駆け足の生き様
スプライシングPRの修理は無事に完了した。
あとはパイロットが戻ってくるのを待つだけだ。
だが、ティファの表情は暗い。
またスプライシングPRに彼を乗せたとしても、彼はまた無茶をするだけだ。無茶をして、死にかける。
それくらいならサラを連れてここから逃げてしまったらいいんじゃないか。そうとすら思えてしまう。
「…………暫定、アーマードブラストカスタム。スプライシングとラーマナに取付可能な物で設計はしてるけど」
スプライシングPRとラーマナMk-Ⅱの専用強化プラン、『アーマードブラスト』。装甲の薄い2機にブースターユニットを組み込んだ追加装甲を取り付け、機動力と防御力。そして、外付けの武装によって攻撃力を底上げするソレは、既にティファの頭にあった。
だが、この場で実現できるほど、ソレは簡単なものではない。
専用の設備を用意するかどこかの企業にパーツの発注を行わなければ作る事はできない。
今からやった所で完成するのは何ヶ月も先だ。間に合うわけがない。
そんなティファはふと、連絡船から一旦こちらへ移されたホワイトビルスターを見る。
「……スナイパーキャノン、か」
あの武器を内部から正確に当てれれば、奴を倒せる。
だが、そのパイロットは、既に心が折れているだろう。
「はぁ……もう、逃げちゃおうかな」
どうせ3日経てばこの問題は解決する。
元々3日自分達が混ざって時間を稼ぐか、自分達はトンズラするかの話だったのだ。
今更逃げた所で誰も怒らない。仕方ないと言うだろう。
だからいっそ、このまま──
「逃げる前に、僕のホワイトビルスターは置いていってくれないかな」
その言葉を聞いていた者が、どうやら居たらしい。
後部格納庫への入り口を見てみると、そこにはホワイトビルスターのパイロットが。
レイトがいた。
「…………不法侵入よ」
「サラお嬢様に許してもらったから、そこは許してほしいな」
ならいいか、とティファは適当に頷く。
「……別に、心配しなくてもこの子は置いていくわ。どうせ、無用の長物でしょうけど」
「そうでもないよ。この後僕が乗るからね」
「…………正気?」
「正気さ。どこまでもね」
レイトは心が折れていたはず。そう思い、ホワイトビルスターへと近付くレイトを見るが、その目を見て驚いた。
あれだけ恐怖に呑まれていたのに、その目はあの時よりもしっかりとしている。
「怖くないの?」
「怖いよ」
「なら、逃げなさいよ」
「そうだね。怖いなら逃げるべきだ。でも、ここで逃げたらカッコ悪いだろ?」
その言葉にティファは思わず口を開けて呆ける。
カッコ悪い。
あぁ、そうか。確かにカッコ悪い。
「……ふふ、あんたもトウマも、似た者同士ね」
「かもしれないね」
立ち直りの早さは、特に。
「男なら誰かのために強くなれとか、愛する者のために死ねとか、そういう立派な事を僕は言えない。けど、せめてカッコ良くいたいんだ。友達が僕の事を誇れるような僕で居たい。だから、例えそこが死地であっても、僕はもう逃げない。後ろを向かない。そんな僕に付き合ってくれる鋼の相棒も、ここに居る」
──そうだろ? ホワイトビルスター。
その言葉にホワイトビルスターは何も言わない。だが、当然だと言わんばかりの佇まいで、ソレはそこに立っている。
そうだ、当然だ。
お前は最強なんだ。
2人なら、向かう場所には勝利をもたらすことができる。そう信じている。
「3日だっけ。必要な時間は。それなら、僕1人でだって稼いでみせるさ」
「大層な自信ね?」
「そりゃね。僕とホワイトビルスターは、無敵だ」
「…………なら、1つデッカい賭けがあるのよ。あの馬鹿でかい案山子をブチ抜く賭けが。乗ってかない?」
「いいね、乗るよ。例え1%の賭けだろうと、ホワイトビルスターのスナイパーキャノンは、絶対に外さない」
まさか役者が揃うとは。
ティファは笑い、ついて来なさいと口にする。
後は、トウマ。彼の目覚めを待つだけだ。
****
トウマが目を覚ましたのは、それから半日程後だった。
ポットの中で目覚めたトウマは自動で開いたソレから身を起こし、伸びをしてから置いてあった着替えを手に取り、そのまま着替える。
悲しい事にこの短期間でコレのお世話になったのは2度目だ。だから、どうしたらいいかなんて分かってしまっている。
着替え、そして部屋を出る。
「目ぇ覚めた? トウマ」
「ん? おう。わりぃ、世話かけた」
「全くよ。死にかけるのも大概にしなさいよ。ホント……心配したんだから」
「……わりーな」
部屋を出れば、そこには相棒が居た。
自分が勝手にやらかして死にかけたのにも関わらず、いつも通りの態度でいてくれる相棒には救われる。
「で、状況は?」
「アンタが気絶してから大体半日ちょっと。傭兵の援軍は来たけどその程度。国軍はまだごたついていて、騎兵団はボロボロ。あまり状況は良くないわ」
