邂逅
トウマとティファの本格的な仕事は翌日からとなった。
しかし、まさか仲間の家で仕事をすることになるとは、なんて思っていると、どうやら家族会議が終わったらしいサラが敷地内用の車に乗ってやってきた。運転手はレイトだ。
「ごめん2人とも! まさか機兵団が依頼を出すなんて……」
「構わねぇよ、サラ。お前の実家を守る機兵団なんだろ? なら俺だって依頼金以上のやる気が出る」
「そうね。わたしもあの子が褒められて滅茶苦茶機嫌良いし。しかもお金貰えるなんて最高よ」
「それならいいんだけど……じゃあ、たっぷりと搾り取っていいからね。吹っかけちゃいなさい」
「そうさせてもらうよ」
まぁ、そこそこ高めの傭兵程度のお金は貰うつもりだ。
ちなみにサラの服装は一緒にいた頃の服とは違い、裕福そうな服に変わっている。
トウマは馬子にも衣装と揶揄ったが、揶揄った瞬間に拳が顔にめり込んだ。
多分ティファとサラはトウマの顔面をサンドバッグか何かと勘違いしている。
その様子に少し引いていたようだが、少しいいかな、と運転手をしていたレイトが話しかけてきた。ちなみにレイトの服は燕尾服ではなく私服になっている。
「あぁ、レイトか。着替えたのか?」
「今日はもう上がりですから。それよりも、トウマさんの機体、凄かったですね。光の翼とかロマンじゃないですか」
「そうなんだよ。ロマンなんだよ」
ロボオタ共の語彙力を失った会話にティファとサラが呆れた表情。
「そういえば、レイトはネメシスと一緒に漂流したんだよな? そのネメシスって今はあるのか?」
「ありますよ。機兵団の倉庫の奥を貸してもらってそこに置いてるんです。見ます?」
「おう、見る見る」
女性陣を無視して野郎共が勝手にやることを決めてとっとと機兵団の倉庫の方へと向かっていった。
少しはこっちにも話振れよ、と思いながらティファとサラと後ろをついていく。
倉庫の中では今も整備班が忙しなく動いており、演習や慣熟訓練に使用したブレイクイーグルの整備を行っている。
「実は僕もあの人達に教えてもらって簡単な整備はできるようになったんです。とはいえ、半年以上ロクに動かしてないので、動くかどうかちょっと怪しい気はしますが……」
苦笑しながらそんな事を言うレイトは更に奥へ、奥へ。
そして、倉庫の最奥。ホコリが積もっててもおかしくない様な場所の一角に、シートが被せてある所があった。
なるほど、これがレイトのネメシス。
「それじゃあ、見せますね」
そう言って、レイトは勿体ぶらずにシートを取っ払った。
そして現れたのは、白い機体。
レイトの愛機であった、ホワイトビルスター。
それを見たティファはふーん、と声を漏らした。
「まーたすごい機体ね……武器と一体化した腕パーツとかほんとどうなってんのよ……」
ホワイトビルスターの武装は肩部装甲と一体化した小型ガトリングと胸部装甲内のミサイル、それからこれまた珍しい脚部と一体化したビームセイバー。
そして、一番目立つのは腕部スナイパーキャノン。腕の汎用性と機体重量を犠牲にする事でスナイパーキャノン特有の取り回しの悪さをある程度克服した腕パーツだ。
また、背部には推進ユニットが搭載された特殊な盾も装備されており、スナイパーキャノンのデメリットをある程度打ち消せるようになっている。
それこそが。
「これが僕の愛機、ホワ──」
「ホワイトビルスター……!!?」
ホワイトビルスター。
その名を口にしたのは、トウマだった。
「え?」
「嘘だろ……ホワイトビルスターってことは、まさかレイト、お前……」
ホワイトビルスターという機体は、トウマも知っていた。
なぜか?
