鋼の魂

 スプライシングPRがライフルを構え、並のパイロットなら避けきれない速度で照準を合わせて弾を放つ。

 しかしレイトはその弾丸を脚部ビームセイバーで打ち払い、ライフルを構えたがために光の翼による防御がなくなった右半身へ向けてスナイパーキャノンの照準を一瞬で合わせ、放つ。

 スプライシングPRもその弾丸をなんとか光の翼で迎撃し、ライフルをビームセイバーに持ち替えてレイトへと斬りかかる。

 その一撃をレイトは脚部ビームセイバーで切り払い、肩部小型ガトリングを展開してほぼ零距離での斉射。

 トウマもそれを光の翼と盾で防ぐものの、ブースターを展開してロケットパンチの如く加速したホワイトビルスターの盾と拳がスプライシングPRの盾に叩き付けられ、スプライシングPRが吹き飛ばされる。


『シールドブーストナッコォ! ってね!!』

「滅茶苦茶しやがって!!」

『狙い撃ちィ!!』

「っぶねぇ!!」


 吹き飛ばされ姿勢が不安定になったその瞬間、レイトは再びスナイパーキャノンを構えて放つが、トウマは何とか光の翼を振るう事でそれを防ぐ。

 その攻防は一進一退。

 いや、トウマの方が攻めきれないという状況だった。


『れ、レイト、強すぎない……?』

「そりゃアイツは全一だからな!! アイツ、狙撃機体に乗ってるくせして格闘機を近接戦で完封する化け物だぞ!!」

『だから僕はミサイルもガトリングもセイバーも上手く使えないっての!!』

「うっせぇ化け物!!」


 狙撃が上手いだけではネメシスオンラインのランカーは倒せない。

 数戦もやれば、ランカーという化け物集団は狙撃されないための対策をしてくるからだ。

 だが、そんなランカー達の中でも別格と言われるレイトは、狙撃の才能はもちろんの事、近接戦の才能までもが1級以上だった。

 盾で狙撃を防ぎ、間合いに持ち込んだ近接機体のビームセイバーを脚部ビームセイバーで切り払って零距離狙撃をするのは当たり前。

 スラスター内蔵の盾でブーストナックルをコクピットに叩き込むわ脚部ビームセイバーをぶん回しながらガトリングとミサイルを叩き込んでくるわ、果てにはスナイパーキャノンで直接ぶん殴ってくるわ。

 そこまでやれるからこそ、レイトは当初トウマに9割勝てていたし、他のランカーとは隔絶した腕を持つと言われていた。

 なお本人はそれでも近接戦は苦手と言う。


『じゃあこっちも言わせてもらうけど、そんな化け物の僕に対して3.5割も勝ち星持ってく君も十分化け物だよ!! 僕にそれだけ勝てるの君だけだっての忘れた!?』

「忘れちゃいねぇよ!! お前への対策にかまけすぎて時折ランク下がってたしな!!」


 だが、そんなレイトに対して3.5割もトウマは勝っていたのだ。

 他のランカーはよくて2割勝てればいい方なのに対し、トウマはレイトに3.5割も勝っていた。

 それだけトウマは、レイトの事を研究していた。


「オラ行くぜぇ!!」

『やってみなよ!!』


 再びスプライシングPRがビームセイバーを手にホワイトビルスターへと切りかかる。

 読み合いにフェイントを混ぜ込み、さらには光の翼による斬撃までもを織り込んだ、サラでさえ瞬殺されてもおかしくないその攻撃を、レイトは脚部のビームセイバーだけで防ぎ切る。

