O.V.E.R

 敵性原生生物α。そう呼称されることとなった巨大蜂型の原生生物は、トウマ達が一旦船に帰投した後もテラフォーミング船団と戦闘を繰り広げていた。

 その数は膨大であり、テラフォーミング船団に在籍しているオペレーターの目視での計算では、およそ百匹。それが更に増えているのだという。

 あまりにも膨大な数の敵性生物の攻撃により、テラフォーミング船団は軍を出撃させて対処していたが、その状況はあまりよくなかった。

 その原因は、奴らの甲殻にあった。

 

『くっ、トウマの言った通り、実弾が通らないみたいね、こいつ等!!』


 ラーマナABに乗ったサラは即座に船に帰った後、即座に出撃。そのままテラフォーミング船団の上空を陣取って飛ぶ原生生物αとの戦闘に入ったが、苦戦していた。

 その理由である奴らの甲殻は、なんとネメシスの実弾武装を弾き返してしまうのだ。

 トウマはあらかじめその特性を聞いていたため、ミサイルを一度は試したものの、それ以降はビーム兵器による攻撃を行っていた。

 しかし、ネメシスに搭載されるビーム兵器とは、基本はビームセイバーのみ。故に、この世界で最高スペックを誇るラーマナABですら、原生生物αとの戦闘は苦戦を強いられていた。

 何とかビームセイバーをねじ込んで各個撃破をしていくが、レールガンもミサイルも効かない敵の相手は中々堪えるものがある。


『こうなったらアーマードブラストはデッドウェイトね……アーマードブラスト、パージ!』


 このままでは苦戦するだけになると判断したサラはラーマナABのアーマードブラストをパージ。素のラーマナMk-Ⅱに脚部と腰部の増設ブースターを取り付けた状態となり、高速で空を駆けて次々と蜂を切り裂いていく。

 ラーマナMk-Ⅱの速度はアーマードブラストをパージしたことにより、スプライシングSpec-Ⅱをも上回る。たかが虫の飛行速度では追いつけないし追い抜けない程の常識外の速度で飛び回る。

 それを軍のネメシスたちは呆然と見上げるだけで、誰もラーマナMk-Ⅱの戦いについていけていない。

 それに唯一ついていけそうなスプライシングSpec-Ⅱは。

 

「クソッ……足をやられたせいで出撃できないなんてな……」

「仕方ないでしょ、この子はそもそも弾に当たっても大丈夫なようにできてないんだから……! あとちょっと、あと五分もあれば最低限動かせるようにはなるわ……!!」


 先の戦闘で足に受けた攻撃が原因で、出撃もできない状態となっていた。

 元々スプライシングSpec-Ⅱは被弾を想定しない、危ういバランスで成り立っている機体だ。どこかの部位に攻撃が直撃しようものなら、リミッターをかけている動力炉からの過剰なエネルギーが暴走して爆発しかねないのだ。

 それに、足を損傷しただけでもスプライシングSpec-ⅡはV.O.O.S.Tを使えないというデメリットも出てくる。損傷した状態で光の翼なんて出そうものなら、自分が間違いなく光になるからだ。

 それを理解しているが故にトウマは己の未熟さに歯噛みし、ティファもまたスプライシングの今の状態に歯噛みする。

 やはり、スプライシングSpec-Ⅱ……いや、その前身であるスプライシングPRは最高のスペックを誇るものの、そこで満足してはいけない機体だった。

 V.O.O.S.Tという危うい時限強化に加えて一撃の被弾で負けかねない不安定な機体構造。それらはいつか間違いなく味方の誰かを殺しかねない。

 S.I.V.A.Rで満足するべきではなかったのだ。Spec-Ⅱと銘打ったが、やはりまだ足りない。

 これまでの常識を。ネメシスという枠を。スプライシングという己の最高傑作を超越する力を。

 多少の被弾なら物ともせず、V.O.O.S.Tすら常用化し、誰もが想定できない武装を手にした最強の機体を作り上げなければならない。

 そのためには。

 

「……やっぱり、アレは早急に完成させないと」


 格納庫の隅。既存のネメシスでは絶対に考えられない武装。その外装を尻目に、ティファは手を動かす。

 あの武装があれば、スプライシングは正真正銘、ネメシスという枠すら超越する。

 本来はV.O.O.S.Tを安定化させるための外付け機構のようなものだったが、それを武装に転用すれば。

 

「…………応急処置完了!! トウマ、行けるわ!!」

「来たか! 助かるぜ、ティファ!!」

「礼は後! いいから行ってきなさい!!」

「言われずとも!!」


 トウマは急いでスプライシングのコクピットに乗り込み、OSを起動する。

 動き出したスプライシングを見上げ、ティファは安全な位置まで下がる。それを確認したトウマはスプライシングの足をカタパルトに乗せ、ティファを見る。ティファはその視線に気づきサムズアップすると、トウマもスプライシングにサムズアップさせて、それに返す。

 

『スプライシングSpec-Ⅱ! トウマ・ユウキ、出る!!』


 スプライシングがカタパルトにより射出され、空を舞う。

 それを見送り、ティファは格納庫の隅へともう一度視線をやり、そこへ移動する。

 完成させなくては。

 例えキングズヴェーリであっても倒せるこの兵器を。

 既存のネメシスでは太刀打ちすらできないこの兵器を。

 スプライシングの新たなる翼を。

 

「少なくとも、ここの原生生物を相手にするにはビーム兵器は必須。だから、完成させないと。この翼を。最強のネメシスを」


 作業中ゆえに床に広げたままの設計書を手に取る。

 その表紙には、こう書かれていた。

 O.V.E.Rプランと。

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