自然

 忘れているかもしれないが、テラフォーミング船団の本業は惑星をテラフォーミングすることにある。

 それには未開の惑星に降下し、そこの大気成分を調べ人間が居住可能な空気へと作り替え、更に自然もある程度残しておきつつ持ち込んだ植物を環境を破壊しない程度に増やさなければならないという割と大変なことをしなければならない。

 しかし、その中でも特に大変なのは初期の大気成分を調べるところにある。

 惑星に降下してすぐに行う作業の為、時には原生生物に襲われ、時には遠いところで待機していた宙賊が惑星に降下してきて襲われる可能性まである。故に、この惑星降下からテラフォーミング開始までの期間は戦力を水増ししてでも安全を確保する必要がある。

 もっとも、今回は宙賊の危険性がほぼほぼ消失しているので大分イージーゲームなのだが。

 

「へぇ、ここが今回テラフォーミングする星なのね。」


 そんな星に既にティファ達三人は降り立っていた。

 普通、傭兵は大気圏外で待機しておくのだが、この三人はネメシス戦における戦闘力が認められたことに加え、周辺宙域の宙賊が狩られたため大気圏外の危険度が下がった事が要因でテラフォーミング船団について行き、原生生物からの船団護衛を任されることとなった。

 とはいうが、原生生物なんて基本的にテラフォーミング船団に傷一つ付けられないため、この立場は半ばご褒美みたいなものだ。

 テラフォーミング前の星なんて降りたくても降りられないので、こういう時でもないと降りられないのだ。それを許された上に三人は遊撃というポジションに付けられたため、多少ならそこら辺を観光したりもできたりする。

 もっとも。

 

「自然一杯だが……このノーマルスーツどうにかなんねぇの?」

「なんないわね。ここの植物、どうも半分以上が酸素を吸って二酸化炭素を吐き出しているみたいだし、空気成分も人間が生きれるようにできていないから、ヘルメット外した瞬間とんでもないことになるわよ」

「うげー……なら俺船にいるよ……」

「なんでよ。こうも自然に触れられるなんて結構貴重なのよ?」

「俺にとっちゃ電車で数時間も移動すりゃ触れたモンだから、綺麗だとは思うけど自由に息できないならうっそうとしてるだけなんだよ」


 この星はテラフォーミングが必要なくらいに空気成分が人間に合っていないため、どうしてもノーマルスーツが必要となる。

 ノーマルスーツは耐Gスーツことパイロットスーツほど動きやすくもなく、酸素供給のための装置も結構重くて邪魔になる。故にトウマからしてみると結構邪魔なのだ。

 ならばパイロットスーツならいいだろう、という事もなく、パイロットスーツもパイロットスーツで結構ピッチリしているし、ノーマルスーツと同じだが、髪が額に張り付いてもヘルメットのバイザーを上げられない。くしゃみでもしようものなら大惨事だ。

 ついでにトウマからしてみれば自然なんてそうレアな物でもないので、相対的に船に居た方がマシと思えてしまうのだ。

 

「あー、そういやあんた原始人だっけ。タマに忘れるわ」

「原始人言うな失礼だな。そりゃお前らからしたら原始人みたいなもんだけども」


 とにもかくにも。

 

「俺ぁ船に居るから、お前らは観光してろ」

「船で何すんのよ」

「ゲームしてるよ。生憎、積みゲーだけならそこそこある」


 この時代のゲームはどれもこれもトウマからしてみれば最新ハードを超えるスペックのゲームばかりだ。

 世の中の情勢次第で色々と内容が違ったりもしているが、それでもボリューム、完成度、グラフィック全てがトウマからしてみれば最新のゲームとは一線を画すそれらは暇潰しには十分だ。

 ロボゲーも沢山ある。それらの実写の如き映像を見ながら白米を食べるのがたまらないのだ。

 

