綺麗な屋敷
ハインリッヒ子爵の屋敷は地球で見たどの建物よりも豪華で、中に入れば掃除用のロボットが忙しなく動いている。
どうやら自動化はそこそこされているらしい。
「えっと、じゃあ……まずは客室からご案内しますね。場所だけでも覚えておいた方がいいと思うので」
という事で、まずは客室。
場所だけ覚えてから、それから客人が使ってもいい設備や行ってもいい場所。それと、使用人も使う食堂も見せてもらった。
ただ、客人は基本的に食堂ではなく、部屋で食べるか当主とその家族の居る客間等で食べるらしく、恐らく使わないだろうとの事。
絵に描いたような豪邸に目を奪われる2人だったが、その様子を見てレイトは分かります、と口を開いた。
「僕もつい最近雇われたんですけど、最初は屋敷の大きさに驚きました。あと、どこに何があるのかも最初は分からなかったですね」
「そうよねぇ……あっ、もし迷ったらどうしたらいいの?」
「その時はこんな感じで壁を3回ほど軽くノックしてください。そうしたら屋敷のセンサーが反応して使用人が駆け付けますから」
「すげぇ……」
まさにハイテクである。
「それじゃあ次は、機兵団の所に案内しますね」
という事で次は機兵団の元へ。
機兵団の隊舎は比較的遠くにあるらしく、レイトの仕事用だという敷地内移動用の車で移動することとなった。
そして車に乗り、移動という事になったのだが……
「あの、トウマさんでしたっけ?」
「ん? どうした?」
「トウマさんの出身ってどこなんですか? 名前とか、髪の色とか、この国の出身にしては珍しいなーって思って」
そう言うレイトだったが、彼の名前も髪の色も、日本寄りだ。
トウマも少し気になっていたが、レイト自身も気になっていたのだろう。
「あー……俺、実は漂流者でさ。今から何千年も前のアマノガワ銀河の地球って所の出身なんだ」
「えっ!!?」
「だから、レイトには言っても分からないと……」
「僕もです!!」
その言葉にトウマが固まり、ティファも固まった。
ンな馬鹿な。
「…………へ?」
「僕も地球人……いえ、日本人なんですよ!!」
「………………嘘だろ?」
「マジです! えっ、ちなみにトウマさんってどの時代から来たんですか?」
「えっと……2020年頃だけど……」
「お、同じです! 僕もそれぐらいの年代からここに漂流したんですよ!」
そんな馬鹿な。
いや、あり得ないことはない。
マリガンだってよく考えてみれば、トウマと同じ時代、同じゲームをやっていた人間なのだ。だからもう一人同じ境遇の人間がいてもおかしくはない。
ないのだが……
「ティファ……これってあり得るの?」
「し、知らないわよ……天文学的な確率でワンチャンってレベル、かしら……」
ありえないと一蹴する事は可能だ。
だが、それでは思考停止だし、何より本人の言葉を信じない事になる。
「マジか……マジか……!」
まさか、まさか日本人に会えるなんて。
困惑の中に嬉しさやら何やらが混ざってよく分からなくなってくる。
それはレイトも同じようで、テンションこそ上がっているが、二の句が出てこないようだった。
「……ちなみにさ、レイト。お前、ネメシスオンラインやってた?」
「や、やってました」
「…………俺も」
「………………ここまで偶然が重なると、なんか怖くないです?」
「こえーよ……こえーけど嬉しいんだよ……!」
もう本当に。
何か作為的な物があるのでは、と思ってしまうくらいには。
「……ネメシスオンラインって事は、まーたトウマ並のバケモンが湧いた可能性があるって事ね…………」
「だ、だな……」
「あ、あははは……まぁ、トウマさんがどれほど強いか分からないですけど、僕、結構強いですよ?」
「ほーん?」
真っ向からそう言われると流石に闘争心がふつふつと湧いてくる。
だが、今はそれを抑える。
「そうは言うけど、レイトはネメシス持ってるのか?」
「持ってますよ。僕の、最強の相棒を」
「なんだ、持ってるのか。なら傭兵とかやらなかったのか?」
「僕は目覚めてすぐに機兵団の人に拾われたので、そのまま流れでこの家の雑用係として雇ってもらったんですよ。それに、ネメシスの整備もちょっとは覚えましたけど、当時はなんの知識も無かったので」
なるほど、とトウマは頷いた。
しかしそうなると、自身のネメシスと共に漂流しなかったのは、現状トウマ一人だけという事になる。
だが、もし一緒に漂流していなかったらスプライシングという新たな相棒を得ることもなかったし、ティファとも組む事は無かったのだ。
少し複雑な気分になる。
「さっ、着きましたよ。ここが機兵団の隊舎です」
案内された隊舎は、大きな倉庫が隣接している建物だった。倉庫の中には恐らくネメシスが格納されているのだろう。
隊舎の方も勿論立派で、結構金がかけられているのが見て取れる。
「凄い豪華ですよね。ハインリッヒ子爵は昨今の戦場は白兵戦もそうですが、ネメシスを使った戦争もあるので、そちらにも力を入れてるんですよ。僕も最初は凄い豪華で驚きました」
レイトが隊舎を見て軽く驚いているトウマを見て事情を説明してくれた。
機兵団はネメシスでの戦闘は勿論だが、船を動かして宙域戦の中核を担う部隊だ。故に、その部隊に万が一が起きないよう、金は惜しんでいない。
それで守れる民の命があるのなら、惜しむ必要は無いのだ。
「後は、もうすぐですかね……」
レイトが端末を手にそんな事を口にした。
その時だった。倉庫が開き、そこからネメシスが現れたのは。
「うおっ!? あれは……」
「ハインリッヒ機兵団で運用されている軍用ネメシス、ブレイクイーグルです。第5世代の最新鋭ネメシスで、コスパが良く、整備のしやすさが売りのネメシスらしいです」
ブレイクイーグル。
ブレイク社という、主にティウス国にてシェアを広げている会社が売り出している軍用のネメシスだ。
軍用というだけあり性能は凄まじく、第5世代の中でもトップクラスの性能を誇る上にアタッチメントによって戦況にあわせて様々な運用ができるという、この時代においては量産機の要とも言える量産機だ。
「かっけぇなぁ……」
「わかります。量産機、いいですよね」
「うん。マジで神」
「ロマンですもんねぇ」
「ロマンだよなぁ……」
「うわトウマが増えた…………」
ロボオタ同士の会話に語彙など要らない。
いいよね、ロマンあるよねで全て通じるのだ。そこに語彙など必要だろうか。
否、必要ない。
なおティファは直感的にレイトがトウマの同類である事を見抜いて嫌気が差した。
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