現場の意見は忘れがち

 だが、責任の所在は移ろいゆく時もある。

 

「ところで、先の戦闘で軍のネメシスはあまり敵を落とせなかったようだが? そこのお貴族のお嬢さんの方がよく戦っていなかったか?」


 船団の人間からの言葉に軍の人間は軽くうめいた。

 ちょっとそれは事実なので軽率に言い返せないのだろう。

 

「……それに関しては、奴らの装甲はミサイルすら防ぐ、規格外の防御力を持っていたことが原因だ。ネメシスの装備で奴らの装甲を貫くには、危険な近接戦闘を仕掛けなければならない。一兵卒に玉砕覚悟で突っ込めと言うのは酷だ」

「にしては、そこの傭兵達は空を飛び回って近接戦を仕掛けていたが?」

「あんな変態軌道をただのパイロットにやれと言うのが酷だと言っている!」


 サラッと変態と言われた傭兵2人はイラっと来たが、まぁ自分たちがこの時代においてはイレギュラーなのでそこに文句は言わない。

 そこら辺は自覚しているから。

 故に、ちょっと反論もする。

 

「軍の人が言ってたけど、あたし達の動きって言うのは軍人でも簡単にできるもんじゃないわ」

「ほう? 子供にできて軍人にできないと?」

「えぇ、できないわ。言っとくけど、あたし達はネメシスの扱いにおいては常人を超えている自覚があるわ。具体的には、キングズヴェーリに突っ込んで生還する程度には常軌を逸した動きをしているって自覚がある。ただの軍人にその動きを真似しろなんて無理が過ぎるわ」


 その言葉に船団の人間はまさか、と笑う。

 キングズヴェーリが人にはどうにもできない厄災であることは子供ですら分かる事だ。故に、そんな危険なやつと戦って生き残れるなんて言われても、というのが船団の人間の意見。

 しかし、軍の人間の一部はその言葉に表情を変えた。


「……まさか、この間ハインリッヒ子爵領で出現したキングズヴェーリを討伐したというのは」

「そう。とどめを刺したのはウチの使用人だけど、その作戦にはあたしもこいつも参加したわ。映像証拠付きで出せるけど、どうする?」


 ハインリッヒという名とキングズヴェーリという存在が頭の中で結びついた結果、サラとトウマは最近発生したキングズヴェーリとの戦闘に2人が参加していたことを悟ったらしい。

 その言葉に船団の人間も、軍の人間も、驚いた。

 まさかあの、明らかに人外が混ざっているだろとしか思えない戦果を挙げた戦いの中にこの2人が参加していたなんて、と。

 

「そういう訳で、ウチの騎兵団並みに軍の練度が高いんならいう事は無いけど、そんな事はないでしょ? ウチの騎兵団、多分ここに居る軍のネメシス全部相手にしても無傷で勝つ化け物集団よ?」


 もっともあたし達はその騎兵団に無傷で勝つけど、と付け加えた。

 ちょっと化け物としての次元が違う会話をされても、軍人も船団の人間も具体的にこのロリっ子がどれだけ強いかは分からない。

 が、あの動きはとりあえずただの軍人にはできないという事は察したようで、船団の人間はちょっと気まずそうに謝った。

 

「……だが、私は見たぞ? 白と黒のネメシスが撃った弾は敵を貫通しただろ」

「あぁ、あれ、荷電粒子砲です。分かりやすく言えばビームライフル」

「…………何?」

「ウチのメカニックの自作です。この世に二丁とありませんよ?」

「……すまない、君たちには暫く黙ってもらいたい。こちらから呼んだのにすまないがな」


 どうやらこいつらに常識的な言葉をぶつけるのは無意味だと悟った軍の人間が2人には一旦黙るように言った。ついでに船団の人間に対して、常識の範囲外にいる人間に常識的な話題を振るな、というあんまりな言葉を投げた。

 ちなみに2人はそのあと、黙ってろと言わんばかりに後ろから缶ジュースが差し出された。飲んで大人しくしてろと。

 

「…………つまり、だ。奴らを倒すにはビーム兵器による攻撃をするしかなく、現在軍が保有しているネメシスの携行火器では奴らに致命打を与えることが困難だ」

「……傭兵が荷電粒子砲を持っているのに軍が持っていないのか?」

「持っているわけがないだろう!! お前たちも常識がないのか!!? 売ってるんならいくらでも予算を突っ込んでやるからここにカタログでも何でも持って来い!! 売っているのが分かったらここに居る軍関係者の首全部切ってでも用意してやる!! いいから荷電粒子砲の話はこれで終わりだ!! これ以上荷電粒子砲の事を語りたいなら企業のカタログを持ってこい、カタログを!!」


 軍の人間の内1人が大声を上げた。

 そりゃそうだ。この世に存在しない物を持ってこいと言われても持ってこれるわけがない。

 傭兵が持っているのだから、と口にするが、アレはティファが作ったものだ。

 

「だったら、その傭兵に頼めばいいだろう。作ってくれと」

「その傭兵の仲間ですけど、一丁用意するたびに法外な値段吹っかけてきますよ? 船団がお金出してくれるんなら多分嫌々作ってくれますけど」


 と、言いながらトウマがホロウィンドウを出しながら口にした。

 そこに書いてある値段は、まぁ結構な物だ。

 具体的には軍用の宇宙戦艦が数隻帰る程度の。

 

「俺達はメロス国の人間で、金が積まれなきゃ動かない傭兵ですから。それに、あの荷電粒子砲は試作品で技術的ブレイクスルーの塊です。渡せと言われても渡しません。無理言うんなら俺達は報酬も要らないんで、このまま逃げます。で、一生この国には来ません。という事で、急に口をはさんで申し訳ないですけど、俺達の事はただの戦力として扱ってください。商人みたいに扱われるのは迷惑です」

「だが、傭兵とて先立つものが無ければ……」

「この間のキングズヴェーリとの戦いで貰った報酬がまだこんだけ残ってるんすけど」


 そして次に映した金額を見て船団の人間は黙った。

 もう働かなくても生きていける程度の金額を見れば黙るしかないだろう。

 ちなみに、総資産はこの倍以上はある。ズヴェーリと宙賊って儲かるんですよ。



****



あとがき失礼します。

もう少しだけ対話フェーズです。

この対話フェーズの船団側としてはとにかく責任追及→クビを回避したい

軍側はとにかくクビになってもいいから人的被害を回避したい、という感じの意見のぶつかり合いです。

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