 しかもレイトは胸部、肩部に内蔵されたミサイルとガトリングで反撃までしている。

 攻撃の量はトウマの方が多いが、追い詰められているのはトウマの方だ。


『トウマ、V.O.O.S.Tの残り時間……あと、1分よ!』

「クソッ、人間なら当たっとけよ!!」

『やーだよーだ!!』


 スプライシングPRのV.O.O.S.Tは無限ではない。

 既に接近と近接戦により、残りの時間は1分にまで迫っている。

 だと言うのに、トウマはレイトに致命打の一つも与えられていない。

 V.O.O.S.Tを使って、ようやく互角かそれ以下。その事実はティファとサラですら戦慄するほどだ。

 あのマリガンを秒殺したV.O.O.S.Tであっても、レイトには届かないのだ。

 ──だが、それでいい。

 今は、それでいい。


「なぁ、レイト」

『なにさ』

「お前、そのガトリングとミサイルの弾数、大丈夫か?」

『…………ほんっと、そういう所だよ!!』


 そう、レイトは時折ミサイルとガトリングで反撃に出ている。

 反撃に出ている、のだが……所詮、ガトリングもミサイルも内蔵武器。弾数なんてたかがしれている。

 その反撃すべてをトウマは光の翼と盾で防ぎきっている。それ故に、その弾が無くなればホワイトビルスターの武装は脚部ビームセイバーのみになる。


「もうそろそろV.O.O.S.Tも限界だ……! だから、決めさせてもらうぞ!!」


 もう残りの弾数はそう多くない。それ故に、トウマが仕掛ける。

 光の翼とビームセイバーによる斬撃のコンビネーションを仕掛け、一気にレイトを追い詰める。

 対してレイトは脚部ビームセイバーでそれを防ぐものの、反撃はしてこない。いや、できない。

 もう既にレイトはガトリングとミサイルを撃ち切っていた。

 当てられる、と確信して反撃した弾が全て防がれ、気が付けば元々少ない弾を全て吐き出してしまっていたのだ。

 いや、吐き出させられた、と言うべきか。

 意図してか意図せずか、トウマはレイトの反撃を誘っていたのだ。レイトはそれにまんまと引っかかってしまった。

 反撃手段を吐いてしまったが故に、レイトはトウマに対して反撃できない。防戦一方だ。

 それを見てトウマが一気に攻める。

 V.O.O.S.Tの残り時間は、10秒もない。


「そこっ!!」

『ッ!』


 そんなギリギリの中で光の翼が脚部ビームセイバーを払い除け、ホワイトビルスターの体勢が崩れた。


「俺の勝ちだ、レイト!!」


 その瞬間にスプライシングPRのビームセイバーが振るわれる。

 回避は不可能。防御も脚部ビームセイバーは間に合わない。それ故にトウマの勝ち、だが。


『なんとォ!!』


 レイトもただでは終わらない。

 脚部ビームセイバーが間に合わないなら、と無理矢理腕部のスナイパーキャノンの銃口をスプライシングPRの防御の合間にねじ込んだ。


「トド、メェ!!」

『狙い撃つッ!!』


 スプライシングPRのビームセイバーが振り抜かれ、スナイパーキャノンの銃口が火を吹く。

 それは、奇しくも全く同じタイミングなのであった。



****



「だー!! 引き分けかよ畜生!!」


 結局、トウマvsレイトの模擬戦は引き分けだった。

 トウマのビームセイバーは確かに当たっていたが、それと同時にレイトのスナイパーキャノンもコクピットを撃ち抜いていた。

 実戦なら互いに死んでいた、という結果となったのだ。


「しっかし……レイト、あんなに強かったのね……まさかV.O.O.S.Tを使ったスプライシングで勝ちきれないなんて」

「実家にアレがいるんなら、ネメシス戦が起きても安全ね。というか無理でしょ、アレ倒すの」


 そしてティファとサラは予想以上に強かったレイトに軽く引いていた。

 V.O.O.S.Tを使ったスプライシングPRはネメシスオンラインの機体ですら届かない程の性能を有している。

 だと言うのにも、だ。レイトはトウマと相打ちという結果に持ち込んだのだ。

 その力量は間違いなくトウマを超えている。


「次会ったときは勝ってやる……!!」

「まぁ、そうね。わたしもまたあの子の改造しないと」

「あたしも負けてらんないわね……!」


 まだまだ自分達には伸び代がある。

 それを自覚した3人は、メロス国へと帰るのであった。



****



「いやー、悔しいなぁ。まさか相打ちだなんて」

「…………なぁ、レイト。お前も行かなくてよかったのか? お前の力なら、きっとここで働くよりも傭兵をした方が」

「何言ってんのさ。僕の居場所はここで、ここには友達がいる。友達を置いて傭兵なんてできないよ」

「そうか……全く、少しサラの事が羨ましいよ」

「それは心底同意。空を飛んで自由にあっちこっちへ、なんて」

「それでも後悔は無い。何故なら、俺にはレイト、お前という友がいる。どんな敵をも打ち砕く、最強の友がな」

「僕も後悔なんてないよ。ミーシャ、君の敵は僕が全て撃ち抜いてみせる。僕と君は最強のタッグだ」

「あぁ。俺達は最強だ。だから、これからもよろしく頼むぞ、レイト」

「こちらこそ。よろしくね、ミーシャ」



****



あとがきとなります。

実は1話を投稿した時点でここまでの構成はできていたんです。

ただ、次の話も元々考えてたんですけど……まぁ色々あって没にしまして。

この話を予約投稿した前日に何とか完成しました。マージでギリギリでした……


次の話からは主にスプライシングとラーマナの強化に焦点を置いた話が展開される事になりますのでお楽しみに。


ちなみに次の次の話は少し短めにレイト主役の話をやろうかなと思ってたり思ってなかったり。

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