銀河の傭兵
ガベージ・コロニー戦役。
それは半年前に行われた、国軍vs宙賊という、本来であれば戦争にもならない筈の戦いに付けられた名だ。
この戦いは、ネメシスを使った戦闘において余りにも突出した個の戦力は戦況すら覆すという、通常であればあり得ない事が起こった戦いであった。
現代的に表現するなら、たった1機の戦闘機が何百機もの戦闘機と何十個の拠点を破壊したという事なのだ。それも、その1機の戦闘機は奇襲などではなく真っ正面から万全の備えをしていた部隊に襲撃を仕掛けた上で、だ。
そんなあり得ない状況が起きた稀有な例としてこの戦いには名が付けられた。
だが、その戦いは奇しくも、その個を凌駕する個により戦況は更に覆り、結果的に国軍の勝利になった。
しかし、宙賊というのはどこからともなく湧いてくるしどこからともなく漏れ出るもの。
ガベージ・コロニーに所属していた宙賊の一部は何とかその場を離脱し、悪事を働いていた。
「クソッ、何でこんな所に賊が居やがるんだ! ガベージ・コロニーとやらでくたばったんじゃねぇのかよ!!」
その傭兵はネメシスを持っておらず、主に配達やジャンク漁りで生計を立てている傭兵だ。
この日もその日常は変わらず、刺激なんてない毎日にアクビを漏らす筈だった。
しかし、ジャンク漁りの帰りにハイパードライブが使えず、首を傾げていると宙賊が出現。そのまますぐに宙賊のネメシスに囲まれる事となった。
その時にようやくこの現象はハイパードライブジャマーである事を理解した。
逃げようにも逃げれない。故に、彼はいつ取りつかれてもいいように銃火器を手に震えながら操縦室で待つしかなかった。
──しかし、彼には幸運も味方した。
『そこの傭兵、この通信は聞こえてるかしら? 助けは必要? まぁ、答えなんて無くても勝手に手を出すから、嫌なら連絡返しなさい』
そんな通信が聞こえてきた。
と、同時にハイパードライブジャマーが効いている筈の空間にハイパードライブで移動してきた船が、ネメシスを射出した。
白と黒のネメシスと、白のネメシス。
2機のネメシスは既存のネメシスではありえない程の速度で移動し始めたのだ。
『な、何だこいつら!?』
『白と黒の見たこと無いネメシス……? ま、まさかこいつら、首領を殺った!?』
『だ、だがこっちの方が数は上だ! 負けるわけがねぇ!!』
そう、この2機のネメシスは。
この傭兵達は。
「さぁて、宙賊退治の時間だ! サラ、そいつの調子はどうだ!」
『良好も良好。流石ティファの作ったラーマナMk-Ⅱね、この間の試運転の時より調子いいくらい』
『おべっかありがと。トウマ、サラ、派手にやっちゃいなさい』
「おうよ!」
ガベージ・コロニー戦役にて首領、マリガンを討伐した傭兵達、ティファ、トウマ、サラの3人だった。
その中のパイロットであるトウマとサラは己の愛機を駆り、銃口を向けられている船を守るため、ライフルの銃口を4機のファウストシュラークへ向ける。
「落ちろ、カトンボ!!」
『偉そうな強盗行為の報いよ!!』
交戦に入るトウマとサラ。互いに2機ずつファウストシュラークを受け持つが、この2人にとってたかが2機のネメシスなど、性能差も勿論のことパイロットの差もあり、最早敵ではない。
1発目のライフル弾で敵の動きを誘導し、もう1発のライフル弾で敵のコクピットを貫く。それを2人が同時に成したのだ。
『な、何だこいつら!? なんでそんなライフルで当てられる!?』
「腕の差だよ!!」
即座に宙賊はその場をブーストで移動し始め、なんとかスプライシングPRとラーマナから距離を離そうとする。
しかしその程度でスプライシングPRとラーマナから逃げられるわけもない。
ロクに整備もできていないのか、集弾性の悪いマシンガンの雨霰の中を盾と機動力だけで突っ切っていく。
その様は正しく流星。
『は、早い!? こっちはファウストシュラークを持ち出してるんだぞ!?』
「いくら機体の性能が良くてもパイロットが悪けりゃなぁ!」
『所詮は実戦も経験してない、力の誇示だけが生き甲斐の馬鹿共よ! こちとら潜ってきた修羅場の数が違うのよ!』
『クソッ、なんで女の方にすら勝てねぇ!!』
『繊細な操作は野郎よりも女の方が得意なのよ!!』
残った2機のファウストシュラークが手持ちの武装をフルに使って何とかスプライシングPRとラーマナを落とそうとするが、弾は一切当たる事はない。
そして2人はライフルをもう一度放ち、それを敵のマシンガンへと命中させる。
ライフル弾を叩き込まれたマシンガンは爆散し、宙賊パイロットはその光に隙を見せる。
その隙をトウマとサラは見逃さない。
「セイバー、アクティブッ!」
『貫けっ!!』
スプライシングPRは右手に、ラーマナは左手にセイバーを握り、一気に加速。
そのままの勢いでファウストシュラークのコクピットを貫いた。
コクピットを貫かれて生きているパイロットも、動けるネメシスも居ない。
この戦いは、宙賊達の完全敗北であった。
『ば、馬鹿な!? 4機もいたんだぞ!!?』
「俺達を倒したきゃ100機のファウストシュラークが居ても足りねぇよ」
『大人しくあたし達の臨時収入になることね、ド外道共』
鮮やかに宙賊のネメシスを爆散させた2人は、援軍が来てもいいように傭兵の船を守るように移動し、銃口を宙賊の船へと向ける。
それを傭兵は呆然とモニター越しに見ていたが、すぐにティファの船へと通信を繋げた。
その音声はトウマにも聞こえている。
『す、すまない、助かった!! 感謝するよ、アンタ達は命の恩人だ!!』
『そっ。ならとっとと行きなさい。暫く移動したらハイパードライブも使える筈よ』
『あぁ、そうさせてもらう。今回の件の礼は傭兵協会を通して出させてもらう。受け取って欲しい』
『貰えるもんは貰っとくわ』
礼と言っても、多分小規模な傭兵が払える限界の金銭だ。ティファからしたら宙賊からの略奪品さえ貰えればいいので、特に気にしない。
こうして最初は最悪の最期を迎える運命であった傭兵は何とかこの宙域を離脱し、嘲笑う筈の宙賊は最悪の最期を迎えることとなったのだった。
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