傭兵の日常
時空を超えた。第2の漂流者
この広大な宇宙に散らばる様々な国で、各国で漂流者を見つける頻度というのは、大体5年に1度程度らしい。
コロニー国家メロスでは、トウマの前は12年前。かなり旧式の恒星間航行用のロケットの中から見つかったらしく、その前となると18年前にもなる。
漂流者というのは、1つの国で見ればそれぐらいレアな存在なのだ。故に、まぁ数年に1回、1人くらいなら独り立ちするまでの数年間、手厚い保護をしてやってもいいじゃないか、というのがどの国も持っている考え方だ。
とは言え。様々な国で、短期間で、何人も漂流者が見つかる、という事は本来ありえない。
ありえない、筈なのだが。
『──ぃ! ───い! 聞こ──るか! そこのネメシス、聞こえるか!!』
「…………ぁ?」
ここに、第三の漂流者となりうる青年が居た。
「…………ぇ? っと……?」
『そこの所属不明のネメシス! 応答しろ! 中に誰も居ないのか!?』
青年は目を覚まし、今の自分がどんな事になっているのかを理解できずにいた。
だが、少なくとも分かるのは、これは夢ではない。
何となく……いや、何となくで済まないほど肌寒い。そして、自分は椅子に座っている。
いや、椅子ではない。これは──
「ネメシスの、コクピット……?」
そう、コクピットだ。
VRMMOの中でひたすらに乗り回した、己がネメシスのコクピット。
そこに、普段着で座っている。
『……誰も乗ってない、のか? おい、中を確認するぞ。全く、誰がこんな所にネメシスを……』
それを自覚し、そして聞こえてきた言葉……恐らく通信であろうソレを聞き、冷や汗をかいた。
ゲームの中だろうと、流石に無重力遊泳なんてしたくない。というか、ここまで肌寒く、全身がこれは現実だと訴えている中で宇宙に放り出されたら。
「ぁ、あ! ちょ、ま、待ってください! 乗って、ます!!」
『ん? 何? 人が乗っているのか!?』
「は、はいぃ! だ、だから、あの、開けないで!! 服、服が、あの、その、普段着なんです! 宇宙に出たら、その、死んじゃいます!!」
『はぁ!? まさかお前、パイロットスーツもノーマルスーツも着ずにネメシスに乗って宇宙を散歩してたのか!?』
青年の、いつも通り詰まる言葉が何とか青年自身の状況を伝える。
聞こえる声に必死に応答し、その通りだと伝えると、通信相手からは溜め息が聞こえてきた。
呆れているのだろうか。
呆れさせてしまったのかも、なんて思うと、青年の心がちょっと傷付いた。
『あー……分かった。君、そこの船までこのネメシスを動かせるな? 悪いが君にはあの船でコイツから降りてもらって事情聴取を受けてもらう』
「じ、事情聴取……!? ぼ、僕、何も悪いことしてないですよ!?」
『してるんだよ。ここはハインリッヒ子爵家の領空だ。そこに君は無断で侵入している。不法侵入で罰せられるには十分だ』
「そ、そんなぁ……!?」
まさかの寝て起きて、事情も分からぬ間に不法侵入で犯罪者扱い。
これには青年も流石に言葉を失った。
が、通信相手は安心しろ、という言葉を投げかけてきた。
『君の事情を聞いて、情状酌量の余地があるのなら、多少の罰はあれどそこまで重い罰にはならない。だが、ここで逃げれば君は指名手配だ。そうならないように、まずは君の話を聞かせてほしい。大丈夫だ、私達は君の味方だ。君が悪人ではないのなら、決して手荒な真似はしない』
逃げれば指名手配。
それは困る。
逃げる自信はあるが、流石に追われ続ける上に犯罪者になるのだけは勘弁だ。
「わ、分かりました……えっと、あの船に行けば、いいんですよね?」
『あぁ、そうだな。素直で助かるよ。私が案内するから、君は付いてきてくれ』
どうやらこの機体を動かせるかの確認はしないらしい。
だが、青年には動かし方なんてすぐに分かった。ネメシスなんて、ゲームで散々乗り回してきた。
故に、まずは通信だけ聞こえる状況をどうにかするため、機体のモニター等を立ち上げる。すると、先程まで寒すぎたコクピットはエアコン機能でも付いたのか、すぐに暖かくなった。
そして、モニター越しに見えるのは、宇宙。しかし青年はまだ夢見心地であり、ついでに言うとゲームではこの光景はよく見た光景なのでスルー。
前を進む見たことが無いネメシスの後ろをついていき、そして船の中に乗るのだった。
「え、えっと、後は出たらいいのかな……よっと」
機体の電源を落とし、コクピットハッチを開く。
そして、後はゲームと同じように機体から降りる。降りてから自分の乗っていた機体を確認すると……
「ホワイトビルスター……僕のネメシスだ」
自身の背後には、ゲームでよく見た己の相棒、ホワイトビルスターというネメシスが立っていた。
「…………えっ、ホワイトビルスター? これ、夢……?」
だが、ホワイトビルスターはゲームの中の機体。現実には存在しない。
そもそもゲームでは寒暖差を感じる機能なんて無かったし、頬を抓ってみると普通に痛い。だと言うのに、ホワイトビルスターはそこに居る。
「……げ、現実?」
「君は何を言っているんだ……?」
青年が困惑していると、先導していたネメシスから降りてきたらしい男性がパイロットスーツのヘルメットを外し、呆れ顔で立っていた。
「まさかそんなレトロな服を着てコイツに乗っていたとはな。まぁいい、こっちだ。ついて来てくれ」
「え? あ、あの!?」
淡々と自身の仕事を進めようとしている男性に思わず声をかける。
「どうした?」
「いや、あの……これって、現実、ですよね……? ネメシスもあって、この外って、多分宇宙なのも……」
「……何を言っているんだ? まさかヤバい薬でもキメてないだろうな?」
「し、してないです! た、ただ、あの……僕、目が覚めたらホワイトビルスターのコクピットに居て、あなたの声が聞こえて、その、訳分かんなくて……」
「何……? …………まさか、漂流者とでも言いたいのか?」
「漂流者……?」
「あー…………すまない、今は何も言わずについて来てくれ。一通り検査もしたい。勿論、君に害がない事はハインリッヒ機兵団の名にかけて保証する」
そう言われると従わざるを得ない。
男に従い、船の中を歩く。すると、何やら変な端末を手に当てられたり、軽く採血されたり、健康診断みたいな事をされたり。
プレイヤーが使う小型船よりも遥かに大きな船ではあったが、医療設備まであるのは驚いた。
それらが終わり、青年がヘトヘトになった頃、青年は椅子とテーブルだけがある質素な部屋に通され、そこで待機させられる事となった。
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