戦士よ、立ち上がれ

「──スプライシング・パッチワークドラーマナ!! トウマ・ユウキ、行くぞッ!!」


 そして、真空の宇宙へとツートンカラーのスプライシングが。

 スプライシング・パッチワークドラーマナが飛び出した。

 その推力は凄まじく、前のスプライシングを遥かに超え、そして、ラーマナすら超えている。

 この推力を齎すのは、2機分の動力と大型化させたバックパックによるものだ。

 動力炉2つと大型化させたバックパックによる力技の推力はとてつもなく、パイロットスーツを着ていなければ一瞬で気を失うほどのGをパイロットに与える。

 そんなパイロットスーツ越しにも感じるGに表情を強張らせながらも、トウマの操作は一切のミスを許さない。

 少しでも制御を間違えば動力炉にかけたリミッターすら超えたエネルギーが機体に送られ機体が空中分解する可能性すらある。

 しかし、そんな欠点を無くすのがトウマの類稀なる操縦テクニック。そして。


『推力、エネルギー供給共に異常なし。大丈夫、全数値オールグリーンよ。トウマ、そっちに異常は?』

「大丈夫だ。引き続きモニターしてくれ」


 この機体は常時ティファが船からモニタリングしている。

 あまりにもピーキーな上に想定された最大出力に機体そのものが耐えられない。もしも何かあればすぐに空中分解する。

 それを抑制するため、ティファが常時各計器をモニタリングし、遠隔操作で常時調整をしている。


「さーて、見えてきたぞ……ティファ、これから戦闘行動に入る。調整は任せた」

『任されたわ。好きにやりなさい』

「おうよ!」


 加速を緩めず、戦場へと突撃する。

 そして、花火が輝くそこへと到着し、すぐに発見した。赤色のネメシスを。

 1ヶ月半前に己の顔に泥をぶん投げてきた輩を。


「よぉ、調子良さそうだな、クズ野郎」


 オープンチャンネルでわざとマリガンに聞こえるように喋りかける。

 それに気がついたマリガンはスプライシングへと視線を向けた。


『あぁ? 誰かと思ったらあの時のランカー様かぁ? なんだ、今度こそ俺に殺されに来たのかァ!?』

「いいや、お前を殺しに来た」

『ハハハハハ!! ンな継ぎ接ぎだらけの機体で何言ってやがる!!』

「はーっ、この良さが分からんとは。賊共のトップは随分と感性が終わってらっしゃる」


 トウマの簡単な煽り。流石に効かないかと思ったが。


『……ぶっ殺す!!』


 どうやら顔真っ赤なようだ。宙賊生活はストレスと共にあるらしい。

 戦闘開始。息を吐きながら操縦桿を握り、マリガンの行動の先を読む。

 手の震えはもう無い。

 覚悟は決めた。ならば、それに答えるのみ。

 マッドネスパーティーは両手のガトリングを構え、一斉射。スプライシングはそれを推力に物を言わせて避けてみせる。

 相手の旋回性能よりも早く周りを飛び、決してガトリングの銃口を合わさせない。


『なっ、速すぎる!?』

「オメェがおせーんだよ!!」


 ガトリングを避けながらの射撃。

 火力は据え置きだが、元々ライフルは火力が高く急所に当てればどんなネメシスでも致命打を与えることができる武器だ。

 それを何もせずに受ける事の危険さはよく分かっているマリガンはそれを何とか避けるが、トウマは己の操縦技術の全てを投入し、回避、先読み、誘導、接近の全てを同時にこなしてみせる。

 新たなるスプライシングには、それに応えられるだけの最高の性能があった。


『な、何をしやがった!!? チートでも使いやがったのか!!?』

「リアルにチートなんてモンがあるわきゃねぇだろえが!!」


 馬鹿みたいな加速と切り返しによる稲妻のような動きでマリガンの視界から一瞬で消えてみせ、盾裏のセイバーを抜きながら接近。

 そして射程に入った瞬間に振るうが、マリガンは何とかそれに反応。

 ガトリングを片方切り裂かれるものの、避けてみせた。


『あっ、ぶねぇ!!?』

「ハーッ!! ハッ! クソッ、ティファ! 一瞬スラスターの出力が下がった!!」

『あんたの動きが小刻み過ぎて反応しきれてないのよ! ホント化け物ね! 10秒待ちなさい、合わせる!!』


 一瞬の切り返しの連続によるGはトウマの体を全力でぶん殴ってくる。その痛みに息を止めながら耐えることで何とか戦えているが、その痛みがスタミナを急速に奪い、息が一瞬で切れてしまう。

