光の翼
『ほぼ勝負あったわね……トウマ、折角だしV.O.O.S.Tを使うわよ』
ほぼ勝ち確。そんな状況だったが、ティファが意外な提案をしてきた。
V.O.O.S.Tはマリガンとの決戦以降、トウマが自発的に切った事はない。精々メンテの際に少し使う程度だった。
だが、V.O.O.S.Tは多少ではあるが改良されており、整備無しでもインターバルを挟めば3回程度までなら発動可能となった。
もっとも、発動可能となった所で使うような場面は一切無かったのだが。
V.O.O.S.Tの光の翼の出力も模擬戦仕様にして弾は防げるが装甲は切り裂けない程度の出力になる事は確認しているので、ここで発動した所で万が一はない。
無いが、理由が分からなかった。
「ん? 何でだ?」
『折角だし地上でのV.O.O.S.Tの調整もしたいから。少し調整不足な部分があるのは否めないけど、あんたなら大丈夫でしょ?』
それを聞いてなるほどと頷いた。
確かにスプライシングPRのV.O.O.S.Tは宙域でしか使った事はない。
理論上は地上でも使えるというのは確認済みだが、テストはまだしてないのだ。
ならば、この際やっとくべきだ。
「トーゼン。スプライシングPRの性能、見せつけるか!」
『えぇ、行くわよ! リミッター解除、決戦機能開放!』
「V.O.O.S.Tッ!!」
そして、V.O.O.S.Tが起動。スプライシングPRの世界最強の力がその姿を見せる。
全身から生える光の翼は地上からであれど神々しく見える。
「あ、あれは、何だ……? ビームの……光の、翼?」
「何の光ッ!?」
「おいお前らあの機体のデータを取れ!! よく分からんがヤバイぞあれ!!」
「全身からビームなんてどんなイカれたジェネレーターを積んでやがるんだ!? 動力炉直結でもしたのか!? 馬鹿じゃねぇの!?」
「すげぇ整備班が趣味の顔全開にしてる」
「って事は相当ヤバイのか、アレ……」
V.O.O.S.Tを見た瞬間に整備班の隊員達が仕事を放り投げてスプライシングPRのデータを取り始めた。
その様子を見てティファはドヤ顔。凄かろう我が最高傑作は。褒め称えよ。
「さぁて、行くぜスプライシング!」
その様子を知らず、トウマはスプライシングを駆る。
まずは一撃でブレイクイーグルを達磨……と思ったのだが、少しスプライシングの反応が鈍く、ブレイクイーグルの右腕を切り裂くに終わった。
切り裂いたとは言っても、勿論訓練用の出力なので両断には至っておらず、判定が出ただけだ。
「ん? ティファ、動きが全体的に鈍い!」
『宙域じゃないから放熱による冷却が追い付いてないのね。駆動系に熱が籠って動きが鈍くなってる。地上だとメンテ用の緊急冷却ハッチも開かないと駄目ね。トウマ、装甲が一部薄くなるわ。動く分には問題ないけど攻撃を受けるとマズイわ』
「オーケー。要するに当たるなって事だな。任せとけ」
宇宙という絶対零度に近い環境での放熱を想定していたためか、V.O.O.S.T時の放熱が地上では追い付いていなかった。現に、スプライシングからは光の翼の他にも蒸気の様なものが上がっている。
しかし、その場合の対策も当然してある。放熱が足らないなら更に放熱するまで。
ビームの翼こそ出ないが、更に装甲が開き、それにより無理矢理放熱を促す。
結果は成功。スプライシングPRの動きは正常な物に戻った。
「よし、後は!」
思いっきりスプライシングPRを動かし、相手に肉薄する。
既存のネメシスの枠を超えた加速にブレイクイーグルのパイロットはついて行けず、すれ違いざまにスプライシングPRの光の翼がブレイクイーグルを両断。
判定は勿論スプライシングPRの勝ちとなった。
「どんなもんよ!! ティファ、スプライシングの調子は?」
『大丈夫。オールグリーンとまでは行かないけど、そこから通常稼働に戻る分には問題なしよ。うーん、やっぱり放熱が間に合ってないわね。地上戦はあまりV.O.O.S.Tを使わないほうがいいかも。使えても1分かしら』
