彼らは上層部

 船団を襲った原生生物αの群れは途中から出撃したスプライシングSpec-Ⅱとラーマナ改により無事殲滅された。

 重荷を下ろしたスプライシングとラーマナのペアはたかが虫如きに苦戦するような存在ではなかったのだ。

 敵を殲滅して帰投した2人はティファと共に軍の方へと呼び出される事となった。

 もっとも。

 

「なぁ、ティファ来なくてよかったのか?」

「整備とかもあるしね。しかし、久しぶりに見たわね、あの子があそこまで何かに熱中してるの」

「だな。なんか最近は片手間にシヴァとか作ってたのを見ただけだったし……」


 ティファは不参加となった。その理由をトウマとサラは聞かされなかったが、こういう時のティファは十中八九何かを作るのに忙しい。

 今回は武装だったが、かなり気合を入れて作っているようだったし、あの様子なら一週間前後で作り終えるだろうがそれまではむやみやたらに口を出すとスパナとレンチ片手に追ってくるので、放っておくのが安牌だった。

 故に2人は参加を固辞するティファを放ってテラフォーミング船の中へとお邪魔していた。

 関係者以外立ち入り禁止の場所が多いので、あくまでも提示された通りの場所を歩いての移動だが。

 そうして2人が辿り着いたのは一つの会議室だった。そこに入ると、明らかに軍のお偉いさんと思われる人間とテラフォーミング船団のお偉いさんと思える人間が何人も集まっており、席についていた。

 

「君たちは……あぁ、『宇宙色の流星』と呼ばれている傭兵達か。まさかこんな子供とはな」

「なんと……書類では見ていたが、まさかここまで若いとは」


 軍の人間と船団の人間はトウマとサラを見て驚きに表情を染めている。

 どうやらここまで若い人間が傭兵として名を挙げているのは予想外だったらしい。

 トウマは一気に視線を集めたがために口を開こうとしては閉じているという様子。そんなトウマを見て、サラが溜め息を吐きながら一歩前に出た。

 

「ご存じだろうけど、お呼ばれさせてもらったサラ・ハインリッヒよ。それで、あたし達はどこに座ればいいわけ?」


 その言葉にトウマは驚く。

 サラがカサヴェデスの名ではなく、本名の方を名乗ったからだ。

 しかし、その名によるインパクトは軍人たちには大きかった様子。

 

「ハインリッヒだと……!? まさかティウス国のハインリッヒ子爵家と何か関係が……?」

「そっ。あたしはそこの次女。ちょっとした事情があって傭兵をしてるわ。それで、ここの軍人さんはお客を玄関先で立たせておけと教育でもされているの?」

「す、すまない。まさかあれほどの活躍をした者達がここまで若いとは思っていなくてな。適当な席に座ってくれ。すぐに会議を始めよう」


 ハインリッヒ家の名に驚いた軍人は即座にサラとトウマを席に座るように促した。多分あのまま立っていたらそこそこ面倒な事になって時間を使わされていたことだろう。

 サラは驚くトウマの方を振り向いて少し笑った後、適当な席に座り、トウマに横に座るように促した。

 やはりこういう場でのアレコレはサラには勝てないみたいだ。

 

「さて、先程の戦闘においてだが、我々はこの星の原生生物に攻撃を受けた。テラフォーミング予定の惑星の調査は船団に一任されているはずだが、どうしてあんな大きな原生生物の発見が漏れた?」

「それに関してだが、どうも奴らは擬態をしているらしい。しかも、ドローンなどの無人探査機には反応しないらしい。現に、監視カメラの映像には周囲の風景に溶け込んでいる奴等が、降下後に放ったドローンではなく、その後調査のために近くを通り過ぎた調査員に反応して擬態を解除し、攻撃に出たのを確認した」


 擬態能力と、人間にしか反応しない習性。

 なるほど、確かに厄介な能力だ。


「だが、奴らは一体が動き出せば周囲の個体も連動して動き始めるらしい。それ故に、あそこまで大規模な襲撃が発生したという訳だ」


 そして、蜂と同じように敵に対して反応して飛んでいく。

 もしもトウマとサラが居なければテラフォーミング船団はどれだけの被害が出ていただろうか。あまり想像したくない。

 それは軍側も同じだったようで、そこまで特殊な生態を持つ原生生物が相手だとは思ってなかったし、思いたくもなかった様子。

 

「……なるほど、確かにそれなら、船団の調査に責任は求められないな。むしろ、テラフォーミングの体制を考えた国の方に物申すべきか」

「そうなる。だが、それで責められる国も酷だがな……こんな例は今まででも数件程度しか報告されていない。むしろ、万が一を考えて軍を護衛にとつかせている事を賞賛すべきか」


 数件はあったのか? と小声でトウマは更に質問し、サラも頷いた。

 

「本当に、この数万年の中で数回だけの例だけどね。カメラで発見できないような存在だったり、ある程度の知性を持っていて自分より小さい相手が出てくるまで姿を絶対に見せない上に擬態している奴だったりが居た時があったの。だから、軍が護衛についてるのよ」


 テラフォーミングは文字通り年がら年中行われている。それが数万年も続いているのに、たった数件しか起きていない例が今回起こったのだという。

 これを完璧に対策しなかった船団の方が悪い、なんて責められてもどうしようもないだろう。

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