free time

 傭兵協会のメロス国本部。それは国名と同じ名を与えられたコロニー、メロスコロニーに存在する。

 日本的に言えば東京に当たるそのコロニーは他のコロニーよりも栄えているものの、ここに住んでいる者はかなり少ない。

 メロスコロニーの中は基本的に会社やら行政機関ばかりであり、人が住むスペースというのは殆どないのだ。そのため、メロスコロニーで働く者は周辺のコロニーから電車通勤感覚でこのコロニーに通っている。

 そんな都会に初めて足を踏み入れたトウマはビル群に囲まれてどことなく懐かしさを感じていた。


「なんつーか……人口密集地ってこうなりがちだよな」

「あー……否定はしないわ」

「ついでに言うと、あたしの国の王都もこんな感じよ」


 ちらっと近くのビルに何が入っているのかを見たら、見たことなかったり見たことあったりする会社ばかり。人が住んでいるビルは見た限り一つもない。

 人が寝泊まりできる場所は、ホテル程度。

 そのホテルもポツポツとある程度だ。


「さて、なんやかんやでいい時間だし、傭兵協会の本部に行くわよ」


 車を借り、自動運転で傭兵協会本部へと向かう。

 移動の最中、すれ違う車に乗っているのは社会人であろう人間ばかり。そういうのを見ると、自由業の傭兵ってやっぱりいいよなぁ、とトウマはついつい思ってしまう。

 好きなことをして生きていく。人生マンセーだ。

 移動中は適当に雑談したり端末を眺めて暇つぶししたり。高速道路を走る車並みの速度で下道を走る自動運転の車に揺られ、気がつけば傭兵協会の本部に着いていた。

 車を降り、傭兵協会本部の建物に入り、受付へ。


「本日は何用でしょうか?」

「取材の依頼を受けてきたティファニア・ローレンスよ。とりあえずここに来たらいいって連絡受けてたんだけど」

「あぁ、今日の取材の。それでしたら、こちらに手を。本日限りの入館許可証を発行します」


 ちなみに、この入館許可証とやらもIDチップに登録されるものである。

 ティファ、サラ、トウマの順の機械に手を当ててチップに許可証を登録。こういうところにテクノロジーの進化を関してじまう。


「では、担当の者が来ますので、あちらのエレベーターから4階のエントランスに出て待っていてください」

「わかったわ。丁寧にありがと」


 入館許可を得たことで、3人はエレベーターに乗って4階へ。そして降りてすぐのエントランスで待機する。

 エントランスはそこそこ広く、椅子もあるので3人でぼーっと座って待つことができた。

 しばらく待っていると、担当者らしき女性の職員が歩いてきた。


「お待たせしました。ティファニアさん、サラさん、トウマさんですね?」

「そうよ」

「それではこちらへどうぞ。まだ記者の方は本部内の取材をしているので、お先に皆さんの取材用のお部屋に案内させていただきます」


 どうやら既に取材そのものは始まっているらしい。

 傭兵協会の本部の建物は結構大きいため、そこそこ早いうちから取材を始めないと終わらないのだろう。ティファ達はその言葉に頷き、担当の女性の後ろをついていく。


「それで、わたし達はどんな事を聞かれるの?」

「えっと、いつも通りだと、普段どういうことをしているのかとか、どういう依頼を受けているのか、とか。後は軽く一回の依頼で貰える報酬がどれくらいなのか、ですかね?」

「…………それ、わたし達で本当にいいの? わたし達って結構、その……特殊な立ち位置だけど」

「それに関しては大丈夫です。むしろ、それくらいインパクトがある方を用意してくれと言われたので」


 インパクトありすぎやしないか、とは思ったが、相手がそういうのならこれ以上は野暮だろうということで口を閉じた。

 傭兵協会的には機会さえあればこんなに儲けられるということをアピールしたいのだろう。

 そして取材班的には、インパクトのある傭兵に取材がしたい。

 その2つがいい感じに満たせたのが、ティファたちだったということだ。


「あ、着きました。この部屋ですね。取材が終わったら自由時間ですので、本部内を見学するなり、帰るなりお好きにしちゃってください。ちなみに、ここの食堂は結構安い上に味もいいのでオススメです」

「そういうことなら最後は食事だけ食べて帰ろうかしら。そんじゃ、案内ありがと」

「いえいえ」


 ということで、3人は暫く割り当てられた部屋。会議室のような部屋で待機することに。

 机の上にはご自由にどうぞ、の紙と共にお菓子が置いてあったので、ありがたくいただくことに。

 カレー味のチョコとか味噌汁味のグミとかもう滅茶苦茶なラインナップだが。


「こういうところ、結構気が利いてるわよね。トウマはなんか食べる?」

「いや、遠慮しとく……」

「ふーん。そういえばトウマって変わったお菓子ばっか食べるわよね。チョコもプレーンな味のやつしか食べてないし」

「うん……その、ほっといてくれや」


 わかっているのだ。

 この時代においてはティファとサラの味覚が一般的でトウマの味覚のほうが狂っているのだと。

 偶々見つけたプレーンな味こと、普通のミルクチョコレートを好んでそのまま食べるのは自分くらいなのだと。

 だからお前らの味覚がおかしいんだよ、とは言わない。

 そういうことは普段レイトと愚痴りあっているから。

 そろそろうすしお味のポテチが恋しくなってきた、とはトウマの最近の愚痴だ。


「……ちなみにお前らのポテチの好みの味は」

「いちご味」

「ブルーハワイ味」

「かき氷と勘違いしてらっしゃる……?」


 なんでしょっぱい物は甘くされて甘いものはしょっぱくされてしまっているのだろうか。

 トウマはちょっと遠くに目線を逸した。

 対してロリ2人はそんなトウマに少し首を傾げつつも、目の前のお菓子をつまむ。

 そういうしている間にそこそこ時間も経過。

 トウマもちょっと小腹が空いてきたと思った所で、会議室のドアがノックされ、特に返事する間もなくドアが開いて1人の男が入ってきた。

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