S.I.V.A.R

 スプライシングSpec-Ⅱがその手に持ったライフルを構える。

 バックパックから伸びるケーブルが繋がったライフル。それを構え、一瞬で狙いを付ける。

 エネルギー供給は十分。狙いは完璧。弾道の変化も、ティファは起こらないと断言した。ならば、真っすぐ照準を定めるだけで当てられる。

 

「――当てるッ!!」


 トリガーを引いた。

 その瞬間、緑色の光が独特な音と共に発射され、迫りくる砲弾を、偶々弾道上に移動してしまったネメシスを易々と貫き、敵の砲台へと直撃した。

 直撃した荷電粒子砲は着弾地点を赤熱化させ、溶断。それにより砲台内部の砲弾に着火し、派手な爆発を起こした。

 

「うおっ、マジか!!?」

『ネメシスを貫いたわよ!?』

『うーん流石わたし。完璧ね』


 これこそが、この世界で初めてのビーム射出兵器。S.I.V.A.Rが敵を穿った瞬間だった。

 その威力はまさに既存の兵器と比べても桁違いだ。

 その光景は敵からしても衝撃的だったらしく、先程まで一気呵成にこちらを攻撃しようとしていた宙賊達も、思わずたじろいでしまっている。

 もしもあれが直撃したら、というもしもを考えているらしい。

 

「……こんなに当てやすい上に射線も気にしなくていいんなら、このまま他の砲台もやっちまうか!!」


 その光景は正しく鬼に金棒。持たせちゃいけないやつに持たせちゃいけない物を持たせた結果だ。

 スプライシングSpec-Ⅱが持つS.I.V.A.Rは次々と敵基地の砲台に狙いをつけ、引き金を引かれたことで荷電粒子を放つ。それにより、次々と砲台は火の手をあげながら爆発していく。

 賊のネメシスもなんとかそれを止めようとマシンガンを放つが、スプライシングとラーマナはそれを当然のように避け、カウンターの荷電粒子やレールガンで次々とネメシスを宇宙の塵に変えていく。

 多分弱い者苛めとはこういう光景の事を指すのだろう。今まで弱気を搾取してきた外道たちが、正義と秩序を振りかざした化け物共によって駆逐されていく。

 第三者視点では明らかに宙賊達の方が被害者だが、この光景で称賛を与えられるのは正義と秩序の化け物三匹の方だ。

 

「すげぇなコレ!! 撃ったら敵が爆発するぞ!!」

『えーいいなー! あたしも撃ちたい!!』

『サラにはアーマードブラストがあるでしょ? また今度ね?』

『ぶーぶー』


 これが悪党を狩りながら行われる会話である。

 もうどっちが悪党か分かったもんじゃない。

 通信越しに聞こえてくる命乞いと悲鳴はあまりにも多すぎるのでシャットアウト。次々と爆散する敵の基地とネメシス達というイカれた光景は、そろそろあの馬鹿共も死んだやろと思ってハイパードライブで移動してきた軍の人間がドン引きする程度にはひどい光景だった。

 敵の基地の様子はたった二機のネメシスによってもたらされたとは思えない程で、大分頑張って集めたのであろう宙賊の努力と汗の結晶であるネメシス達は光が走る毎に爆散していく。

 本当にこの妖怪共がまだ一般的な良識と道徳心を持つ人間で良かった。

 

『そ、その……これは、一体……』

『あぁ、何、来ちゃったの? もうすぐウチの突撃部隊が砲台全部ぶっ壊してネメシス全部破壊するから、後はそっちに任せるわ。あっ、砲台とネメシスの残骸は契約通り、こっちで持てる分だけ持ってくからね?』

『それはいいのだが……その、我等の面子もあってだな……』

『え、何よ。全部やられると不満? ならあいつ等帰らせるわ。おーい、そこの2人、もう撤収だって。後は軍がやるって』

「マジ? まだ撃ち足りねぇよ俺」

『あたしもまだ何もしてないんだけどー』

『いいから戻ってきなさい。あっちにも面子とか色々とあるのよ。ほら撤収』

「うーっす」

『はーい』


 という事でここで妖怪共は撤退。ジャンク集めをせっせとしているのを尻目に、軍は化け物を刺激しないように前進。そのまま僅かに残っていたネメシスを倒し、敵本拠地に取り付いたのだった。

 それからは白兵戦となったためティファ達には詳細は分からないが、そこそこ激しい抵抗があったものの何とか敵本拠地を制圧。周辺宙域とテラフォーミング船団の悩みの種となっていた宙賊は無事、お縄についたのであった。

 ちなみにそれからテラフォーミング船団が降下するまでの数日間、この化け物達は軍からのお願いだからこちらの面子を立てるために大人しくしていてくれという懇願により、敵が来ないであろう場所に割り当てられ、暇な時間を過ごしたのであった。

 

「ったく、面子やらなにやら……軍って面倒ね」

「全くだ。別にいいじゃん、俺等も常識的な金額で賊退治してたんだからさ」

「どっちの立場も分かる以上すっごいフクザツ」


 ちなみに化け物のうち2名はブツブツと文句を言っており、1名はモヤモヤしながらも理解できるんだよなぁ、と煮え切らない思いをしていましたとさ。



****



あとがき失礼します。

今回はビーム兵器ことS.I.V.A.Rについて


S.I.V.A.R

ティファの作り上げたビームライフル。放つのはレーザーではなく荷電粒子なので光が見えたら即着弾する訳ではない。変態なら回避可能。

現在は有線でエネルギー供給をしているが、近々無線になる予定。

火力はネメシスを数機纏めて打ち抜く程の高火力。軍の大型船すら真正面からなら貫く事が可能。

また、この武器は重力による弾の落下、風により着弾先がブレるという事が無いので、狙った場所に確実に着弾する。

更に、一時的にエネルギーを大量に使ってビームを放った状態で振り回す事でビームを薙ぎ払う事も可能。細くて短いライザーソード。

割とマジで数百年後にようやく作られるレベルのオーパーツ。ティファの進化が留まることを知らない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る