理解不能

「しっかし、結構ジャンクが集まったな……これ、どこで売るんだ?」

「船団の中にジャンク屋が居るのよ。そこに持っていくわ」

「って事は、一旦持ち場を離れないとね。許可は?」

「明日取ってあるわ。だから、明日はそこへ行ってジャンクの運び出しね」


 山のように積み重なる鋼の山を見上げながら、ティファはどんな値段で売れるか、と頭の中でソロバンを弾いている。

 そんなティファを見て、サラは欠伸をしながら自分の部屋へと戻っていった。

 トウマも後の事はティファに任せて自分は適当に寝るか、ハインリッヒ騎兵団の所に居た頃からの癖になってしまったトレーニングでもしにいくか、と格納庫から出ていこうとしたのだが、ティファはそんなトウマを一旦呼び止めた。

 

「どした?」

「こんなタイミングだけど、ちょっと嬉しい誤算のお時間よ」


 嬉しい誤算? とトウマが首を傾げる。

 何かあったっけか。

 

「ラーマナにはアーマードブラストっていう専用装備を作ったでしょ?」

「そうだな」

「だから、スプライシングには新しい武器を作ろうって思ってたの」

「うん」


 そう言えば直近でビームライフル云々言っていたような。


「で、昨日あたりにふと一つの案を思いついて、さっきまでシミュレーターを走らせてたのよ」

「嫌な予感がする」

「そしたらね、できちゃった♡」

「何が?」


 凄く嫌な予感がしてきた。


「荷電粒子砲。アンタ風に言うなら、ビームライフル」


 ビームライフル。

 この時代では軍が使う航宙戦艦ですら搭載できていない、幻の武装だ。完成するのはあと何百年後か。次の世代のネメシスに搭載されれば早い方かな、なんて言われていたくらいだ。

 それを目の前のロリっ子は完成させてしまったらしい。


「……こいつ、とうとうやりやがった!!?」

「これは技術的ブレイクスルーしちゃったって言っても過言じゃないわねぇ」

「過言じゃないけど……! 確かに過言じゃないけど……!!」


 控えめに言って化け物の所業である。

 この時代にも天才と呼ばれる存在は何人もいる。それこそ、色んな国の色んな研究所には天才達がそりゃもうたくさんいる。

 しかし、目の前のロリっ子はその天才たちを軽く超えていると断言できる。

 だって、まだどの企業も、どの天才も基礎理論すら作れていないビームライフルという代物を、できちゃった。なんて言っているんだから。

 

「っつ―事で、よ。トウマ、スプライシングは荷電粒子砲を持たせる関係上、今までの強さとは別次元の強さになるわ。だから、名前も新しい物に変えようと思っているの」

「な、なるほど? いいんじゃないか?」

「ただ、もう一個追加で武装を付けようかなーって考えているの。とんでもないやつ」

「とんでもないやつ」

「うん。とんでもないやつ。だから、そのとんでもないやつができるまで、荷電粒子砲を装備したスプライシングは一旦、『スプライシングSpec-Ⅱ』って呼ぶことにするわ。で、とんでもないやつができた後の名前は……まぁ、お楽しみね。アンタ好みの名前になってるはずだから」

「お、おう……そのとんでもないやつのことを聞くのが俺こえぇよ……」

「まぁ、そうねぇ……機体スペックでレイトを完封できないかなー、なんて思って作った武装だし……」

「えぇ……何作る気なのお前……こわ……」


 もはや相棒の事が怖い、と思ってしまうトウマ。

 少なくとも、ビームライフル並みの技術的ブレイクスルーが起こるのではないか、という予感はしている。

 果たしてそれは合っているのか。それとも、それを超えるナニかが出てくるのか。

 トウマはニヤニヤしている相棒に恐怖を覚えながら、そそくさと格納庫を去るのであった。

 なんかスプライシングの盾よりも小さめの、なんか可変しそうな2枚の盾が格納庫の端っこに置いてあるのを、極力視界に入れないようにしながら。

 

 

