駆け足の生き方
渋々カジノを後にするサラと、急にシーンとした外に出てなんか耳に違和感を持つティファとトウマ。
そんな2人の事など気にせず前を渋々歩くサラに2人はついて行き、この日は後は自由時間。ホテルに戻ったら適当に個人の時間を過ごす事となった。
「んー、自由時間って言っても、なんつーかやる事ねぇんだよなぁ……この時代のソシャゲとかやってねぇし。とりあえず小腹減ったし軽食でも買ってくるか」
という事で暇になったトウマはやることも無いのでブラブラと。
ホテルの周辺をあっちこっち見て回り、店を冷やかしていた。この時代の店先には色々と見たことのない物も売っているので、冷やかすだけでも案外楽しめるのだ。
しかし、冷やかすだけで過ごせる時間というのもたかが知れている。
ある程度の店の冷やかしが終わったところでトウマは帰還。風呂上がりらしくタオルで髪を拭いているティファとバッタリ遭遇した。
「あっ、トウマ。先お風呂入っちゃったわよ」
「ん、了解。今はサラが?」
「えぇ、入ってるわ。間違っても入っちゃ駄目よ。命が惜しいなら」
「しねーっての。お前らの裸なんて見ても嬉しかないわ」
トウマの顔面に飛び膝蹴りが刺さった。
前が見えねぇ。
「んじゃ、わたしもうベッドで横になるから」
「これはやり過ぎだと思わんのかね?」
「おやすみー」
「おいこら」
どうやらこのロリっ子的には適切なお仕置きらしい。いつか死ぬわ。
前が見えねぇ状態でとりあえずサラの風呂上がりを待ち、サラが風呂から出て寝室に入っていったのを確認してからトウマも風呂に入った。
そして風呂から出たあとはベッドに横になりながら、海とか写真撮っとけば良かったかも、なんて思いながら端末を弄る。
友人でも居たら羨ましいだろー、なんて連絡を送ったのだろうが、生憎この時代で関わりがある人間というのは少ない。ロールの連絡先は一応知っているが、プライベートで何かする仲でもない。半分事務的な関係だ。
ネットで動画を見ようにも何となくそんな気になれず、結局ベッドから起き上がって寝室を出て、冷蔵庫からルームサービスとして置いてあるジュースを1本手に取った。
これを飲んでから寝るか、なんて思っていると、話し声なんてしないのに女性陣の寝室のドアが開いている上に電気が付けっぱなしなのが目についた。
寝落ちでもしたのか? と思って寝室を覗くが、見たところ寝ているのはティファだけ。サラの姿が無い。
とりあえず飛び膝蹴りの礼にティファの額には『肉』と水性ペンで書いておいた。やーいキ○肉マン。
イタズラをし終えて寝室を出るが、やはりサラの姿はない。
外に誰かが出ていった様子も無いし……と思い、ふとバルコニーの方に視線を向けると、人影が見えた。サラだ。
「よっす。何してんの」
「あっ、トウマ……?」
風呂から上がってとっくに寝間着に着替えたサラだったが、彼女はバルコニーにある椅子に座って1人空を見上げていた。
そんなサラの横に座り空を見上げれば、コロニー特有の逆さになった大地が目に入った。
円柱型の物体が回って重力を生み出しているが故の光景だ。この時代では珍しくなく、トウマにとっては珍しいがこの数ヶ月で見慣れた光景だ。
「…………不思議よね。最初は喧嘩で始まった関係が、こんな風になるなんて」
「ん、まぁな」
何も言わずに手に持っていたジュースをサラに差し出せば、サラは1言礼を言ってそれを受け取った。
「…………偶にね、思うの。あたし、こんな事してていいのかなって。このまま傭兵してていいのかなって」
「いいんじゃねーの? 俺はサラの事情知らねぇけどさ、俺達ゃ正義の味方やって金稼いでるんだし」
「……そういう問題じゃ、ないんだけどね」
しかしトウマはそれ以上踏み込まない。
何となくサラの事情は察しているが、決してそれは口にしない。
どうして20歳にも満たない少女が自分の船を持っていたのか。そもそも傭兵になったのか。
ティファのような例もあるが、きっとサラはそうじゃない。
だとすれば、自分の小型船を買う方法なんて、相当裕福な家に産まれ、そこから家出した際に買った、くらいだ。
「…………今日、楽しかったか?」
「……えぇ、楽しかったわ。昔のあたしじゃ考えられないくらい」
「そっか。ならよかった」
「ん……」
いつにもなくしおらしいサラを尻目に、トウマも空を見上げ続ける。
あぁ、いい光景だ。地球からは、考えられないような。
「…………ねぇ、トウマ」
「なんだ」
「あんたがこっちに来る前、どんな生活してたのか……聞いていい?」
「いいけど、つまんねぇぞ」
「いいのよ。あたしにとっては、新鮮だから」
「そうだなぁ……じゃあ、大学からは血尿出してゲームしてただけだし、高校あたりの話するか」
そうして、夜は更けていく。
サラは何気ない一般人の日常を聞き、静かに微笑むのであった。
ちなみに翌朝、トウマは9割殺しにされた。サラは寝室に戻ったとき大爆笑したが、翌朝は気づかないふりをして難を逃れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます