新たなる力達
傭兵日記
今、この時代で最も話題性を持つ傭兵は誰か、と言われると、メロス国とティウス国の傭兵たちは声を揃え、こう口にする。
『宇宙色の流星』達だと。
まだ活動を始めてから1年と少ししか経っていないのにも関わらず、この傭兵たちは様々な成果を上げている。
中型、大型ズヴェーリをメロス国内から絶滅させる勢いで狩り尽くした事による軍からの感謝状。何故かとあるコロニーの周辺だけは頑なにズヴェーリを討伐しないが、そこ以外のズヴェーリを見つけたら即討伐することで、周辺宙域の安全性が格段に上がったからだ。
更に、まだ記憶にも新しいガベージ・コロニー戦役。
赤いネメシス、マッドネスパーティーとマリガンという軍ですら太刀打ちできなかった突出した単騎を単騎で討伐してみせた。この活躍により、未来で失われるかもしれなかった数多の命を救ったのだ。
そして、直近ではティウス国のハインリッヒ子爵領で出現したキングズヴェーリの討伐だ。
トドメこそ刺していないが、キングズヴェーリと1000匹以上ものズヴェーリを相手に無双の活躍を見せ、更にキングズヴェーリの体内に突入し、奴を倒して生還するという奇跡まで成し遂げたのだ。
それ故に、今、乗りに乗っている傭兵といえば、『宇宙色の流星』。
即ち、ティファ、トウマ、サラの3人の事であった。
「はぁぁぁぁぁ……」
で、あったのだが……
「どーしたんだよティファ。ンな浮かない顔して」
「いえ……ちょっとね……」
流星の生みの親であるティファは小型船の居住スペースにある机で垂れていた。
普段ならあまり行儀の悪いことはしない彼女だが、最近は何やら悩みがあるようで、机の上に大量のホロウィンドウを表示したまま溜め息を吐いている事が多かった。
そんな彼女が等々深い溜め息と共に額を机に打ち付け始めた。
流石にこれは気にしたほうがいいな、と流星のパイロットその1、トウマがティファに声をかけた。
「……あの子の強化プランよ。何とかV.O.O.S.Tの常用化、もしくは稼働限界の延長ができないか考えているんだけど、全然いい案が思い浮かばなくて……」
「なるほどな……ティファでも難しいか」
「そりゃそうよ。だってV.O.O.S.Tは元々時代を何百年も先取りしたと言ってもいい機能よ? それの改良ともなると、流石に一筋縄じゃいかないわよ……」
キングズヴェーリ戦から早3ヶ月ほど。トウマもこの時代にやってきて1年ちょっとが経過した今日この頃だが、流石の天才メカニックも最高傑作の改良ともなると頭を悩ませるらしい。
これに関してはトウマができることは何もない。肩を竦めて手に持っていたチョコレートをティファに差し出した。
「俺は動かすの専門だから、あんまいいアドバイスできないけど、あんま根を詰めてるといい案も出ないと思うぞ?」
「ん……」
差し出されたチョコに直接噛み付くティファ。
そんなティファに餌付けする形となってしまったトウマ。
急に何とも奇妙な光景が誕生してしまったが、2人は気にしない。
代わりにその光景を目撃したパイロットその2が引いていたが。
「あんたら何してんのよ」
「餌付け……?」
「そ、そう……」
この時代産の天才パイロット、サラはイチャついているのかふざけているだけなのか分からない光景に苦笑する。
まぁ、この2人が時折奇行に走るのはいつものことだし、なんやかんやでサラもトウマやティファにダル絡みすることはあるので何も言えない。
パリポリとトウマの手からチョコを食べるティファの対面に座り、優雅に紅茶を飲むサラ。貴族の家系に産まれただけあって、その様子は何ともサマになっている。
飲んでいるのが安っぽいティーパックの紅茶じゃなければ。
「……そんな安っぽい紅茶で口に合うのか?」
「意外と? 高くて品のある紅茶もいいけど、こういう俗っぽいのにもイイとこあるのよ」
もう3人の貯金は傭兵とは思えない程度には貯まっている。
それこそ、惑星に家を買って余生を過ごすこともできるくらいには貯金がある。
なので安っぽい紅茶なんて飲まなくてもいいのだが、サラ的には偶にはこういうのを飲みたくなるのだと。
結局トウマの手からチョコを全部食べ終えたティファはテーブルの上に置かれたサラの紅茶を自然な動作で奪って一気に飲み干した。
「あっ、あたしの紅茶」
「いいでしょ別に」
「間接キス」
「女同士で気にしてどうすんのよ」
「実は俺のチョコも間接キス」
「………………」
「冗談だから絶望した顔で口の中に指突っ込まないで。吐こうとしないで。傷つくから」
という冗談はさておき。
こほん、と咳払いで一度空気を入れ替え、ティファが新たにホロウィンドウを一つ浮かべながら口を開く。
「そういえば、傭兵協会から1個依頼が来てるのよ」
「傭兵協会から? 傭兵協会を通じて、じゃなくて?」
「えぇ、傭兵協会からの依頼ね」
傭兵協会を通して名指しの依頼が来る、というのは名の売れた傭兵であれば時折あることだ。珍しいが、驚くことじゃない。
しかし、傭兵協会から依頼が来る、というのは本当に稀だ。それも、ティファの表情を見るにあまり物騒ではない依頼のようだ。
「依頼の内容は、取材ね。傭兵協会への取材が近日来るんだけど、その時に傭兵代表としてインタビューに答えてほしいんだって」
「傭兵協会に取材? どんな?」
「傭兵協会が普段何をしているかとか、傭兵に取材してどういう生活をしているか。そういうのを聞いて記事にしているみたい。えっと、確か過去の記事が…………あったあった。ほら、こういう感じで」
依頼内容のホロウィンドウとは別に一つ、過去の傭兵協会と傭兵への取材の記事が表示された。
どうやら傭兵協会は普段どんな仕事をしているか、傭兵にはどういう依頼が来ているのか等を話せる範囲で話した後、腕のいい傭兵に取材をして普段の生活等を聞いているらしい。
内容を見るに、結構いい感じにまとまっている。
「へぇ。でも、なんたってこんな取材受けてんだ?」
「傭兵って荒事稼業でイメージも悪いでしょ? でも、傭兵が居ないと生活は不便になる。だから、傭兵協会が傭兵の生活もあまり悪いことじゃない、荒事ばかりじゃないって発信するためにやってるのよ。傭兵を増やすためにね」
なるほどな、とトウマが頷く。
ティファ達はもう傭兵としての仕事はズヴェーリ討伐や宙賊討伐くらいしかやっていないのだが、船を持っていない傭兵というのは日当の短期バイトのようなものだったり、誰もやらないような仕事をやって金を稼ぐ事が殆ど。
言うならば質がちょっと悪い代わりに専門業者に頼むよりは安い何でも屋だ。
この安い何でも屋が居ないと困る者や不便になる生活というのがある、ということだ。
それに、傭兵というのは職にあぶれた者に対する救済処置のようなものでもある。失敗したものを一度受け止めてもう一度スタートラインに立たせる、という役割もあるのだ。
「で、今回の取材では傭兵の中では温厚で、成果も挙げられていて、素行も問題ないわたし達が傭兵協会に選ばれたってわけ」
しかし、元から人生馬鹿やって荒事ですべてを解決できると信じてしまっている馬鹿も傭兵には多数いる。
そんな傭兵達を取材させようものなら傭兵の立場は悪くなる一方だ。
だからこそ、取材対象の傭兵には温厚で素行に問題なく、適度に稼げている者が選ばれやすいのだ。
その点で行けば、ティファ達はドンピシャだった。
なにせ、傭兵基準では相当温厚であり、成果はとんでもなく、素行も見えている範囲では問題ないどころか普通に行儀がいい。更に、メンツの内2人は体型はちんちくりんだが、見てくれは美少女だ。取材対象としては持ってこいだ。
「ふーん。まぁ、お前ら可愛いし、傭兵のイメージアップになるだろうし受けたらいいんじゃね?」
「あーはいはい、ありがと」
急に可愛いと言われたことでティファが軽く顔を赤くする。
この娘、面と向かって可愛いと言われると照れる質なのである。
「ってかあんた他人面してるけど、あんたも取材対象よ?」
「え? 俺も? 美少女の間に挟まった男ってことで殺されねぇ?」
「誰が殺すのよ……普通に、わたし達3人に依頼が来てるの。あんただって傭兵としては素行も稼ぎも性格も問題ないんだから、十分取材対象よ」
「えー? クソニートだぜ俺?」
「それ漂流前の話でしょうが」
ついでに言うならクソニート1歩手前であり、ギリギリクソニートではない。
それに今は立派な傭兵で天才パイロットだ。手に職はついているし貯金も十分だ。
「で、どうすんの? あたしは別に受けていいけど」
「わたしも。傭兵協会にはそこそこお世話になってるし。トウマは?」
「俺? 俺もまぁ、お前らが受けるんなら受けるよ。別に嫌じゃないし」
「なら決まりね。それじゃあ、わたしの方で依頼受けておくから」
「おっけ。まぁ、アレだな。いい気分転換になるといいな?」
「ン……まぁ、そーね……」
トウマの言葉にティファは少し濁した言葉を返し、傭兵協会に依頼を受ける旨を伝えるのであった。
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