分かった。これだな……」


 トウマは盾の裏にあった見慣れない物体を手に取り、それを巣の底へ向かって落とす。

 それは奈落の底へと消えていき、地面に当たった音は聞こえなかった。

 

「どうだ?」

『…………凄いわね、これ。まだまだ落ちてる。しかもソナーが既にこの穴は100km以上の深さであることを示しているわ。マントルをぶち抜く生物とかどうなっているのよ……!!』


 そして、ソナーが作り上げたマップがスプライシングとラーマナに送られてくる。

 その深さ、なんと100km以上。更に巣板の数は1000を既に超えており、今もその数を増やしている。

 ネメシスのモニターでは映しきれないため、何度も何度もマップは縮尺を変えていき……そして、ようやく更新が止まる。

 

『……横の広さは最大100km、深さは1000km。この深さの穴に、原生生物の幼生体と原生生物がぎっちり詰まっているわ』

「うっそだろ……流石にこれは駆除しきれないぞ……」

『これはちょっと……大陸そのものを吹き飛ばすとかしないとお話にならないわよ……』


 明らかにこの規模はネメシスや薬でどうにかできる規模を超えている。

 しかも。

 

『ちょ、ちょっと待って……壁に空いている穴が、あんた達の通ってきた道につながる穴以外にもいくつかあるんだけど、その先を確認できたわ。いくつかは外に繋がっているみたいだけど、その他のいくつかは、今あんた達がいる巣と同じような所に繋がっているみたい。流石に大きさまでは分からないけど……』

「って事は……」

『えぇ。この星の内側は間違いなく――』


 ――こいつらの巣でいっぱいよ

 

 ティファの言葉を聞き、トウマとサラはその表情を強張らせる。

 もしかしたら。いや、間違いなく、自分たちがこの間まで立っていた地面の下は、こいつらの巣でいっぱいだったのだ。

 宙から見たら綺麗な星だったのにも関わらず、この星は、この蜂型の原生生物の巣そのものになり下がっていたのだ。

 奴らが地上に居たのは、最早この星の内側はこいつ等でいっぱいであり、地下に入れないから外で擬態して敵を警戒していただけで。

 それを察した瞬間、トウマとサラの背中に冷たい物が流れた。



****



 あとがきになります。

 今回も良い所突いてるなーと思ったコメントからQA形式で抜粋します。


Q:HEAT弾とか焼夷弾、あるいは殺虫剤とか使えばどうにかならないの? 気門があるなら、演習用のペイント弾とかで窒息が狙えそうだけど。

A:こいつ等の甲殻はRPG的に書くなら『物理、氷結、衝撃無効、熱耐性持ち』です。大気圏突入時の熱を与えても耐えます。

荷電粒子で焼き溶かす、溶断するってレベルじゃないとこいつ等は余裕で耐えてきます。

あと、気門封じての窒息ですが、とある理由で無理です。こいつら窒息しません。というか気門はありません。


Q:衛星軌道上に惑星調整用の氷で出来た小惑星があったりする?

A:実はありますが、これも安くないのですぐには落とせないです。特に今回は降下後すぐに接敵だったので、余計無理な状態でした

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