激闘、キングズヴェーリ

鋼の戦士達

 キングズヴェーリ。

 ズヴェーリの王という名を与えられたその災厄は、かつて数回だけ人類の前に現れ、そして人類はその度に痛手を負ってきた。

 1度目の襲来は周辺10光年というとんでもない範囲の宙域に存在する資源やコロニー、人的資源が食い散らかされ、最後は核ミサイルによる飽和攻撃によって何とか撃退することはできたが、キングズヴェーリに随伴したズヴェーリ達により、2次被害もとんでもない事になった。

 2度目、3度目の襲来も同じ轍を踏んでしまい、4度目からはようやく迅速な対応が可能になったものの、それでも出現した際に大量に現れるズヴェーリの駆除が必須となるため、基本的にキングズヴェーリの出現時は周辺100光年が立ち入り禁止宙域となる。

 しかし、そこまで対策ができても、だ。

 キングズヴェーリの出現してすぐの被害は止めることができず、周辺のコロニーや星系には大ダメージが入ってしまう。

 それが、ハインリッヒ家の領域に出現したのだ。


「既に事態は深刻だ。奴が出現したのは今より1時間ほど前だが、唐突に現れた奴はコロニーを一つ、壊滅させている」

「民間人の退去は6割ほど完了していたが、残りの4割は……」


 ハインリッヒ機兵団の持つ大型船。そこには既に総指揮官として次期当主のミーシャが乗り込んでおり、更には非番であった機兵団員も全員が集められ、ブリーフィングに参加していた。

 そこにはトウマとティファも混ざっているが、サラは居ない。令嬢であるサラが前線に出るのは問題しかないためだ。

 既にキングズヴェーリによる被害は出ており、コロニー1つが犠牲となってしまっている。


「ティウス王国軍の派遣を依頼したが、対キングズヴェーリ用の装備を整えここに来るまでは、最短でも3日近く必要だ」

「つまり、3日は我等ハインリッヒ機兵団で耐えなければならない、という事ですね……」

「そもそも耐えれることができるのか……」


 対キングズヴェーリ用の装備。

 つまりは、核ミサイルだ。

 核ミサイルの保持は認められているが、それの使用には様々な国の承認が必要となる。いくらキングズヴェーリが現れ、迅速な対応が求められるとは言え、承認を待ち、核ミサイルを船に積み、軍を編成し、キングズヴェーリの元へと移動するまでには時間がかかる。

 それが、3日という時間だ。

 機兵団の仕事は、民を命に変えても守ること。故に、戦いに赴く事に否は無い。

 しかし。


「……トウマ君、ティファ嬢。君達まで来なくても良かったんだぞ」


 トウマとティファは違う。

 2人は傭兵であり、民のために戦う義務はない。だと言うのに、2人は機兵団の船にスプライシングPRを積んでこの場に立っている。

 ランドマンの言葉は、今からでも遅くはないから逃げた方がいい、という最後通告でもあった。

 だが、2人は軽く諦めたような表情で笑った。


「何言ってんすか。ここは俺達の仲間の故郷ですよ。命くらい張らせてくださいよ」

「ヤバかったら逃げさせてもらうけどね。だから、わたし達の事は独自戦力として扱って」

「そうか……すまないな、今はその独自戦力すら嬉しく思う」


 最初は逃げようとしていたが、いざ逃げてもいいと言われたとき、2人はそれを断った。

 何せ、ここにはサラが居るし、サラの故郷でもある。ならば、少しくらい命を張ってもバチは当たらないだろう、と。

 そして。


「……君は、本当に戦う気か、レイト」

「…………はい。僕も、戦えるので。この戦いは、少しでも戦力があった方がいいと思いますから」


 レイト。

 彼も、パイロットスーツに身を包み、ここに立っていた。

 ホワイトビルスターもティファの手により整備され、積み込まれている。

 この状況は四の五の言ってられる状況ではない。なので、レイトはこの時代に来て初めての戦いに、ホワイトビルスターと共に身を投じる事に決めたのだ。


「…………すまない。今は猫の手も借りたい状況だ。頼んだぞ」

「……精一杯、やってみます」


 そう口にするレイトの手は震えていた。

 初の実戦。それに震える気持ちは、この場にいる誰もが分かっている。だから、口は出さない。

 その代わりにブリーフィングが進んでいく。


「キングズヴェーリは近くのコロニーへと多数のズヴェーリを引き連れ移動中だ。我等の任務は、奴のコロニーへの到着を少しでも遅らせ、民間人の避難の時間を稼ぐ事だ」

「既に陸上兵がコロニーへと向かい、避難を進めている。君達の稼いだ1秒が民の命を繋ぐという事を強く意識しろ」


 ランドマンからの作戦概要とミーシャからの言葉を聞き、機兵団員の表情が引き締まる。

 そうだ。この戦いは勝てる戦いではない。守るための戦いなのだ。


「では、各員の配置について説明する」


 機兵団の持つネメシスは合計24機。2個中隊分だ。

 それを更に分け、小隊単位でキングズヴェーリを囲むように配置しつつ、キングズヴェーリの進行方向には多めにネメシスを配置する。

 そして、トウマとレイトも。


「2人にも、この正面を受け持つ部隊の援護をしてもらう。できるか?」

「任せてくれ。いざとなったらV.O.O.S.Tで退路を切り開く」

「だ、大丈夫です」


 既存のネメシスの枠を超えたスプライシングPRのV.O.O.S.T。それでもキングズヴェーリは倒せない。

 それはトウマとレイトが一番分かっている。

 アレは、そういう次元ではないのだ。

 それを示すかのように、ブリーフィングルームにキングズヴェーリが出現した宙域の……いや、キングズヴェーリが進行している様子が映し出された。


「これがキングズヴェーリ……」

「なんという……」

「まずは船に積んでいるミサイルを放て。それで牽制する」


 ブリーフィングルームが俄に騒がしくなる。

 キングズヴェーリ。その特徴の1つは、大きさだ。

 その大きさは、凡そ2000メートル。つまり、2キロだ。

 大型ズヴェーリですら100メートルが限界だというのに、キングズヴェーリはその20倍。最早小惑星が動いているような物だ。

 そして、もう1つの特徴。

 それは。


「ミサイル、着弾します」

「よし、牽制は…………できていない?」

「やはりかつて出現したキングズヴェーリ同様、異常な再生能力があるようですね。これは流石に、この船の武装とネメシスの武装では太刀打ちできませんよ……」


 驚異的な再生能力だ。

 船に積んだ高速ミサイル程度では数秒もあれば回復する程の回復能力。

 これをどうにかするには、マッドネスパーティーよりも更に火力に特化したネメシスを何十機も用意して一斉射し、核が壊れてくれと願うしかない。

 それができない現状では、奴は倒せない。

 例えV.O.O.S.Tを使って突撃したとしても、核に辿り着く前に機体が食い尽くされてしまう。

 全身にビームのシールドを作ったとしても、再生能力により勢いが殺され最後は食われるだけだ。

 故に、これは勝てない戦いだ。


「……よし、ネメシス隊、出撃だ。各員、死ぬなよ。時間稼ぎは今回だけの話ではないからな」


 了解、の声が響く。

 トウマもそれに頷き、ヘルメットを被る。

 その中で唯一、レイトの表情が沈みきっているのが、不安だった。

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