君に会いたくなかった

『だから、俺はあいつ等迎えに行かないと!! って、ティファとサラ! お前ら無事か!?』

「ちょっ、どうしたのよそんな声張って。当たり前じゃない」

『よかった、すぐ迎えに行くから無暗に動くな! 俺も仲間を迎えに行ったらそっちに行くんで、ちょっとだけ時間を――』


 ぷつっ、と音を立てて通信が切れた。

 なんだかトウマの声色からして、非常事態が起こっているような感じだった。

 いやそんなまさか。

 だって宙賊が降りてきた様子も無いし。原生生物だとしたら、それ如きでそんな大袈裟な。


「ったく、トウマったらやけに焦って……」


 振り返ってサラにトウマの焦りっぷりを報告しようとしたが、振り返ってすぐにティファの表情が固まった。

 

「ん? どうしたのよ。トウマがどうしたって?」

「さ、サラ、う、うし、うしろ……」


 ティファが顔を青くしながらサラの後ろを指さした。

 だから何が、と思いながらサラが後ろを向いた。

 

「……oh………」

 

 そこにあったのは顔だった。

 人間のではない。

 コロニーではまず見ることがない虫のだ。

 トウマが見れば蜂とすぐに答えただろう。

 その顔が、ドアップで、サラの目の前にあった。

 具体的には、サラの身長よりも更に大きな顔が。

 まぁ、つまりだ。

 巨大なハチの顔面が、ジッとティファとサラを見つめていたのだ。

 ほぼ零距離で。

 

『――ぴゃああああああああああああああああああ!!?』


 直後、2人は同時に振り向いて、変な声をあげながらダッシュした。

 

「ねぇ何あれ何あれ何あれぇ!!?」

「知らない知らない知らない!! 原生生物原生生物!!」

「デカすぎんでしょうがあ!!」

「ひぃぃぃぃ、後ろからブーンって音する!! ブーンって音するぅ!!」

「凄い風圧も感じるぅ!! アレ飛んでるの!? あの生物って飛ぶの!!?」


 美少女2人が醜態を晒しながら走っていくが、そんなもの原生生物さんには関係ない。

 原生生物さんは飛び上がり、2人の真上に陣取る。なんとか2人も空に居る原生生物から距離を離そうとするが、流石に体の大きさが違う。

 全長十メートル近いその巨体はネメシスにすら匹敵する大きさであり、間違いなく巨大生物と呼べる存在だ。

 過去テラフォーミングでこういう生物と一度も鉢合わせる事がなかったかと言われれば否だが、大体は事前にこういうのが居ないかを確認してからテラフォーミングに入るため、こういうのと出会う事は殆どない。

 殆どないはずだったのに。

 

「ねぇなんかアイツお尻向けてる!! こっちに尻向けてる!! なんか針が付いた尻向けてる!!」

「あんなんで刺されたら即死よ即死!! 頑張って逃げ――」


 直後、空を陣取っていた蜂型原生生物の尻から針が飛んできた。

 文字通り、針がそのまま。

 

『ぎゃああああああああああああああ!!?』


 なんとか2人はその針を避けたが、針が着弾した風圧で体が吹き飛び、更に針がその場で謎の爆発を起こしたことで更に2人の体が吹っ飛ばされる。

 ノーマルスーツのおかげで傷こそないが、流石に全身が痛い。だが、流石は多少の衝撃は吸収してくれるノーマルスーツだ。これぐらいなら2人もちょっと痛い程度で済む。

 

「針飛ばすとかざけんな!!」

「生き物!? あれ本当に生き物!? BC兵器じゃないの!!?」


 違います。


「あ、でも針は一発撃ったら終わり、みたい?」

「終わりだとしてもアレに捕まってガジガジされたら死ぬっての!!」

「それもそう!!」


 という事で逃走再開。

 蜂さんもアレで仕留められなかったことから第二プランに映ったのか、二人を直接捕まえようとしてくる。

 捕まったらジエンドである。

 

「ってかトウマ!! トウマまだ!!?」

「もうすぐ来てもいいと思うんだけど!!」


 こうなると助かる道はただ一つ。トウマの助けだけだ。

 こっちに来てくれるって言ってたし、距離的にもそろそろ到着してもいい頃なのだが――

 

『ティファ! サラ! 伏せてろ!!』


 その直後だった。

 上空からトウマの声が響き、物凄い風圧と共に遠くからスプライシングSpec-Ⅱが半ば落下するようにこちらへと迫ってきた。

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