何千年先銀河
色んな検査などが終わり、青年はようやく一息つくことになった。
青年にとってはボーッとするのは苦ではなかったので、疲れた頭と体でボーッとしていると、部屋に強面の男が入ってきた。
「失礼。どうやらお疲れのようだな」
「え、ぁ、はい……」
「だろうな。改めて、すまなかった。漂流者の君にとっては分からないことだらけだっただろうに、よく耐えてくれた」
そう言うと、彼は青年の対面にある椅子に座った。
「私はハインリッヒ機兵団の団長をしているランドマンという。君は?」
「ぁ、室伏玲人、です……」
「ムロフシレイト……名前からして、ムロフシが名字で合ってるかな?」
「は、はい」
「では、ムロフシ。まずは君の状況を説明しよう」
そう言うと、彼……ランドマンはレイトの事情について説明を始めた。
「唐突だが、君は時空を漂流し、過去か未来か。どちらかへ流れ着いたというのが私達の見解だ」
「じ、時空? 漂流? え、じゃあ、ここ、やっぱり地球じゃないんですか? 太陽系のどこなんですか?」
「太陽系……? 聞いたことがないな……すまないが、君の生きていた時代について少し話してくれないか?」
そう言われ、レイトはとりあえず自分の生年月日や暦の事、地球がどんな星だったかをランドマンに伝えた。
するとランドマンは手元の端末に表示された情報を見て呆気に取られていた。
「なんと…………アマノガワ銀河の、何千年も前からの漂流者ときたか……」
「……へ?」
「ムロフシ。君は何千年もの時を超え、未来に辿り着いたということだ」
何千年もの、未来。
それを聞き、レイトの思考が止まった。
夢じゃないのか? 本当に現実なのか? 父は、母は? じゃああのネメシスは? そもそも自分は本当に生きているのか?
「となるとあのネメシスだが……信じられんが、同じ場所に同じタイミングでネメシスが漂流したとしか考えられんか。それを偶々ムロフシが動かせた、と…………ムロフシ、君は運がいいな。下手をしたら意識がない間に宇宙に放り込まれて死んでいた所だぞ」
「ぇ」
いや、違う。
あのネメシスはゲームの機体で。
ネメシスオンラインというゲームの機体で。
だから、多分漂流とは違くて。
そんな思考がぐるぐると回るが、口に出せない。
昔からコミュ障で、必要最低限のコミュニケーションしかできない自分の口は、己の状況を伝えることができなかった。
「あぁ、混乱するのも分かる。無理もない事だ。君には一旦この船の客室を貸す。そこで、ゆっくりとでいいから事実を受け止めるんだ。それから、君がこの世界で生きていくための土台を作っていこう」
「ぁ、は、は、い……?」
「すまないな。私達も漂流者を見るのは初めてでな……なんと声をかけていいのか、分からないのだ。だから、君には事情を説明して、理解してもらうしか無いんだ」
ランドマンにそう言われ、レイトは何も答えられなかった。
分からないことが多すぎるのだ。
多すぎて、多すぎて。そして、パンクしそうで。
「では、まずは君の部屋に案内しよう。兵を1人、君の部屋の前に付けるから、分からないことがあったらその者に聞くといい。今は、ゆっくりと休んでくれ」
そう言われ、レイトはそれに反抗するでもなく大人しく従い、客室へと案内されるのであった。
****
漂流者レイトはそれから、何とか事態を受け止め、狂乱する事はなく一つずつ事実を受け止めていった。
友達は居なかったが、父と母は居た。その二人にもう会えないことを知り涙したが、なんとか乗り越えた。偶に悲しくなるが、それは仕方のない事だとランドマンに慰めてもらってから、大分楽になった。
それから、レイトはハインリッヒ子爵が住まうという惑星に降り、そこでIDチップを埋め込んでもらい、ワクチンの摂取も行った。
「では、レイト・ムロフシさん。あなたはこれから、この国の一員となります。もちろん、あなたが1人で生きていけるよう、我が国も多少ではありますが援助させていただきます」
「私達もだ。君を拾った手前、精一杯の手助けはさせてもらう」
「あ、ありがとうございます」
携帯に相当する端末も用意してもらって、住まいまで用意してもらって。
それから、仕事に関しても子爵家の方で用意してもらえることとなった。
レイトの人生は寝て起きたらとんでもない事になっていたが、優しい人達に拾われた事により、なんとか軌道に乗ろうとしていた。
しかし、1つ問題もあった。
それは、ホワイトビルスターの存在だ。
ネメシスの個人所有は認められているが、何分ネメシスは巨大だ。その為、置き場所がないのだ。
レイトに充てられた住まいは現代で言うワンルームのマンション。各設備が日本で見たことが無いハイテクな物になっていたが、流石にネメシスを置く場はない。
当初、ホワイトビルスターを売っぱらう事も提案されたが、それは嫌だった。
何せ、ホワイトビルスターはネメシスオンラインを共に戦った戦友だ。それを売っぱらうなんて真似はしたくなかった。
何故か知らないがホワイトビルスターも実体化してレイトと共に漂流したのだ。だと言うのに、ホワイトビルスターだけを放り捨てる訳にはいかない。
「ふむ……なら、我が機兵団の倉庫の一角で良ければ場所を貸そう。流石に整備まではできないが……」
「お、教えてください! 最低限の整備は、自分で覚えてやります!」
「そうか。ならば、ウチの整備班の仕事を手伝って学ぶといい。ミハイル様にもそう伝えておこう」
「ありがとうございます!」
という事で、ホワイトビルスターはハインリッヒ機兵団の倉庫の一角で保管されることとなった。
いつか売る事になっても、乗って戦うことになってもいいように、レイトの物として保管しておくことになったのだ。
そして、そのタイミングでレイトはハインリッヒ子爵家の当主、ミハイルと顔を合わせることになった。
「君が漂流者のレイトか。話は聞いているよ。君の国には貴族が居なかったそうだから、こちらも礼儀作法は気にしない。いずれ覚えてくれ」
「は、はい」
「それで、君の仕事だが、屋敷の雑用をしてもらいたい。とは言っても、細かい所の掃除や他の部署の軽い手伝い程度だ。だが、それでも国からの支援が切れた頃には給金も合わせて相当な貯金が貯まるだろう。それを元手にやりたい事を探してやるか、このままここで働くか、選ぶといい」
「あ、ありがとうございます! がんばります!」
「なに、気にすることは無い。これも貴族としての義務だからね」
そして、レイトのハインリッヒ家で働く生活始まったのだった。
──彼の持つ牙の鋭さを、まだ誰も知らない。
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