「そこはしゃーない。使えないよりマシさ」
そもそも宇宙でのV.O.O.S.Tだって3分しか使えないのだ。多少短くとも変わらないし、タイマンであれば1分もあれば片は付けられる。
それに、V.O.O.S.Tを使わないスプライシングPRだってネメシスオンライン産のネメシスを凌駕する性能を持っているのだ。例えV.O.O.S.Tが使えなくとも問題はない。
圧倒的な性能差のパイロットの技量を見せつけたトウマとスプライシングは地面に降り、コクピットからトウマが出てくる。
「よっ、と……お疲れさん、相棒。流石の調整だったぜ」
「そっちこそ、流石の腕前ね、相棒」
スプライシングを降りてからすぐにトウマはティファの元へ向かい、ハイタッチ。
マリガンとの戦い以降、前よりも距離が縮まった2人なりの称え合いのようなものだ。
対して機兵団側はと言うと、かなり騒々しかった。
「あー…………もしかしてV.O.O.S.Tは劇薬だったか」
「みたいね」
V.O.O.S.T使用時はティファも計器類の確認と調整に集中していたため途中からは周りの喧騒が聞こえてなかったが、流石に落ち着けば嫌にも聞こえる。
ティファ的には気持ちは分からんでもなかった。メカニックとして、既存の技術を超えたオーパーツとも言える機能を見せられば興奮するものだ。
そんな騒々しい機兵団側の中から、ランドマンが抜け出してきた。
「すまないな、騒がしくて」
「いえ。それで、評価はどうです?」
「文句無しだな。君の相手をしたのはウチの中でも腕利きだったんだが、そんな奴が手も足も出なかった。正直、あの赤いネメシスのような敵が出てきたときの対策を立てるための仮想敵として常に置いておきたい程だ」
「それならよかったです。ちなみに、ここにあるネメシス全機を相手にしても負ける気はしませんよ」
「だろうな……特にあのブースト、だったか? あんなよく分からん機能を使われたら勝てる未来が見えん」
それほどまでにトウマの力量とV.O.O.S.Tによる瞬発力は異常だった。
世界最強のネメシスとそのパイロットと名乗れるほどに。
「それで、あのネメシスは一体どこの会社のネメシスなんだ? 見たことないが……」
「わたしが特殊な出自のネメシスと、ジャンクで作った自作のネメシスをニコイチして作りました。この世に2機とないオリジナルのネメシスです」
「…………つまり、あのブーストとかいう機能は」
「V.O.O.S.Tに関してはわたしの完全オリジナルです。一応暇な時間に論文とかも書いておきましたけど、見ます?」
「……………………すまん、頭痛くなってきた」
トウマの方はいい。まだいい。あれは確かに凄いが、人に真似できる範囲ではある。
だがティファの方は本気で意味が分からない。
特殊な出自のネメシスを使ったのはまだいい。それはもう、そういう物で納得できる。
だがそれで何故V.O.O.S.Tというイカれた機能が出来上がるのか。
「何!? アレは君が作ったのか!?」
「あ、はい。わたしの最高傑作です」
「ま、まさか君のような子が……!? 団長、この子はすぐに囲うべきです! ネメシスの常識が変わるかもしれませんよ!?」
「うん、うん……わかってる。ティファ嬢だったか。君にも金は払うからウチのメカニックに教鞭をとってほしい」
「構いませんよ。あ、でもあの子に使われてる技術の大半は特許を取ってるので、それはお忘れなく」
「大丈夫だ……大丈夫だが……なんだこれ、なんだこれ…………」
常識人であるランドマンは何だか胃が痛かった。
そんな訳で、トウマは模擬戦用のパイロットとして、ティファは臨時メカニックとして一時的にハインリッヒ子爵家に雇われる事となったのであった。
「スプライシング……それにV.O.O.S.Tかぁ……流石にあれは僕も勝てないかもしれないけど、まぁ負ける気はサラサラ無いかな。為せば成るなる」
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