「V.O.O.S.T」

 その言葉が聞こえた瞬間、世界最強のネメシス、スプライシングPRがその牙を剥いた。


『………………は、ぁ?』


 一斉に放たれた実弾の嵐。

 それを掻き消しながら放たれたのは、ビームだった。

 いや、放たれてはいない。ビームが、まるで全身に翼のように纏わりついている。

 バックパックからは巨大な2本のビームの翼が生え、全身のフィンからは小さなビームの翼が伸びている。

 その形態に移行したスプライシングは先程までの速度とは比べ物にならない速度で動き、目にも止まらぬ速さで集まってきた宙賊を全身のビームの翼で切り裂いて見せたのだ。

 これこそが、スプライシング・パッチワークドラーマナの真の力。

 その名を、決戦機能『V.O.O.S.T』。既存のネメシスの全てを過去の遺物とする、文字通りの決戦機能だ。


『な、なんだ、それ!?』

「俺達の意地の結晶だ」


 神々しいとすら言える程、ビームの翼を全身から生やし、スプライシングはマリガンを見下ろす。


「……流石にGもヤバいな。こりゃ、どっちの方が先に活動限界になるか分からねぇな」


 V.O.O.S.Tを発動したスプライシングPRの速度は、既存のネメシスを遥かに超える。

 そんな物を全力で動かせば、パイロットスーツを着たトウマとて長くは持たない。

 サラが探し出してくれた最高品質のパイロットスーツでさえ、これなのだ。生身ならトウマは死んでいるレベルだ。

 それに、この状態はスプライシングにも負担がかかる。

 計算上では、およそ3分。それがスプライシングがV.O.O.S.Tを発動していられる限界でもあり、トウマの体が保つ限界だ。それ以上は、スプライシングの方が先に空中分解するか、トウマの体がお釈迦になりかねない。

 諸刃ではあるが、それでも眼前の敵を倒すには十分以上のお釣りが来る。それが、V.O.O.S.Tという3人の意地の結晶とも言える決戦機能だった。


『ざけんじゃねぇぞチート野郎がぁ!!』


 そんなネメシスという枠すら越え始めたスプライシングを見て、マリガンは吠える。

 マッドネスパーティーの全ミサイルハッチが開き、両手のマシンガンと共にほぼ全てのミサイルをぶっぱなす。

 先程までの動きを冷静に見ていれば当たるはずがないと分かる攻撃。それをしたのはマリガンが既に冷静ではなかったからだ。

 だが、トウマは動かない。

 動く必要はない。


「スプライシングッ!!」


 直後、ミサイルが直撃し、爆発。


『……ハ、ハハハ、んだよ、虚仮威しかよ』


 あの量のミサイルが直撃すれば、どんなネメシスも吹き飛ぶ。

 つまりは、マリガンの──


「残念だが、その程度じゃ俺達の意地は折れねぇぞ」


 爆炎をビームが引き裂き、スプライシングが現れた。


『な、なんで……』

「冥土の土産に教えてやる。コイツのビームの翼は飾りなんかじゃない。こっちで指向性を与えて自由に動かせるんだよ」


 故に、全身のビームの翼を使い、前面にビームの盾を作ってミサイルをそれで受け止めた。

 それだけ。たったそれだけなのだ。

 異常な火力を持っていると評価できるマッドネスパーティーのフルオープンアタックを片手間で受け止められることが、それだけ。


「トドメだ! 芽吹く罪はここで浄化するッ!!」

『ひっ!?』


 スプライシングが羽ばたき、マリガンへと迫る。

 ビームセイバーによる一撃は、例外なくどんなネメシスの装甲も断ち切る。

 あのビームの翼一つに当たるだけで、重装甲であるマッドネルパーティーですら、一撃で沈められる。


『く、来るなァ!!』


 それを認識し、死が眼前に迫る感覚に襲われたマリガンは闇雲にマシンガンと残りのミサイルが放つ。

 だが、フルオープンアタック後の僅かな弾でスプライシングが止まるわけもない。


「守れ、ラーマナッ!!」


 迫る弾丸とミサイルを光の翼で防ぎ切り、一切の速度を落とすことなく、スプライシングはマッドネスパーティーに肉薄する。


「斬り裂け、スプライシング!!」


 そして、すれ違いざまに全身のビームの翼とセイバーでマッドネスパーティーの両手両足を切り裂き、ダルマにする。

 両手両足がそのまま爆散。すれ違い、少し距離を取ったスプライシングは振り向きざまにライフルを放ちバックパックを撃ち抜いて完全に足を潰す。


『ひ、ヒィ!?』


 これで、逃げられない。

 このまま放っておいてもマリガンは死ぬだろうが、そんな生易しい事はしない。

 無辜の命を食い物にしたその罪の対価は、ここて払わせる。


「終わらせてやる! 光の翼ァ!!」


 光の翼が羽ばたく。

 罪人を地獄へと誘うため。破滅の果てへと追いやる為に。


『や、やめっ、し、死んじまう!!?』

「そうやって命乞いをした罪も無い人間を、何人殺した!! 何人食い物にしてきた!! お前はやり過ぎたんだよ、人の道を外れ過ぎたんだ!! だから、報いを受けろォ!!」


 推進剤による推力だけではなく、ビームのエネルギー放出すらも推力と変え、スプライシングは一瞬で再びマッドネスパーティーに肉薄。

 光の翼を腹部にぶつけ、マッドネスパーティーを引き摺ったまま天へと昇る。


『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』

「スプライシング、ラーマナ!! 天に、昇れぇ!!」


 そして、光の翼がマッドネスパーティーを両断し、マリガンは己の機体の爆発に巻き込まれ。


『し、死にたく──』


 悪党の最後は、まるで一般人のような。

 いや、事実、一般人が当たり前に思うような事を口にしただけ、だった。

 この世界を虚構と思い込み、己の好き勝手に悪事を働いた悪党の最後は、そんな大馬鹿に相応しい者が口にするような小悪党にも満たない言葉だった。

 そんな言葉すら切り裂き、スプライシングは飛翔する。

 爆炎の中から飛び出し、神々しい光の翼を携え、スプライシングはラーマナと共に飛翔する。

 自分達の意地の勝利を、祝福するように。



―――――――――――――


後書きになります。

今回も軽く設定をば。


V.O.O.S.T

読みは「ブースト」。

vanguard offensive over special tacticsの略。命名はトウマであり、略称がVOOSTになるようにそれっぽい単語を組み合わせただけ。BOOSTじゃないのは、トウマ曰く「その方がカッコいいと思ったから」。

直結した動力炉による規格外の出力を限界まで利用し、余剰な出力と過剰な熱量を放熱用のフィンからビームの翼として放出、それを推進力に加えて更なる加速を行う、ティファが仕上げた最強の決戦機能。

更にビームの翼は多少の指向性を持たせられるため、全身を包んでバリアとする事も可能。

しかし機体、パイロット共に負担が大きいため、1回の使用で維持できる時間は3分。それ以上はパイロットが限界を迎えるか、機体が動力炉の出力に耐えられず空中分解してしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る