命の行方

「トウマ!! しっかりしなさいよ、トウマ!! 目を開けて!!」

「医療ポットの用意を急げ!! 早くしないと手遅れになるぞ!!」

「体を冷やす何かをもってこい! 水でも氷でも何でもいい!」


 撤退完了後、意識を失ったトウマと完全に沈黙したスプライシングPRは騎兵団の手により迅速に回収された。

 しかし、スプライシングPRそのものがかなりの熱を持っており、ティファは下手にスプライシングPRに触れない状態だった。

 そのため、大急ぎでコクピットハッチをブレイクイーグルのビームセイバーで焼き切ってトウマを救出した頃には、トウマは手遅れになりかけていた。

 人間が生存できるか怪しい程にまで熱されたコクピットの中に居たトウマの症状は酷いものであり、既に死んでいてもおかしくない状況だった。

 もう二度と見ることはないと思っていた瀕死の相棒を再び目の当たりにしたせいで、ティファも軽く錯乱してしまっている。そんな中で船の中にいた医療班は最善を尽くすために今も慌しく動いている。

 そこまでトウマが必死になってくれたおかげで、人的被害は0。あのキングズヴェーリを相手にしたにしては、破格の戦果だ。

 そう、本来なら、破格なのだ。


「クソッ……本来なら彼にあそこまで無理をさせる筈ではなかった。なかったが…………これは、我らの責任だ」

「少し彼に甘えすぎてしまっていた、か…………どうして本来は無関係な彼が唯一死にかける必要がある…………!!」


 死にかけてしまったのは、騎兵団の者ではない。

 ただ偶々その時雇っていたから。この状況は見過ごせないから。それだけの理由でこの勝ちがない戦いに参加してくれたトウマだ。

 そんな彼に、騎兵団は甘えてしまった。

 本来なら退路だって、己の力で切り開くべきだったのだ。

 それすらも、甘えてしまったのだ。


「とにかく、今は彼の命を最優先だ。死なせたら、ティファ嬢とサラお嬢様にネメシスで踏みつぶされても文句は言えんぞ」

「精一杯やります。いえ、やり遂げます。無理だったなんて言葉を吐いた日には辞表として自分の脳天に弾丸を叩き込みますよ」

「そこまでする必要はない。変わりに私が全身で鉛弾を受け止めるからな。すまないが、頼んだぞ」

「任せてください」


 ランドマンは医療班にそれだけを伝え、去っていく。

 この中で一番無力を実感したのは、ランドマンだ。

 キングズヴェーリが攻撃を始めてから、騎兵団は何もできなかった。ただ逃げ惑うことしかできなかった。

 そんな状況に風穴を開けてくれたのは、トウマだ。騎兵団では、なかったのだ。

 V.O.O.S.Tが無かった? 機体スペックがスプライシングPRよりも低かった? そんなことはどうでもいい。

 ただ、騎兵団の1人として、トウマに任せるしかなかった事が悔しいのだ。ただそれだけのことが、今まで生きてきた人生の中で、一番悔しい。

 赤いネメシスに隊員を落とされ、今度は善意で戦いに参加してくれたトウマをも殺しかけた。それが、悔しい。


「…………パイロットに再び招集をかけろ! 少し時間を空けてから再出撃する!!」


 それでも時は待ってくれない。戦いは続いている。

 トウマを心配し、そして次の戦いでは誰かが死ぬかもしれないと思っていても、声を出さねばならない。

 この命を繋いでくれた彼に報いるためにも、戦うのだ。その先に、民の明日が待つと信じて。

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