「という訳で、なんかあったら呼んでくれや。スプライシングで飛んでいくからさ」


 そんなわけでトウマは早足で船に向かって帰っていった。自然に興味ない現代っ子なんてこんなもんである。

 現代っ子を見送った後、2人は顔を合わせて肩をすくめた。

 折角の天然な自然なのに、という表情だ。

 

「しゃーないわね。わたし達で周りを見てきましょうか」

「そうね。ところで、ここら辺の木って持って帰ったらいい値段で売れないかしら?」


 天然の生木はそこそこ高価ではあるが、三人にとっては小遣い程度の額にしかならない。故にティファはスペース圧迫して邪魔なだけだし、とサラの言葉は却下した。

 だって生木取っていくよりも宙賊の船売った方が楽で儲かるし。

 そんなわけで2人は珍しい自然の中をボーっとしながら歩いていた。この時代、こんなことができるのは相当贅沢である。

 

「そう言えば、サラの家にもちょっと自然あったじゃない? ああいう所に入ったりしないの?」

「あそこは自然の保護区にしてるの。なるべくそのままにしましょうって。だから、無暗に入れないのよ。どっちかと言うと国の法律だから、流石に貴族でも逆らえないの」

「ふーん、そういうもんなのね」

「そういうもん。ただ、偶に自然の中に入れる惑星に旅行に行ったりはしたけど。ティファはコロニー育ちだから、こういうのは初めて?」

「ン、そうね。自然に触れる星なんて行く機会なかったし」

「まぁそうよねぇ」


 一応、人工というよりも半ば遺伝子組み換えの極致みたいなもので木と同質のものを作り上げ、それを加工して木製の家具などを作る事はできるのだが、それでもそこそこ高い。天然の木材の家具なんて貴族でも使う事は殆どない。

 まぁそもそも、機能面から見てそういう家具は使うのではなく飾る事が殆どだが。

 

「そう思うと、アイツって結構贅沢な生活してたのね」

「わたし達視点から見てみるとね。カルチャーギャップよ、カルチャーギャップ」


 そんな、中身が殆ど詰まっていない会話をしながら2人は森の中を歩いていく。

 一応、端末でマッピングしながら歩いているので、万が一にも迷う事は無いだろう。迷ったとしても緊急用の無線もノーマルスーツには取り付けてある。

 しかし、だ。

 

「森の中って結構静かね」

「そうね。わたし達が歩いている音と、遠くの船団からの音しか聞こえない」


 この森、やけに静かだ。

 2人はそういう物だと勝手に理解して進んでいるが、それにしても静かだ。トウマなら自然の珍しさよりも不気味さに口を開いていたくらいには。

 鳥の飛ぶような音も聞こえなければ、虫一匹いない。更に動物が歩いたような跡もなく、木も傷一つなくそびえている。

 人間の手が入っていないと言えばそれまでだが、人間以外の如何なる生物の手も入っていない。

 そんな事をトウマなら思ってしまうくらいには。

 小一時間ほど歩いていあるのにも関わらず、鳥の声一つ聞こえないのだ。

 

「しっかし……整備されてない地面って案外歩きにくいわね……もう疲れてきた……」

「た、確かに……なんか時々石踏んで変な力入るし……」


 整備された道しか歩いたことがない2人は早々にばてている。アスファルトとコンクリートの上なら小一時間歩く程度、どうという事も無いのだが、こうも整備されていないとどうしても疲れてきてしまう。

 そんなわけで2人は帰ることにした。

 だって案外やる事も無いし。

 

「んじゃ、トウマに連絡入れましょうか」

「そうね。どうせなら迎えに来てもらう?」

「それ賛成。どうせトウマだし雑に使っていいでしょ」


 この女性陣、そこそこ人の心がない。

 そんなわけでアッシーとしてトウマは呼び出されることになった。勿論、緊急用の無線ではなく、端末でだが。

 通話をしてから暫くすると、トウマとの通話が繋がった。

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