「なーるほど……で、どうする?」
「1つ、賭けがあるわ。乗ってく?」
「乗るさ。相棒の提案だしな」
「そうこなくちゃ」
言葉少なにトウマは現状を理解する。
つまり、ここでティファが考えた賭けを通さねば、この領地はマズイことになるという事だ。
ならば乗らない手はない。
それに。
「俺だって奴さんにゃちょっとばっか復讐したいからな。蒸し焼きにされた復讐だ」
「…………その、大丈夫? また死にかけて、なのにすぐまた戦いって」
「前の蜂の巣未遂よかマシだ。それに、半ば自爆だったしな。多少の覚悟はできてたし、スプライシングなら多少の無茶をしても大丈夫って信じてたからな」
「……そこまで言うんなら良いわ。もう役者はみんなわたしの船の後部格納庫に集まってる。すぐに行くわよ」
「おうよ」
医療ポットで寝ていたおかげで体調は万全。いつでも戦いに出られる。
そんな気概でトウマは寝かせられていた船、連絡船から出てティファの船へ。後部格納庫に向かうと、そこには分の悪い賭けに乗る仲間たちがいた。
とは言っても、3人だけだ。
「やっと目ぇ覚ましたのね、トウマ」
「サラ。お前も参加するのか?」
「もう戦力を出し惜しみする間もないって事よ」
「なるほどな。それで、後は……」
残りの2人。
それは、レイトと、ミーシャの2人だ。
「トウマさん……その、この前はごめん。それと、ありがとう。僕のためにそこまで体を張ってくれて」
「気にすんな。もし暗い顔で謝罪しかしなかったらぶん殴ってたが、その必要も無いっぽいな。で、そっちはミーシャ様か?」
「あぁ。俺もあそこに居るのが怖くて逃げ帰ってきたんだ。だが、逃げるだけではカッコ悪いからな。この分の悪い賭けのケツを持つ事にした」
「なるほど。だったら、何言われても責任は任せましたよ」
「任された。お前達は自分のやるべき事を果たせ。後処理も貴族の義務だ」
トウマからしてみれば、あの時恐怖に飲まれたレイトに少し言いたいことはあったが、彼の表情を見る限り、もう言うべきことはない。
故にトウマは軽く流し、ティファに視線を向けた。
ティファは頷き、手元の端末を操作してホロウィンドウを表示する。
それはリアルタイムで変わるキングズヴェーリが出現した宙域の戦況だった。
「現在、キングズヴェーリは近くのコロニーへ向けて進行中よ。避難状況は5割。このペースでは避難は間に合わないわ」
「何分、住人全てを乗せる船は用意ができなくてな……ピストン輸送でどうにかしているのが現状だ」
「らしいわ。で、今回わたし達がやるのは、それを間に合わせる事じゃなく、必要を無くすことよ」
つまり、キングズヴェーリの討伐。
それが今回の目的だ。
その言葉に、全員が頷く。
その為に分の悪い賭けに乗るのだ。
「キングズヴェーリの核は体内の中心に存在するわ。でも大きさはライフル弾1発分。しかも弾は奴の体内で勢いを殺されるせいで、外から撃ったんじゃ弾は届かないわ」
そこで、とティファは画面を操作する。
すると、画面はリアルタイムの戦況ではなく、仮想の戦況に切り替わる。
そして、画面の端からはスプライシングPR、ラーマナMk-Ⅱ、ホワイトビルスターの3機が現れる。
「スプライシングはV.O.O.S.Tを使ってホワイトビルスターと敵の体内へと突入。ラーマナは突入までの援護を担当するわ。そして、V.O.O.S.Tを使って限界ギリギリまでキングズヴェーリの体内を突き進んで、V.O.O.S.Tが切れたと同時にホワイトビルスターのスナイパーキャノンで敵体内の核を狙撃する」
それが、この分の悪い賭けの正体。
狙撃が失敗すれば全員でお陀仏の分の悪い賭けだ。
「予測到達位置から核までの距離は凡そ1000メートル。ネメシスの狙撃なら苦もない距離だけど、体内からの光景は恐らく想像を絶する程、視認性が悪いわ。吹雪の中で狙撃をする方がマシかもしれない程。しかも、弾が敵に止められる加工性もあるわ。一応計算したけど、スナイパーキャノンの弾丸で本当にギリギリ届く程度ね。それでも、この賭けに乗るかしら?」
失敗は死。成功は誰かの明日だ。
そして、カッコ良くなれる。
ならば決まっている。
「やるさ。撃ち抜いてみせる」
「レイトがそう言うんなら、俺も乗った。コイツの腕は俺が一番知ってるからな」
「なら援護は任せなさい。必ずあんた達をキングズヴェーリまで辿り着かせるわ」
全員が乗った。
ならば、決まりだ。
「なら行くわよ! 全員帰ってこなかったら、わたしが帰ってこなかったやつの顔面を凹ませてやるから覚悟しなさい!」
さぁ、分の悪い賭けの始まりだ。
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