貴族のさだめ

「『物質化した宇宙線』……まさかアレがキングズヴェーリを呼び寄せるだなんて……」

「確かに、キングズヴェーリが出現した場所には輸送船が居た痕跡がある。アレの出現には条件があったなど、知りたくはなかったな。この情報は王に伝え、過去の状況と照合するしかないだろう」


 一方、ハインリッヒ子爵家。ミーシャが機兵団と共に出てから、ハインリッヒ子爵家は貴族としての対応に追われていた。

 キングズヴェーリの出現を民へと伝え、避難の勧告。更にその原因が『物質化した宇宙線』である事を民間に伝わらないように情報統制。

 様々な手を打っているが、キングズヴェーリは今も無慈悲に進行を続けている。

 そして、原因となる『物質化した宇宙線』を購入したサテラの表情は、暗いの一言で済むほどではなかった。

 まさか貴族である己が民の危機を……いや、この領地の危機そのものを呼び寄せたなど、考えたくもなかったからだ。


「母様……今回ばかりは仕方ないよ。誰も知らなかったんだもの」

「それでも……知らなかったからで済まされる問題ではないわ……」


 民からしたらそうとしか言えないだろう。

 だが、サラは己の端末を眺めながらその言葉を否定し始めた。


「トウマから引き続き連絡は受けてるけど、キングズヴェーリを呼び寄せるには『物質化した宇宙線』を宙域に流して、それを破壊する必要があるわ。しかも、購入ルートを調べればウチの領地にいるコレクターがこれを持ってたそうじゃない。なら、契機になったのが母様でも、原因は杜撰な管理をした運送会社。仮に買ったのが母様じゃない誰かでも、今回の件は起こっていたわ」

「宙域で破壊……? そんなこと誰が……」

「宙族のようね……ガベージ・コロニーの残党がここまで来てたみたい。それで、荷物を捨てて逃げたんでしょうけど……多分、奴等の考え無しの弾が荷物に当たって物質化した宇宙線が破壊された、と考えられるわ」


 傭兵と下のネットワークを使って今回の事件のあらましを調べたサラは重いため息を吐いた。

 今回は勝てない戦いだ。故に万が一がないように、とサラは待機することになったのだが、それだけでは終わらないのがサラという少女だ。

 傭兵のネットワークであらましを調べた彼女だったが、その結果出てきた物が今回も宙賊が原因です、となっては何とも言えない。

 今回、サテラの趣味が根本的な原因と言えてしまうが、それでもここまで来ればそんなのは些細なことだ。

 責任は今頃ズヴェーリに食われた宙賊に押し付けられる。


「……父様、あたしも念の為、ラーマナで待機するわ。この鉄火場で火事場泥棒をする馬鹿な宙賊が出ないとも限らないもの」

「し、しかし……」

「大丈夫。あたしとラーマナならそう簡単には負けないわ。それに……ここにいる間はあたしも貴族の娘よ。民を守るために戦うわ」


 今、機兵団は全員がキングズヴェーリとの戦いに赴いている。

 その鉄火場を狙う火事場泥棒を倒せるのはただ一人。サラだけだ。

 ラーマナMk-Ⅱは港に留めてあるティファの船の中にまだ置いてある。それを持ってくるだけでも火事場泥棒の馬鹿どもにはいい威嚇になる。

 そんな事は危険だ。危険だが、頼めるのはサラしかいない。

 故に、ミハイルはそれに頷くしかなく。


「ありがと、父様。それに、母様。ここはあたしに任せて。だから、後始末は頼んだわ」


 大きく見える背中を見せながら走り去っていくサラを見て、ただ、彼女の無事を祈るしかなかった。


「全く……あのやる気も何もなかった妹が立派になったものね。母様、サラのあんな姿見て、まだ泣いてるつもり?」

「………………いえ、子供達が頑張ってるんですもの。母である私が泣いてるわけにはいかないわ。あなた、私のコレクションを幾つか売っていいから、他の領地の兵や傭兵を金で叩いて雇うわよ。戦いは数、基本を忘れてはならないわ」

「そうだな……分かった。だが、お前のコレクションはそのままにしておけ。私にだって、多少へそくりはあるのだよ」


 貴族達にだって意地はある。

 必ず、無辜の民を守ってみせるという貴族としての、人の上に立つ者として産まれた者の意地が。

 人類は後手ながらも、徐々にキングズヴェーリに対する戦力を揃えつつあった。

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