奇跡の連携
スプライシングPRの地上戦は今回が初めてだ。
機体のセッティングは数値上は問題ないが、何分テストもしていなかったため若干の不安は残る。
そのため、最近はやっていなかったリアルタイムでの調整をティファが行うことになった。
今回は船からではなく、演習場でホロウィンドウを広げてのリアルタイム調整だ。
「ここまで来るのに若干バランサーの数値がおかしかったわね。あと、スラスターも変に遊ばせすぎてたから調整したわ。トウマ、どう?」
『若干背部のバランスがおかしい。調整できるか?』
「なるほど、バックパックの重量過多ね。それならこっちで何とかするわ。少し前屈姿勢になったりするわよ」
『おう。あと、さっき推進剤の減りが少し早く見えた。これは仕様でいいのか?』
「待ちなさい、確認する…………重力と重量の計算が少しおかしいみたい。これも調整するわ」
その場で通信を繋げながら何枚ものホロウィンドウに目を通し、ホロキーボードを叩いて機体の調整を行う。
ハッキリ言ってやっている事が変態だった。
思わずランドマンも機体のメンテのために付いてきた整備兵達も目を見開いている。
「……なぁ、あれできるか?」
「冗談言わないでくださいよ……本来はもっと時間かけてやるもんですよ。それをたった一人であんな簡単に……」
ティファの場合は自作ネメシス故にスプライシングの全てを知っている事が要因だ。
全てを知っているからこそ、どこをどういじればどうなるかが分かる。
普通はそこまで分からないものだ。
「よし、設定完了。トウマ、最後にテスト」
『………………調子良好。完璧に俺好みだ。ありがとな、相棒』
「お安い御用よ、相棒」
しかも、ティファはトウマ好みに各設定を合わせているのだ。やろうと思ってできる事ではない。
これは本物か、とランドマンが唸っていると、準備が完了したスプライシングPRが動き出した。その動きはここに来るまでの動きよりも更に最適化されているように見えた。
「では、始めるとするか。弾はペイント弾。セイバーは演習用の出力に切り替えろ」
「トウマ、訓練用のプログラムを適応しておいたわ。後は好きにやりなさい」
ランドマンの声でブレイクイーグルに乗った機兵隊員が弾薬がペイント弾であることを確認し、セイバーの出力も演習用であることを確認する。
対してトウマは弾薬だけ確認して終わりだ。しっかりとコクピット側で訓練用のプログラムが動いたのを確認できたからだ。
ちなみに、このプログラムはティファの自作だ。スプライシングPRとラーマナに積んである、トウマとサラのために作ったPvP用のプログラムである。
「では、試合開始!」
そして、模擬戦が始まる。
ランドマンの声を通信越しに聞き、トウマは息を吐いた。
地上戦はほぼ1年ぶりか。
だが、問題はない。
「勝つぜ、スプライシング、ラーマナ」
ツートンカラーのネメシスのツインアイが光る。
それと同時に敵ブレイクイーグルがマシンガンを構えた。それを見てから盾で自身を隠すと同時に、空へ舞い上がる。
だが、その瞬間違和感。
「ティファ! 盾を持つ手の動きが鈍い! 重力に引っ張られている!」
『構えたせいで重心が変わったのね、合わせるわ』
「助かる!」
『持ち手と重力を計算して、パワーアシストの数値を再設定……エネルギー伝導率を高くして、これでどう!?』
「軽くなった! 最高だ!!」
盾を持つ手に違和感があったが、それも即座にティファが修正する。
そしてすぐにライフルを構えてペイント弾を放つが、ペイント弾は照準とは違う場所へと落下してしまう。
「すまんティファ、照準がおかしい! 30秒間は自力で合わせるから後は頼む!」
『照準ね、了解。なるほど、トウマ、一つの要因は風ね。それはそっちで調整をお願い。あとは重力による弾道の計算が狂ってるから合わせるわ』
「風了解!」
ティファとやり取りをしながら、敵のマシンガンを地上と空中を跳ねるように飛び回って躱し、お返しに自力で照準を修正してのライフル弾を放つ。
結果的に弾は直撃せず至近弾となったが、ブレイクイーグルに乗った機兵隊員が冷や汗をかくには十分だった。
動かなければ負けると判断したのか、ブレイクイーグルは横に向けて走りながらマシンガンの弾をばら撒く。それをトウマはブーストで無理矢理スプライシングPRを横向きに飛ばし続けて避ける。
『よし、修正完了! 適応、3、2、1!』
「当てるッ!!」
照準の修正が入った瞬間にトウマは狙いを定め、ライフル弾を放つ。
ただ横に走るだけだったブレイクイーグルはそれを避けれず、マシンガンにペイント弾が被弾。マシンガンは使用不可になった。
それ故か、ブレイクイーグルはセイバーを手に突っ込んでくる。
しかし、速度はスプライシングPRの方が上。ブレイクイーグルは何とかスプライシングPRを追うが、追い付けない。
「凄まじいな、彼の技量は……まさかライフルをあそこまで正確に当てるとは」
「いえ、それだけじゃなく……先程まであの機体の照準機能は狂ってたんですよ? それを数十秒で合わせて、しかも合わせる前に至近弾を撃ち込むなんて……マシンガンに撃たれながらそれをやるなんて考えられませんよ」
ランドマンと機兵隊員の一人は先程の一連の流れでトウマの力量をある程度掴んでいた。
何故宙賊や軍のネメシスがマシンガンを使っているかと言えば、数撃ちゃ当たるからだ。ライフルなんて、よく狙わなければ当たらないのだから、ある程度狙いが大雑把でもいいマシンガンの方が好まれる。
当てれば強いが当てるのが難しいの典型例がライフルなのだ。それを使いこなすトウマの力量には目を見張るものがある。
FPSゲーム等で例えれば壁ジャンプ等を繰り返して相手のマシンガンをほぼ避けながら単発銃のエイムを合わせて的確に当ててくるようなイカれた技を常時披露しているのだ、トウマは。しかもさっきまでは弾が中心に飛んでいなかった。
この世界で同等の事ができるのは、トウマが知る限りサラだけだ。
―――――――――――――
後書きというか蛇足になります。
Q:ティファがやってる事ってどれくらい変態?
A:キ○・ヤマトの戦闘中のOS修正並のことをトウマの好みに合わせながらやってます。変態です
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