襲撃

 上空からトウマの声が響き、物凄い風圧と共に遠くからスプライシングSpec-Ⅱが半ば落下するようにこちらへと迫ってきた。

 トウマの声を聞いた瞬間、2人は互いの体を掴んで地面に伏せる。

 その一秒後、スプライシングSpec-Ⅱが盾を使って蜂にチャージを仕掛け、思いっきり蜂を吹き飛ばした。

 

『間に合った! 2人とも無事か!!』

「なんとか!!」

『よし! なら少し待ってろ! あのクソを片付ける!!』


 そう叫びながら、トウマは盾の先端を蜂に向ける。

 そして、盾の裏側に備えられているミサイルが放たれ、蜂に直撃。蜂の全身を爆炎が包んだ。


「やった!!」


 流石にミサイルを受けて生きている生き物はいない。故に助かった、とティファが顔を上げるが、直後サラに頭を掴まれ無理矢理地面に押し付けられる。

 

「いっだぁ!!?」

「まだよ! 伏せてなさい!!」


 女の子が出してはいけない声パート2と共に顔面をヘルメット越しに地面にダンクされたティファ。しかし、直後にサラが顔面ダンクをしてきた理由を理解した。

 あの蜂はミサイルの直撃を受けたというのに生きているのだ。

 

「生きてる!!?」

『くそっ、前情報通り実弾が効かねぇか!! なら!!』


 それはトウマも理解していたようで、すぐにトウマは盾とは逆の手に持っているS.I.V.A.Rを蜂に向ける。

 荷電粒子ならば、例え相手がなんであろうと貫ける。

 

『2人とも、まだ伏せてろよ!!』


 そう叫び、スプライシングは飛び上がってS.I.V.A.Rを放った。

 S.I.V.A.Rの一撃は逃げようとした蜂に突き刺さり、その体を真っ二つに両断。赤熱化した断面を晒しながら、森の中に落下していった。

 流石に体を両断されて生きているような超生物ではなかったらしく、蜂はもう飛び上がってこなかった。

 それにティファとサラは一息つき、ゆっくりと降りてきたスプライシングを見上げた。

 

『2人とも、怪我は?』

「大丈夫。間一髪だったわ」

「吹っ飛ばされて転がったけど、その程度よ。あと顔面ダンク」

『そ、そうか……まぁ、無事ならよかった。じゃあ2人とも運ぶけど……どうする? 手に乗せてくか、コクピットに無理して乗るか……』

「じゃあトウマは降りて歩いて。あたしがスプライシングに乗って膝にティファで」

『帰るわ』

「冗談!! 冗談に決まってるじゃない!!」


 にしては笑えない冗談だとはトウマの談。

 流石にふざける場面じゃなかったとサラも本当に少しだけ反省し、結局はスプライシングの手に乗って運んでもらう事となった。

 若干握りこむような形になっているが、しっかりとホールドされてる分、安定感はそこそこある。

 

「でも、結構乗り心地は悪いわね……それで、トウマ。何があったの?」

『俺もよく分かってない。ただ、気が付けばあの蜂型の原生生物がテラフォーミング船団に襲撃してきて、今は軍のネメシスが対処してる』

「そう、あの原生生物が……ってか蜂って怖いわね。わたし、あんな生き物初めて見た」

「あたしもなんかの映像で見ただけ。でも、もっと小さかったと思うんだけど……」

『普通あんなデカい蜂いねぇよ。しかも形的にスズメバチか? 少なくともミツバチって感じじゃなかったし、相当ヤバい奴かもな』


 蜂のような甲虫に近い虫なら見れる程度には苦手じゃなくてよかった、と零すトウマ。実は虫はちょっと苦手である。

 そんな感じでトウマが情報を共有しながらスプライシングで飛んでいる最中だった。

 ブーン、と耳障りな音が周囲から響いてきた。

 それと同時に周囲の木々の中から巨大な蜂が飛び出してきた。

 

「げっ」

『こんなに居るのかよ!? ティファ、サラ、コクピットに!!』

「えっ、ちょ!?」

「仕方ないわね……!!」


 一体だけならまだしも、流石に何体もの……想定十体以上の蜂を相手にして、両手を塞いだ状態では戦えない。

 いや、戦えないこともないが、戦闘機動を行おうものなら両手の2人がGで潰れてしまう。

 それが分かっているサラはコクピットが開き、スプライシングの手の力が緩んだのを確認してからコクピットに乗り込み、ティファは暫くしどろもどろしていたが、サラとトウマに手を掴まれ無理矢理コクピットに入れられた。

 

「流石に狭い……! サラはシートの後ろに行って適当な所に掴まって、ティファは俺の膝の上に腰かけろ!」

「ちょまっ、流石に膝の上は……」

「座んねぇとコクピットの中でシェイクされるぞ! 真面目な話だから従ってくれ!!」


 実際にはサラもコクピットの中でシェイクされかねない位置なのだが、普段からネメシスに乗っているサラよりも乗り慣れていないティファの方が安全の為にトウマの膝の上に座るべきだ。

 サラはすぐに従ってシートの裏にまわり、適当な場所を掴む。

 ティファは顔を赤くしたままだったが、業を煮やしたトウマが無理矢理横抱きする形でティファを自分の膝の上に座らせ、操縦桿を握った。

 