それは、単純だ。
ゲームで何度もやり合った機体だから、だ。
そして、それを駆るプレイヤーは、ただ一人。
「お前、『全一』か……?」
そう。ネメシスオンラインのランカー。
そのランカー達の誰もが猛者として名を挙げる存在。ネメシスオンライン初のランカーにして、以降常時ランキング1位を貫いた、ネメシスオンラインの例外中の例外。
そのランキング1位。通称『全一』が使っていた機体こそが、この腕部スナイパーキャノンが最大の特徴とも言える機体、ホワイトビルスター。
「……それを知ってるって事は、トウマさん、もしかしてランカー?」
「あぁ、そうだよ。ランカーだぜ、『室伏幕府』」
レイトのゲーム内での名前。それが『室伏幕府』だ。
「じゃあ、トウマさんは」
「『Y-UMA』だ」
そして、トウマのゲーム内での名前は『Y-UMA』。
それを聞いたレイトは笑い、トウマも笑う。
何だか一触即発かもしれない雰囲気。ティファとサラは何かあってもいつでも止めれるように構えて……
「ウソ本当に!!? Y-UMAさん!!? まさかこんな所で会えるなんて、会えて嬉しいよ!!」
「俺もだよ全一!! まさかお前が来るなんてさ!! しかもこうして顔合わせられるなんて本当にツイてるよな!!」
2人がテンション高めに笑いあったため、ティファとサラがズッコケかけた。
お前ら知り合いかい。
「え、えっと……トウマ、知り合いだったの?」
「ん? あぁ、ゲームでのな。よくPvPしたし、レイドも一緒にやるくらいには仲良かったんだぜ」
「そうだねぇ。僕もレイドやろうかなーって時に誘うのってY-UMAさんくらいだったし。それに、始めたのも同じタイミングだったしね」
「そうそう。都合が合えば一緒に遊んでたんだぜ」
そう、実はトウマことY-UMAとレイトこと室伏幕府はゲーム内ではマブ。結構仲のいいフレンドだったのだ。
同じタイミングで始め、偶々同じクエストを遊んだ際にフレンドとなり、それからは事あるごとに一緒に遊んでいたのだ。
それから先にレイトが、その後にトウマがランカーとなり、そうなってからも一緒にレイドを遊んだりと。
まぁ、普通に仲のいいゲーム仲間だったのだ。
「そ、そう……なのに顔見ても分からなかったのね」
「リアルでは会ったことないしゲームだと顔見れなかったしな。あと本名も知らなかったし」
「あるあるな関係だっただけだよ」
「あんた達の時代、変わってるわね……」
この時代だと通話なんて互いの顔見てやるのが普通である。
「いやー、まさかレイトが室伏幕府とはな。変な偶然もあるもんだ」
「そだねー」
漂流なんて滅多に起きないのに、まさか知り合いが同じ時代に漂流しているとは。
これまた変わった偶然である。
「あ、そうだティファ。どうせならレイトの機体、メンテしてやってくれねぇか? 知り合いの機体だしさ」
「え、えぇ、構わないけど……」
「え? いやいや悪いよ流石に」
「気にすんなって。金なら俺の方から出すし」
「それこそ悪いって。僕が払うから。それで、幾らかな?」
「い、いえ、タダでいいわよ、タダで。ゲーム産の機体は中身見るだけで勉強になるから……」
「それこそ悪いよ。今度相場調べて払うね」
なんというか、急展開が過ぎてティファもサラもついて行けていない。だと言うのに野郎2人は勝手に盛り上がっている。
どうするか? とティファはサラと視線を合わせる。
放っときましょ。サラの目線がそう訴えていたので、勝手に盛り上がる野郎共を放置し、ティファとサラはその場を抜け出したのであった。
―――――――――――――
後書きになります。
今回はホワイトビルスターについて
・ホワイトビルスター
全一、室伏幕府ことレイトの愛機。武装は腕と一体化したスナイパーキャノン、肩部小型ガトリング、胸部ミサイル、ビームセイバーのみ。盾はあまり頑丈ではない代わりにブースター機能がついた物で、これを背中に装着して追加ブースターにしている。
名前の元ネタはホワイトグリント+スタービルドストライク。
色々と武装を詰め込んでいるが、レイト自身ミサイルとガトリングの扱いは苦手。
基本的にスナイパーキャノンだけで戦う想定。
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