半生解読
会議室のドアがノックされ、特に返事する間もなくドアが開いて1人の男が入ってきた。
手にはカメラとメモ帳……ではなく端末。間違いなく記者だろう。
「すみません、お待たせしました。他の部署の取材で少し時間がかかりまして」
「別にいいわよ。こんぐらい待たされる程度ならいつものことだし」
コロニーに対する優先的なドック使用権がなければ待たされる時間はいつも1時間ちょっとはかかる。
それに比べれば今日の待機時間は結構ヌルい。
普段はまだかまだか言いながら操縦室で待機しなければならないのだから。
「特に気にされていないのならよかった。あっ、自分は記者のハーディです。本日はどうぞよろしく」
「傭兵のティファニア・ローレンスよ。よろしく」
「サラ・カサヴェデスよ」
「トウマ・ユウキです」
ちなみにサラは貴族令嬢なので、そういう界隈に詳しい人間なら顔を知っていてもおかしくない。
しかし、そこら辺は他人の空似で押し通らせることになっている。
そのため後からハインリッヒ家から文句が飛んでくる、ということはない、ハズである。
「それでは、時間も勿体無いので始めさせていただきます。それでは最初に、お三方は何故傭兵を? まだお若い方ばかりだと伺っていますが」
「そうね。わたしは20で、サラが19、トウマが22ね」
実は3人とも、初めて年齢を口にしたときから1回誕生日を踏んでいるため、年齢が1つ増えている。
誕生日は普通に船でいいもの食って祝っていたりした。
「本当にまだお若いですね……それで、理由に関してはお聞きしても?」
「わたしは両親が傭兵だったのよ。事故で亡くなっちゃったけど。で、その時に言われたあれやこれの反動で傭兵になったってだけ」
「あたしは、ちょっと複雑な事情で口にできないの。ごめんなさい」
「えっと、俺は漂流者で、ティファに拾われたんでそのまま一緒に傭兵始めたって感じです」
「漂流者!? それは……なんでまた? 漂流者は政府の支援で不自由なく生活できるはずですが……」
「ティファが作っていたネメシスに乗りたかったから、ですね。ほんと、動機はそれだけです」
そう、トウマが傭兵を始めた動機なんて本当にそれだけなのだ。
今聞いてもティファは飽きれているし、サラも本当にこのバカは……みたいな目をしている。
質問をしたハーディもなんだか困ったような笑顔を浮かべている。
「な、なるほど…………で、では次の質問ですが」
どうやらトウマという馬鹿については流すことに決めたようだ。
流石プロの記者。面倒を回避する方法をよくご存知で。
「ぶっちゃけて、今皆さんってどれくらい儲けてるんですか?」
「依頼にもよるけど、ズヴェーリ討伐なら──」
別に隠すことでもないし、とティファが結構生々しい金額を口にする。
ちなみにこの金額はスプライシング、ラーマナの整備、弾代差っ引いてティファ、サラ、トウマに分配される報酬を合わせた額だ。
ちなみに、十分にとんでもない金額である。
一回でロールの年収分以上を稼いでいる感じである。
「そ、そんなに!?」
「えぇ。ただ、わたし達が受ける依頼って中型から大型のズヴェーリ討伐と宙賊の討伐だから、これだけ割がいいのよ。わたしが1人でやってた頃は、だいたい1日1万ってところね。それで船の整備費とか生活費を差っ引いて、2000ちょっと手元に残ればいいって感じ」
そう、当時はティファだって自転車操業を頑張っていたのだ。
頑張って頑張って。
気がついたらなんかこんなことになっていた。
まさか拾い物がここまで仕事をするとは思ってもいなかった。
「な、なるほど……夢があるようでないような仕事ですね……」
「ネメシスを買ってズヴェーリで稼げるようになれば、確かに夢はあるわね。でも、そこまで辿り着けないと殆ど夢はないわよ」
配達やらジャンク拾いやら。
時折ジャンク拾いでとんでもないお宝を見つけられることもあるが、そんな豪運でもない限り、ネメシスを買ってズヴェーリ討伐という堅実な道を行かねば傭兵は儲けられない。
ティファ達はかなり異端ということを忘れてはいけない。
本来中型〜大型のズヴェーリは軍が動く規模である。
「やはり危険を冒さねば稼げないということですね…………では次に──」
という感じで取材は続いていく。
とは言っても、普段の生活やら稼いだ金の使い道やら、そういったことを聞かれるだけだ。
そういう質問はティファが答えられる範囲で答え、時折サラやトウマも答える。
そうやって質問に答えている間に、相手は満足したらしい。
「なるほど……傭兵は確かに夢がありますが、その反面危険な仕事ということですね」
「そういうこと。ただ、中には日雇いバイトみたいなのを中心に仕事をしている人だっているから、危険な仕事ばかりじゃないの。だから、失業した人とかは一旦生活を立て直すため、日雇いのバイトがしやすい傭兵に一時的に身を置くっていうのもよくあることよ」
「そういう傭兵の方はよくいるので?」
「んー……いるっちゃいるけど、すぐに見なくなるわね。そういう人ってとっとと次の生活の宛を見つけて傭兵やめちゃうから。ずっと傭兵をやってるのはわたしみたいに意地張った馬鹿か、頭が足りないお猿さんだけ」
それか、一旦傭兵にはなったものの貯金でなんとか生活を繋げ、次の職を見つけるか。
そのため、傭兵協会に行ってもザ・一般人な人は少なく、大抵が学生時代を下手なジャイアニズムを使って脳筋な生き方をしてきたバカばかりなのだ。
と、ここまで聞いてハーディは満足したのか、端末を懐にしまった。
「では、最後に写真をお願いしても?」
「大丈夫よ。適当に撮っちゃって」
「ありがとうございます。では、そうですね……皆さんちょっと寄っていただいて……」
ラストは写真だ。3人纏めて1枚の絵に収めるためにハーディが指示し、3人は特に何も言うことなくそれに従う。
そしてパシャリ。そこそこ自然体な写真が撮れた。
「それでは、これで取材は以上です。本日はありがとうございました」
「そういうお礼は依頼を出した協会に言っときなさい」
ハーディは笑顔のまま部屋から去っていった。それを見送り、テーブルの上の菓子をガサガサと手一杯に取ってポケットに突っ込んでからティファは立ち上がった。
「さっ、行きましょ」
「貧乏くせぇ……」
トウマの顔面に拳がめり込んだ。
前が見えねぇ。
「サラも何か言いたげだけど?」
「金あるのにそういう事するのってどうなの?」
サラの頭に手刀が叩き込まれた。
図星だと手が出るのはいけないと思います。
「貰える物は貰うのがわたしの主義よ」
そう言い捨ててティファは部屋から出ていった。トウマとサラは一回顔を見合わせて肩を竦めてから、ティファの後を追った。
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