 たった1mmの誤操作も許されない、正に神業と言える操縦を、パイロットスーツ越しにも十分な威力で殴ってくるGを感じながらもやっている。

 正しく化け物とも言える所業だった。

 そんな所業は、一度の読み合いで精神も肉体も極限まで疲労する。

 しかし、それでも持て余すトウマの動きに100%応えるため、スプライシングはその場でティファに調整を施され、更にトウマに合わされる。

 サラを始めとした歴戦のエースパイロットでさえ、今のスプライシングは持て余す。それを振り回し、更に不足まであると言ってくるトウマの力量はティファ目線からしてみれば化け物以外の何者でもない。

 ただでさえトウマ以外が乗れないレベルでチューンしたOSだというのに、それを振り回してみせるのだ。

 しかし。そんな化け物の振り回しに対し、スプライシングをリアルタイムで調整して更に化け物用に調整してみせるティファも十分に化け物だ。

 これが、2人の天才……いや、努力の天才達による意地の結晶。

 未だゲーム気分の人間には到底超えることができない意地だ。


『クソッ、リタマで負けるなんざ冗談じゃねぇんだよ!!』

「そうやって一生リアルをゲームと偽って! お前はこの世界の癌なんだよ!!」


 ガトリングでは追い付けない。それを悟ったマリガンは両手の武器をマシンガンに変えて小回りを確保。

 先程までの弾幕による物量のゴリ押しではなく、着実にトウマを狙った射撃戦を始める。

 しかし、スプライシングはその上を行く。

 常に調整を施され、そして完成していくソレはネメシスオンライン産の機体ですら叩き出せない瞬発性と加速性能を見せ、マリガンを翻弄してみせる。

 盤面は完全なるトウマの優勢。流れはトウマが握っていた。

 だが。


『おいテメェら! あの白黒を撃て!!』


 とうとうマリガンはプライドを投げ捨てた。

 近くにいる宙賊に呼びかけ、スプライシングを撃てと命令する。

 それを聞いた宙賊共は次々と集結し、スプライシングに銃口を合わせる。


「マズイな……」


 十把一絡げの雑魚だけならまだしも、プレイヤーのマリガンが居る中で十字砲火は流石に人間としての処理能力が追いつかない。

 それに、ライフルだって残弾は無限ではないのだ。無くなれば牽制の手段がなくなる。

 切り時か。

 盾を背負う形でバックパックと接続する。

 これを切れば、最早盾は必要ない。


「ティファ、切り札を使う!」

『分かってるわ! 動力炉臨界駆動! 全リミッター開放!』


 ──本来、スプライシングPRが出せると想定された最大出力は、こんな物ではない。

 直結された動力炉の生み出すエネルギーは機体にとっては過負荷であり、機体を動かしているだけで機体そのものが耐えられないという事態が起きた。

 その対策として新たなるスプライシングにはリミッターが噛ませられた。

 推力以外のほぼ全てにリミッターをかけたと言っても過言ではないのにも関わらず、その状態でもなおスプライシングは既存のネメシスとネメシスオンライン産のネメシスの上を行っている。

 そして、リミッターを解除すればスプライシングは短期間ではあるものの、更なる力を得る。

 決戦機能という、新たなる力を。

 リミッター解除と共に決戦機能のロックが解除され、装甲の至る所が開きエネルギー放出、放熱の両方の役割を熟すフィンが姿を見せる。

 それこそが、スプライシングPRの真の姿。


『決戦機能、解放!!』


 それこそが、最早ネメシスという枠すら超越すた、スプライシングPRの決戦機能。

 Vanguard Offensive Over Special Tactics。

 略して。


「V.O.O.S.T!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る