男と女はアイボウさ
ネメシスオンラインのランキング1位、『室伏幕府』。その名はランカーであれば誰もが知っていたし、ランカーでない者も、PvPに一定以上のめり込んでいれば知っていた。
その理由は、『全一』とランカー内ですら言われる程の圧倒的なPSだ。
その腕前は、トウマが乗ったラーマナですら、スナイパーキャノンの1発で盾で守れていない箇所を撃ち抜かれ、続きざまの1発で被弾の後隙を撃ち抜かれて秒殺されるほど。
スナイパーキャノンなんて反動もブレも強く、更に構えている間は旋回性能も極端に落ちてしまう。それを武器腕として装備することである程度カバーする事ができても、それでもある程度。
盾に当たればそれまでの弾を、宙域という慣性が死なない環境で的確に当ててほしくない場所に当てて勝つ。そんな圧倒的なPSを持つのが全一、室伏幕府だった。
「ちなみに、最近は何とか実力も多少拮抗して、俺のレイトへの勝率は3.5割だったかな」
「あんたでもそれが限界なの……?」
「あぁ。でも、俺がランカーになったばかりの頃なんて勝率1割無かったんだぜ? しかもアイツもそっから更に上手くなるし……ほんと、アイツとの戦いは楽しかったけど一戦一戦が必死だったな」
ハインリッヒ家の客室へと向かうトウマとティファはそんな事を話していた。
ティファからしたら規格外の技量を持つトウマであっても10戦やって3、4回しか勝てない。ハッキリ言って化け物みたいな技量だ。
「まっ、それでも今はスプライシングPRが居るからな。流石に通常時はヤバいけど、V.O.O.S.Tを使えば確実に勝てる」
「逆に言うと、V.O.O.S.Tを使わないと負ける可能性があるって事よね……冗談でしょ?」
「冗談って言いたいけど、事実だな。俺がオールドタイプの天才ならアイツはニュータイプの天才。そのレベルだ」
「オールド……何?」
残念ながらティファにそのネタは通じなかった。
「ところでサラはどこ行ったんだ?」
「久々に家族水入らずで食事するって事になって別れたわ。ちょっと羨ましいかも」
そう言うティファの顔は、何となく物憂げだった。
ティファの両親は、何年も前に死去してしまっている。サラみたいに簡単に会えるような存在ではないのだ。
サラ自身、家族に会えたことは複雑な事情はともかく、やはり嬉しいのだろう。それに、嬉しい以外にも家族の時間は大切なのだし。
勿論ティファも家族の事でサラにとやかく言う気はない。が、やはり羨ましいものは羨ましい。そう思ってしまうのだろう。
「…………あー、ティファ。今日そっちの部屋行って飯食っていいか?」
「え? いいけど。というかいつも一緒に食べてるじゃない」
「あー、そうだっけか?」
「……なに、気ぃ使ってくれてんの?」
「わりぃか」
「べっつにー。ただ、あんたじゃパパとママの代わりにはなれないわよ」
「わーってるよ。ただ、一人よかマシだろ」
「ん、そうね」
何というか、もっと言うことあるんじゃないのか。
そんな事をティファは思ったのだが、まぁ、トウマなりに気を使ってくれたのだ。
少しは甘えてもいいだろう。
「んじゃ、あんたの部屋行くから。ご飯もそっちに運んでもらえるように言っとく」
「おう。すまんな」
「はいはい。まぁ、その…………ありがと」
「なんの事やら」
惚けるトウマにティファは少しだけ笑顔を向けて。
そして、ちょっとこの男に気を使われたのが癪だったので、少しだけ強めに肩を叩いたのであった。
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