真実

 リゾートコロニーでの休暇は予想通りと言うべきか楽しい時間ばかりだった。

 遊園地では3人ではしゃぎまくり、水族館では様々な国の海洋生物を見て色々と感想を言いまくった。ウルトラスーパーダイオウハイパーオオグソクムシの裏側はトウマの軽いトラウマになった。

 他にもテニスやゴルフといった定番の遊びや別の星発祥のよく分からない遊びなんかも楽しんだ。


「はーっ、にしても遊んだわねぇ。これからも数ヶ月に一回はこういうとこで遊ぶのもいいかもね」

「だなぁ。俺達余裕があるのに働きすぎだったんだよ」


 働くのが趣味だったとも言える。


「そうよねぇ。というかこんだけ遊んでおいて貯金が全然余ってるの普通に怖いわね……ここに1ヶ月居てもまだ余るでしょこれ……」


 今回のリゾートコロニーでの休暇は1週間。

 遊びすぎた次の日なんかはホテルで1日中ゴロゴロなんていう贅沢の極みみたいな事もしていたが、それでも3人の総資産は全然余裕があった。

 ズヴェーリ討伐や宙賊討伐というのは、それだけ儲かるという事だ。

 これが人の命を救った対価でもある。

 当初は自転車操業だった傭兵業だが、スプライシングPRが完成してから金は余るばかり。

 まぁ、金はあり過ぎても困る事はないのだが。


「そんじゃ、どうする? もうホテルもチェックアウトしちゃったし……」

「そうだな……あっ、そう言えば近くに貴族御用達とかいうフードカートリッジが売ってる場所無かったっけ? そこ見てみねぇか? 面白いのがあったり……」

「無いわよ。面白くなんて」


 そう言えば、といった感じに思い付いた事を口にしたトウマだったが、その言葉を遮るようにサラがトウマの言葉を否定した。

 その言葉にあー、そうだよな? ととぼけるトウマ。ティファは少し面白くない表情。


「サラは行ったことあるの?」

「……ん、まぁ。別に何もなかったわよ。普段食べてるやつのが美味しいくらい」


 こりゃあまり突っ付かない方がいいかもしれない。ティファは面白くない表情をしていたが、溜め息の後にそれを飲み込んだ。


「まぁでも……ロールへのお土産も買いたいし、ちょっとお高めの店行くわよ。庶民からすると貴族御用達とかそういうのって案外気になるもんなのよ」

「…………ま、いいわ。あたしが気にする事じゃないし。それと、ちょっと露骨に拒否し過ぎて悪かったわね」

「別に、その程度じゃ怒らないわよ」


 飄々としたティファに、サラはホッとした表情を浮かべる。

 あまり踏み込みすぎず、されど突き放しすぎず。ティファはその辺の距離感の考え方が上手い。だからサラもあまり気負わない。

 こっちに来てからちょっとボロ出し過ぎかも、と自己嫌悪するサラだが、ティファもトウマも変にそこに対して触れたりはしない。

 サラにとってはこの友人としての距離感が心地よかった。

 そして、3人が向かったのは隣の国の貴族もよく使うのだと言う店に入店。

 ヤケに警備が厳重だったりきらびやかだったりで落ち着かない庶民2人だが、サラはどことなく慣れた様子。


「うへぇ、なんかすげー所……」

「あんま居続けたくは無いわね……とっとと買うもの買いましょ……」

「ン、そうね…………これとか美味しいわよ。ソラクジラのステーキ。あとは……このアンドロメダ銀河の名産果物詰め合わせとか」

「ふーん、確かにパッケージでも普通に美味しそう……ロール、果物好きだしこれにしましょっか。あとわたし達のご飯用にこのステーキも買ってきましょ」

「そうすっか。にしても……ひぇー、すっげぇ値段。毎日食ってたら舌肥えそう……」

「否定はしないわ」


 肉やら果物がカートリッジから出力される、という現実はもう慣れたものなので一旦置いておく。

 そんな訳でお土産用のフードカートリッジ(豪華な箱付き)と自分達用のカートリッジをある程度選んだ所でティファはとっととお会計。

 息が詰まると言わんばかりに店から離脱した。


「はー、こういう店は勘弁ね」

「だなぁ……庶民じゃオーラに当てられて気絶しちまう」

「オーラて……」


 サラは苦笑するが、2人にとっては割と本音だ。

 やっぱり今までの人生、VIP待遇も無ければブランド物の店にも行ったことがない以上、ああいう店は割と緊張するのだ。


「まっ、これで買うもん買ったし、帰るわよ。お仕事お仕事」


 終わった終わったと言わんばかりにサラが前を歩く。

 その様子を2人は軽く呆れながら目に入れ、そしてついて行き────


「──サラ? もしかして、そこに居るのはサラか?」


 3人の背後から、知らない男の声が聞こえた。

 即座にティファが2人を庇うように振り返る。トウマは肉弾戦においてはクソザコだし、サラも傭兵になったのはつい最近なためかあまり鍛えられていない。

 肉弾戦において唯一戦力になるのはティファだけなのだ。

 そんなティファに遅れて、トウマが、そしてサラが振り返る。

 こういう手口はよくある。知り合いを装って何か仕掛けてくる手口だ。だから、警戒はせずに…………


「……父様」


 サラの口から漏れた言葉を聞き、ティファとトウマはサラに視線を向けた。

 今、なんて言った?

 今、聞き間違いでなければ、父様と。


「やはりサラ、サラか!! まさかこんな所に居るとは……!! おいサテラ、サーニャ、サラが居たぞ!!」


 目の前の男は興奮して声を大にしている。

 確かに男からは若干サラの面影を感じられるが……それ以上に気になるのは男の身なりだ。

 明らかに庶民とは違う。お偉いさんだと言わんばかりの服装だし、その周りには護衛らしき人物も何人かついている。

 何度か視線を男とサラとで往復させる。

 すると、サラの表情がみるみる内に困った物に変わっていった。


「あー…………察してたとは思うけど、そういうコトよ」


 つまり。


「…………改めて、どうも。あたし、貴族の家の次女で家出娘のサラ・ハインリッヒです。カサヴェデスは偽名です、はい」


 もうこうなったら逃げられないと言わんばかりの諦めた表情を浮かべたサラは両手を上げて真実を口にした。

 うん、まぁ……


「正直、そんなもんじゃないかなとは思ってたというか……」

「あんな船を単身で持ってた時点で、ねぇ?」

「あはははは……いやほんと、今まで気を使わせてごめんね?」


 サラがどこかいい所の家の出身であることなんて、とっくに2人は察していたのであった。

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