ハインリッヒ子爵家

モダンロード

 ハインリッヒ子爵家の屋敷。それは、ハインリッヒ子爵領の中に唯一存在する惑星に存在する。

 勿論別の国なのだが、この時代において傭兵が国を越えるのは珍しくないので、申請はすぐに済んだ。どうやらここら辺は完全に自動化されており、申請が来たら即座に犯罪歴の確認だけして申請を受理してくれるらしい。  

 更に、ティファの船は幸いにも大気圏突入機能が付いていたため、船をどこかのコロニーに置いておき、なんていう面倒な事はせずにすんだ。

 ハインリッヒ家の来客専用に設けられている地上ドックに船を入れ、3人は星の上に立った。


「うおっ、なんか変な感じがする……」

「そういえばトウマはこっちに来て惑星に降りたのは初めてだっけ。長いこと星に降りてないとそういう感覚が出ちゃうのよ。わたしも変な感じするし」


 星の重力というのは、何となくコロニーの重力とは違う気がする。初めてコロニーに降りたときはそんな感じもなかったのだが。

 降りてからすぐ、ハインリッヒ家の者と思われる者達が現れた。恐らく私兵か、執事か。燕尾服なので恐らく執事だろう。


「サラお嬢様。よくぞご無事で。ご帰還を心より嬉しく思います」

「ん、あんがと。それより、案内よろしく。こっちの2人はあたしの仲間だから、手荒な真似はよしてね」

「はっ。例え何があろうと、この身に変えて守ってみせましょう」


 こういうのに当たり前のように対応するの、やっぱお偉いさんの娘なんだなぁ、と思う。

 そんな風に思いながら前を歩くサラと、それを案内する執事らしき人の後ろを歩き、用意された車に乗り込む。

 そして移動しつつ、窓越しではあるが初めて見るこの時代の惑星の街並みというのは、案外コロニーと大きな差異は無かった。


「へぇ、惑星もあんま変わんないんだな」

「んー、まぁ、ね。ただ、土地代はヤバイわよ。コロニーで豪邸建てられるくらいの値段でようやく普通の家が建てられる程度。そんだけ土地代の差が凄いの」

「ま、マジか……やっぱ人口増加が背景にあるのか?」

「そうね。元々増えすぎた人間が新天地を目指した結果が星への移民。それすら間に合わなくなった結果がコロニーだもの」


 そのため人類の大多数は宇宙に、一部の富裕層は星に。そんな構図ができたらしい。

 一応ティファの持ち金でも家が建つ程度の土地を買えるか怪しいのだ。


「国の主導で色んな星のテラフォーミングは進んでるけど、テラフォーミングなんて1世代かけてやっと終わる程度。今の構図は更に極端になることはあれど、消え去ることは無いでしょうね」


 それが、この時代の抱えた闇のようなものでもあった。

 まさか惑星で暮らすことが贅沢になるなんて。

 そんな事をボーッと、窓の外を見ながら思っていると、ふと外の光景はビル等が立ち並ぶ場所を少しずつ離れていき、周りに家も何もない場所へ。その中心とも言える場所には一つの豪邸があった。

 あれがハインリッヒ子爵の屋敷か。


「……ウチの家、機兵団も持ってるから無駄に土地が広いのよ。今日は訓練してないみたいだけど、偶にネメシスが飛んでたりするのよ」


 ふとサラが口を開いた。

 なるほど、ネメシスの訓練用に広い土地を確保しているという事か。

 ネメシスの地上戦というのは、基本的には着地も少し挟むものの空中に浮いて行われる。

 地上での移動方法がスラスターを吹かせた高速移動か歩きしかない。そのため、空中に浮いての擬似的な立体移動を用いるのが地上におけるネメシス戦だ。

 勿論セオリーは空中で足を止めないこと。時折地上に一瞬着地し、Vの字を描くように再び飛翔、という動きを繰り返す事だ。もっとも、これは宙域戦をしていれば何となくわかることでもある。


「さっ、着いたわ」


 なんて考えていると、サラから声をかけられた。

 自分で車のドアを開けようとしたが、1人でにドアが開く。そういえばこの時代のドアはそこら辺も全部自動だった。

 降りてから改めて空気を吸うと、どこか新鮮な気分になる。


「それじゃあ、そうね……客室を2人分用意させるから、2人はその間、この家を軽く案内してもらって。ねぇ、丁度いいやついない?」

「それでしたら、最近雇った者が。彼に案内させましょう」

「頼んだわ。あたしは父様達と家族会議だから、暫く顔出せないと思う。まぁ、あたしの仲間だから変な扱いはさせないし、休暇の延長として……って、何よその顔」


 サクサクと自分達の事が決まっていくのを見て、ティファとトウマはちょっと変な表情をしていた。


「いや……人を使うの慣れてるんだなーって」

「まぁ産まれた頃からこんなんだしね。傭兵になる時にそこら辺の思考は矯正したのよ。見事なもんでしょ」

「そりゃもう。普通、貴族令嬢なんて人使って当たり前だろうに」

「そこら辺の価値観どうにかするのも数ヶ月で何とかしたのよ」


 そうしていると、車の元まで一人の男が駆けてきた。

 どうやら先程の会話の最中に人を呼び、それが偶々すぐ来たらしい。


「すみません、今来ました!」

「あぁ、ご苦労。今日は彼等を案内してくれ。屋敷をぐるっと、それから……そうだな、機兵団の所も案内してくれ。彼等ならそれで暇も潰せるだろう」

「は、はい。えっと、それで、そちらに居るのが……」

「そういえば初めて会うんだったな。彼女がサラお嬢様だ。また後で挨拶する時間を取ってもらうから、まずは自分の仕事を頼む」

「は、はい! 承知いたしました!」


 すると、元いた執事はそのままサラを連れてどこかへ。代わりにもう一人の、最近雇われたばかりらしい燕尾服を着た男が残った。


「えっと……初めまして、僕はレイト・ムロフシです。本日はお客様のご案内を務めさせていただきます」


 レイト・ムロフシ。

 この時代では珍しい名前だ。


「よろしく。わたし達はただの傭兵だから、あんまり気負わなくていいわよ。わたしはティファニア・ローレンス。ティファって呼んで」

「トウマ・ユウキだ。よろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 レイトはトウマの名前を聞いて少し顔を顰めたが、すぐに仕事用の表情に切り替えた。


「じゃあ、まずはお屋敷を案内しますね。それと、入ってはいけない場所もあるので、そちらも案内します」

「えぇ、助かるわ」


 という事で、レイトの案内でまずは屋敷の中をぐるっと見て回ることとなった。

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