荒野のヒース

「……えっ、来ないんだけど」


 それから一週間ほど。ティファ達がテラフォーミング船団に合流してから十日近い日数が経った頃だった。

 なんと宙賊はティファ達の管轄内には一切現れず、他の管轄の所に湧くようになった。

 いつもなら嫌という程、宙賊は湧いてくるというのに。

 思わずトウマが驚いていると、ティファはあーね、と口を開いた。

 

「実はサラが破壊した船の通信ログとか引っこ抜いてみたのよ」

「いつの間に」

「そしたら、わたし達の管轄の所はヤバいのがいるから近づくなって通信が最後の最後に飛んでいたらしくて……」

「なんじゃそら」


 どうやら賊も一応学んでいるらしい。ヤバい奴らに喧嘩を売ってはいけないという事を。

 20機もの、世代遅れとはいえしっかりと戦えるネメシスを用意したというのに返り討ち。しかも撤退できたメンツがいないという始末。これには流石に宙賊もマズいと判断したのか、他の所を突っつくようになったのだという。

 そこまでやるのなら悪行なんて重ねなければいいのに、と思わなくもない。

 しかし、そうなるとひたすらに暇だ。

 

「だーかーらー」


 暇ゆえにトレーニングルームに籠るしかないか、なんてトウマが思った矢先だった。

 ティファがホログラムを投影し、そこに何かを表示した。

 見てみれば、それは周辺宙域の星間図だという事が分かる。テラフォーミング予定の星が強調されており、その横には自分たちの船のマークが。そこから大体10光年ほど先の所に、赤く光るマークが映っている。


「奴らの通信の送信先を特定して、ついでにジャンクになった船の航海路をサルベージして、敵本体の位置を逆探知してみたわ」

「それサラッとやれること?」

「やれないわよ。だから一週間もかかったんじゃない」


 どうやらティファは一週間かけ、元船だったジャンクから宙賊の本拠地を割り出してしまったらしい。

 いつもはそんな事せずに軍にお任せしているのだが、今回はティファ自身の手が空いてしまい暇だったため、暇潰しがてら手を付けてみたらしい。勿論、こういうのは専門家が何人か集まって時間をかけてやるようなことである。

 相変わらずこのロリっ子、とんでもないことを平然とやってのける。

 

「こーいうハッキング染みたのは専門外だから時間がかかったわ」


 専門外なのにやり遂げてしまう方が異常である。

 

「という訳で、これを船団の上の方に提出したのが一時間くらい前。そろそろ軍の方で奴さんの本拠地に殴りこむ作戦が提案されるんじゃないかしら?」

「もうお仕事済みなのか……というか、船団も動くの早くね?」

「テラフォーミング船団は割と権限が強いのよ。軍もある程度自分たちの所轄で動かせちゃうくらいには。で、目先の瘤があると作業も止まっちゃうから、とっとと片づけるもんは片づけましょう、って感じ」

「なるほどね」

「で、その殴り込み部隊に参加してくれないかって話が今ちょうど来た所ね」

「お仕事はええなおい」


 ティファの映しているホロウィンドウに、丁度船団からの連絡が飛び込んできた。

 内容はティファが言った通り。作戦開始は今からなんと2時間後。所定の位置に集まってハイパードライブで迅速な奇襲をかけるのだという。参加するのは軍の部隊の他、一部の腕の立つ傭兵。

 ティファには、敵本拠地を割り出した事に対する礼と報酬。それから、可能ならこの作戦に参加してほしいという旨の連絡が来ていた。

 

「へー、暇潰しにしては結構儲けられたわね。トウマ、勿論参加するわよね?」

「そりゃもちろん。S.I.V.A.Rのテストもあるしな」

「なら承認っと。わたし達は軍のメンツと一緒に最前線の殴り込みよ」

「20機のネメシスを遊ばせておく余裕なんてないって事か」

「そういう事。ほら、トウマも準備。サラにはわたしが言っておくから」

「了解。ちなみにサラはどこだ?」

「部屋で寝てるわよ。あんたが入ったらわたしとサラで殺すから」

「オーケー絶対に近づかない」


 そもそもサラと変な事故でも起こそうもんなら貴族的な力で殺されてもおかしくない。いつハインリッヒ家の守護神ことレイトに背中を撃たれるか。

 故に怖い物には近づかず。トウマはとっととスプライシングの元へと向かうのであった。

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