「ちょ、変なとこ触ったら殺すからね!?」

「善処する! サラ、激しく動かすから死なない程度に受け身取れよ!」

「動かし方も善処してほしかったわね!」


 とはいうが、既にサラは適当なところを掴んでショックが来てもいいように耐えている。

 それを確認する間もなく、体当たりでもしようとしているのか突っ込んでくる蜂を見てトウマは即座に上昇。戦闘機動特有のGがコクピットを襲う。

 

「きゃっ!!?」

「ぐっ……!」

「コクピットが姦しい……!!」


 女性陣2人の声を聞きながらも蜂からの体当たりを避け、S.I.V.A.Rを構え三発放つ。

 三発放った荷電粒子は三体の蜂の胴体と顔面を貫き、焼き切る。

 その光景を見た蜂は同族が殺されたことに怒ったのか、尻の針をスプライシングに向けた。

 

「トウマ、あの針撃ってくる! 爆発する!!」


 Gで余裕がないサラが、何とかトウマに最低限の情報を伝える。

 それを聞いたトウマは盾を構えるが、その衝撃にティファとサラが耐えられないと判断し、盾で受けるのは無く空中での回避に移る。

 しかし、その一瞬の判断の迷いのせいで針が脚部に直撃して爆発。凄まじい振動がコクピット内に伝わる。

 

「きゃああ!!? もう嫌ぁ!!」

「くっ、大丈夫トウマ!?」

「こっちのセリフだよ!! ダメコンは……クソッ、右脚部にレッドアラート! 壊れちゃいないが半壊だ!!」

「あいつらの針は一発撃ちきりよ! 後は右足に負担が行かなきゃ大丈夫!!」

「その情報マジで助かる!」

「あと、あたし達の事は気にしないで戦いなさい! さっきみたいにあたし達の事を考えて被弾するのが一番マズいわ!」

「くそっ……すまん、そうする!!」


 ティファはトウマの操縦に回され悲鳴を上げているが、サラは何とかシートにしがみつき、モニター越しに敵を睨んでいる。

 トウマの操縦は、サラよりも荒っぽい。しかし、それでも何とかしがみついている辺り、ネメシス乗りの意地が感じられる。

 動きが鈍くなった右脚部は使えない物として判断し、右足へのエネルギー供給を遮断。更に推進剤を右脚部へと送るのも中断させ、これ以上の被害が出るのを防ぐ。

 が、その瞬間トウマの直感が警笛を鳴らす。

 即座にその場で回避運動を取ると、体当たりを仕掛けてきていた蜂がスプライシングが居た所を通り過ぎていった。

 

「トウマ、残りの敵は七体、前方と右側、L字を組まれてる! 針は残り三本!!」

「マジ助かるぜサラ!!」


 トウマが戦いやすいようにと声を張るサラからもたらされる情報は、戦場においては最も重要だ。


「悪いがお姫様達が乗ってるんでね!!」


 叫び、S.I.V.A.Rを放つ。

 放ったS.I.V.A.Rは避けられるが、即座に追撃で撃ったもう一撃が蜂を串刺しにして貫く。

 更に荷電粒子を放ったまま振り回すことでその近くに居た蜂を溶断する。

 これで残り五体。

 

「あの世に行ってもらうぞ!!」


 盾を背中にマウント。右手にS.I.V.A.R、左手にビームセイバーを持ち、S.I.V.A.Rを撃ちながら突貫。

 蜂たちはそれを避け、その内三体が尻を向ける。

 針の発射体勢だ。


「ティファ、歯ぁ食いしばって我慢しろ!!」


 それを見た瞬間に左手のビームセイバーを手首ごと回転させ、即席のビームシールドを展開。それで蜂の針を防ぐ。

 ビームに焼かれた針は爆発し、コクピットにまで振動を伝えてくる。しかし、損傷は軽微。左腕部もまだまだ余裕で動かせる。


「撃ちきり飛び道具なんざぁ! 防いじまえば怖くもなんともねぇんだよ!!」


 これで敵の飛び道具は無くなった。

 それ故に体当たりをしかけてくる残りの蜂。しっかりと挟むように前後を位置取り迫ってくるが、あちらから突っ込んでくるのなら好都合だ。

 体当たりを見切り、躱したところでビームセイバーの一太刀を浴びせ、更に右手のS.I.V.A.Rを放ち、合わせて2体の蜂を撃ち落とす。

 しかし、ここで蜂達はスプライシングに再び突っ込むのではなく、尻を見せてそのまま逃げようとする。


「劣勢を悟った? 虫が賢しい事を!!」


 逃げていく蜂に向かって追撃のS.I.V.A.Rを放つ。しかし、S.I.V.A.Rは二体の蜂を焼いたのみで、残りの一体はそのまま逃げて行ってしまい、S.I.V.A.Rの射程外まで飛んで行ってしまった。

 それを見送ってトウマは舌打ちをしながらS.I.V.A.Rを下ろし、ビームセイバーを腰にマウントしてから盾を手に取る。

 

「仕方ないか……ティファ、大丈夫か?」

「もうやだ……」

「大丈夫そうだな。サラは?」

「なんとかー」

「よしよし。そんじゃ、とっとと帰るぞ。あと、サラは帰ったらすぐにパイロットスーツに着替えてくれ」

「着替えるって……まさか」

「あぁ。お仲間の所にも蜂は行っている。戦いはまだ続くぞ」


 急ぎ、スプライシングは船へと帰投する。

 しかし、戦いはまだ始まったばかりなのであった。

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