Unlimited Force
既に騎兵団にはミーシャが話を通してある。
今から馬鹿共がキングズヴェーリの討伐という歴史的快挙を成し遂げると。
勿論ランドマンからは抗議があった。が、ミーシャはそれをアーアー聞こえないと無視。無理矢理通信を切った。
これで話が通してあると言うべきかはさておき、何をするかは伝えた。
さぁ、カッコ良くなる時だ。
カタパルトにスプライシングPRの足をセットし、笑う。
一度負けた俺達は強いぞ、と。
『さーてっと、トウマ。派手にやってきなさい』
「おうよ」
ハッチが開く。その先には巨大すぎる敵、キングズヴェーリが。
その周りには幾つもの流星が飛んでおり、更にその後ろには味方として駆け付けた傭兵達も居る。
あれだけいれば援護は十分だ。
──さぁ、翔べ!
『カタパルト、ユーハブコントロール!』
「了解! スプライシング・パッチワークドラーマナ! トウマ・ユウキ、行くぞ!!」
『続けてラーマナ!』
『えぇ! ラーマナMk-Ⅱ、サラ・ハインリッヒ! 出るわ!!』
『最後、ホワイトビルスター! 頼んだわよ!』
『何とかするさ! レイト・ムロフシ、ホワイトビルスター、行きます!!』
スプライシングPR、ラーマナMk-Ⅱ、ホワイトビルスターが船から飛び出し、一直線にキングズヴェーリへと向かっていく。
3機のネメシスは既存のネメシスを歯牙にもかけない速度でキングズヴェーリへと突っ込んでいく。
傭兵達の間を抜け、自殺かと思えるほどの速度でキングズヴェーリへ。
しかし、キングズヴェーリはスプライシングPRの事を覚えていたのか、それを認識した瞬間に触手を伸ばし、打ち落とさんとする。
「覚えてやがるか! レイト、弾は残せ! サラ、援護頼むぞ!!」
『分かってる!』
『任せなさい!』
しかし、ここに居る3機のネメシスはこの世界最強の3機だ。
その3機がセイバーを片手に、物量で押しつぶさんとする触手の群れを捌いていく。
その様子は一騎当千の英雄のようにも見える。
『す、すげぇ、なんだあのネメシス……』
『見た事ねぇのもそうだが、なんでアレをどうにかできるんだ……?』
『頭イカれてんな』
オープンチャンネルで傭兵達の息を呑む声が聞こえてくる。
だが、今はそれすらも心地良い。
それだけ自分達は今、カッコいいのだから。
『全機、彼等を援護しろ!! 何をするかは分からんが、突っ込む気なら好きにさせるぞ!!』
『傭兵ばかりにいいカッコさせるな!! 戦場は我等騎兵団の物だという事を見せつけろ!!』
『了解!! いつまでも借りを作ったままでいられるか!!』
『俺達騎兵団の意地を見せるぞ!!』
それを、騎兵団達が援護する。
もう戦い詰めで気力も体力も限界だ。
しかし、それを理由に戦いを止める理由にはならない。
戦うのだ。それこそが誉れであり、意地なのだから。
27機のネメシスが、たった1体の織り成す物量を押し返し始める。
鋼の英雄達は、誰かの明日のために。己の誉れのために。明日の自分がカッコ良くあるために、前へ、前へ、前へ。
「もう、少しだ!! 気張れぇ!!」
相手の物量は文字通り無限に等しい。その無限の中を、27が駆け抜ける。
しかし、それは無茶だ。徐々に、徐々に味方への損傷は増えていく。
『クソッ、腕をやられた! 離脱する!』
『こっちはバランサーをやられた! 誰か撤退を手伝ったくれ!!』
『メインカメラが死ぬ!? クソッ、ここまでかよ!!』
腕を、足を、頭を、ブースターを貫かれ、徐々にその数は減っていく。
だが、それでも意志だけは負けていない。
撤退しながらの援護で少しでも前を行く味方をアシストし、そして周りから集まろうとする小型から大型のズヴェーリを牽制する。
そして、スプライシングPR達の目の前、数百メートルに、キングズヴェーリの体が見えた。
「行くぞレイトぉ!!」
『決めてみせるさ!!』
『全機撤退しなさい! 後はあの馬鹿2人が決めるわ!!』
『承知! 全機、周囲のズヴェーリを狩りつつ撤退!! 1匹足りとも彼等に近寄らせるな!!』
そして、スプライシングPRとホワイトビルスターが1歩前へ。ラーマナMk-Ⅱと騎兵団のブレイクイーグル達は後ろへ。
ここまでは前座だ。
ここからが本番。ここで決めなきゃ明日は無い。
だから、決める。
「スプライシング、ラーマナ! 正念場だ!!」
『リミッター開放! 決戦機能、開放っ!!』
「V.O.O.S.Tッ!!」
V.O.O.S.Tを発動。そして、近くのホワイトビルスターと己を包むバリアになるように光の翼を展開。
ビームの繭のような状態になり、スプライシングPRとホワイトビルスターはキングズヴェーリの体内へと突入した。
「ぐ、ぅぅ……!! 予想以上に、進まねぇ!!」
『それでも、前へ……!! 少しでも、前へ!!』
削ってもすぐに復活するキングズヴェーリの体は、V.O.O.S.Tを発動したスプライシングPRであっても中々前へ進めない。
それでも少しずつ、少しずつ前へ。スナイパーキャノンの有効射程へと近づいて行く。
V.O.O.S.Tは3分が限界。それを過ぎた僅か数秒にも満たない時間。それがレイトに残された狙撃可能時間だ。
「しかも、予想以上に視界が悪い……! レイト、これ大丈夫か!?」
『任せて、トウマさん。僕はラーマナすら撃ち抜いた男だよ』
「……それもそうだな! お前の狙撃の腕は、俺が一番知ってるからな!!」
だから、前へ。
濁った水中のような視界の中で、ただ前へ前へと進んでいく。
しかし、3分という時間は短い。
制限時間はあっという間の所まで既に迫っている。
『トウマ! 目標地点まで、あと100メートル! それと、V.O.O.S.Tは残り20秒!!』
「分かった! 気合入れろよ、スプライシング、ラーマナ!!」
叫び、操縦桿を押し込む。
それに応え、スプライシングPRはカメラアイを光らせ前へ前へと進んでいく。
そして、レイトも自身の仕事のため、息を吐く。
緊張? しているさ。恐怖? しているとも。後悔? していない訳がない。
それでも、それを呑み込む。
だって、ここで失敗したらカッコ悪いから。
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