****



 スプライシング専用荷電粒子砲。この武装はどんな機体も装備できるという訳ではなく、一旦スプライシングの専用武器となることとなった。

 その理由は、荷電粒子砲に必要なエネルギーの問題があるからだ。

 この武装を実用レベルで使うには、少なくともスプライシングPRが積んでいる旧ラーマナの動力炉があってようやく実用レベルになる。そのため、動力炉はあくまでも既製を改造しただけのラーマナABでは使えなかったのだ。

 もちろん、ラーマナAB用の荷電粒子砲は後程作るとして、一旦完成した荷電粒子砲はスプライシング専用となったのであった。

 その名を、Straight Impact Vanish Attack Rifle。S.I.V.A.R(シヴァ)だ。


「一応言っておくと、まだS.I.V.A.Rは試作の領域を出ないわ。だから、スプライシングからのエネルギー供給にはアナログだけど、エネルギー供給用ケーブルを使って行う事になるわ」

「なるほど……ちなみにこれ、邪魔になったらパージしていい系のやつ?」

「いいわよ。誰かに拾われても、多分誰もリバースエンジニアリングできない程度にはブラックボックス化しておいたし」

「やっぱこいつおかしいわよ……」


 試作S.I.V.A.Rと命名されたソレはスプライシングに装備させられたが、まだ施策であるS.I.V.A.Rは通常のライフル同様、単体で機能を発揮するという事ができず、動力炉から伸びるケーブルが無ければ動かない代物になっていた。

 勿論内部構造はティファにしかわからないようにブラックボックス化してある。まぁそもそも、S.I.V.A.Rを放棄するような戦場でS.I.V.A.Rが原形を保っていられるとは思わないが。

 

「S.I.V.A.Rは荷電粒子砲よ。だから、レーザーみたいに光速で飛ぶわけじゃないわ。弾速こそライフルより速いけど、一応弾は目視で確認可能よ。撃ったら当たるってわけじゃないから注意して」

「まぁ、そこら辺の偏差はやりながら慣れるよ」


 当て方は慣れれば問題ない。

 一番問題なのは、その威力だ。

 

「威力に関しては、そうねぇ……盾に2回当てれは盾に穴が開く感じかしらね」

「イカれてんだろ」


 通常、ネメシスの盾という物は高威力の武装でもそう簡単には壊れない性能をしている。それこそ、ビームセイバーの斬撃だって一回程度なら何とか防げる程度には厚く、堅い。だからこそトウマだって全幅の信頼を置いて盾を構えているのだ。

 それを2発でぶち抜くという事は、それこそビームセイバーの斬撃がそのまま飛んでいくようなものだ。

 これがゲーム時代に存在しなくてよかったと本気で思える。もしも存在していたらゲームバランスはビーム一強の時代に突入していただろう。

 

「こいつを装備した以上、スプライシングは完全に既存のネメシスの枠を超えているわ。わたしが乗っても大型ズヴェーリに勝てる程度にはね」

「だからこその改名ってわけね。スプライシングSpec-Ⅱだったかしら」

「そういう事。名前に関しては……アンタ等二人に任せるととんでもなく長くなりそうだし却下」


 結局正式名称で呼んだことの方が少ないスプライシングPRの事を頭で思い浮かべながらティファはそんな事を口にした。アレはトウマとサラの案をガッチャンコした結果だ。


「とにかく、早くS.I.V.A.Rの試し撃ちもしたいし、馬鹿な賊とか来ないかしら」

「そういう事言うと本当に来そうなんだけど……」


 なんだかいつも、何かしようとするたびに湧いてくる宙賊の事を思い浮かべながら、サラは苦笑した。

 したのだが。



****



あとがきになります。

今回はサラッと改名されたスプライシングについて


スプライシングSpec-Ⅱ

スプライシングPRに有線式のビームライフルことS.I.V.A.Rを装備した姿。S.I.V.A.Rについては後日解説。

少なくとも今までのライフル装備時とは戦闘力に差が出る状態となり、V.O.O.S.Tも含めスプライシングが一つの完成形に到達したという意味を込め、Spec-Ⅱの名を与えられた。

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