Just Go Ahead

 マリガンは苛ついていた。

 雑魚の包囲網すら突破できない無能な味方共に。何度蹴散らしても諦めない雑魚共に。

 この1月半、マリガンは味方が顔を立てねば、メンツを保たねばと言って無駄な事をするのを暇潰しがてら見学していた。

 時折手を出していたが、それだけだ。

 だが、それも我慢の限界だ。いい加減この膠着状態は飽きた。


「チッ……!! オイ、俺のマッドネスパーティーの出撃準備をしろ!! もういい、俺が出る!!」

「しゅ、首領……しかし、そんな事されたら俺等のメンツってもんが」

「そう言ってもう1ヶ月以上このままじゃねぇか!! 今までは我慢してやったが、もう知らん!! 俺が奴等をぶっ殺す!! NPC共は下がってろ!!」


 半ば癇癪に近いソレを仲間であるはずの賊にぶつけ、マッドネスパーティーに乗り込む。

 最大で1日の半分以上はゲームをプレイしていた事があったのだから、半日ネメシスに乗るのだって楽勝。半日もあれば外にいる有象無象は全部ぶっ殺せる。

 そう考え、マッドネスパーティーのOSを立ち上げた。


「マッドネスパーティー、出るぞ!!」


 そして、近くにいた賊共を踏み潰しながらマッドネスパーティーは、悪のネメシスは飛翔し、軍の包囲網を片っ端から食い散らかすために戦場へと向かった。

 ──その出撃を、トウマ達は見ていた。


『軍に言ったらまさか敵味方識別タグまでくれるなんて、相当アイツには手を焼いてたみたいね』

『なんか賞金首らしいわよ、アレ。軍的には馬鹿な傭兵を金で釣ってまぐれ当たりしてくれーって感じなんでしょうけど』

「まぁ、俺等には好都合だな。で、ティファ。奴は?」

『なんでか知らないけど自発的に出撃してまーっすぐ右側に行ってるわね』


 既にトウマは新たなスプライシングのコクピットに座っていた。

 この1ヶ月で何とかネメシスに乗って戦えるようにまで回復したのだが、それでも気を抜くと手が震えてしまう。

 呼吸を整え、震える手をそのままに、操縦桿を握る。


『知ってるだろうけど、今のその子はかなりピーキーよ。だから、わたしが遠隔で微調整は続ける。基本はそっちに任せるけど、切り札だけはわたしとトウマの二人で発動させる必要があるわ』

「分かってる。その時は頼む」

『えぇ。だから……今度は負けないで』

「あぁ。俺はもう負けない。絶対に勝ってみせる」


 新たなスプライシングを動かし、ラックから専用のライフルと盾を。ティファが拵えた、スプライシング専用のソレを手に取る。

 装備すれば、準備は完了だ。それを示すため、カタパルトに両足を乗せる。

 チラッと通信モニターに映るティファの表情を見れば、彼女の表情は不安を前面に出しているものだった。


「……ったく、大丈夫だって。俺達は最善を尽くしたんだ」


 口から出てきたのは、空元気を詰めたような負けん気だった。

 自分にも言い聞かせるようなソレは、少し震えていた。だが、それでも信頼は変わらない。

 トウマとサラが支え、そしてティファが完成させたこの機体は、何者にも劣らない。劣るはずがないとという信頼は。


『トウマ……』

「ンな顔すんな。大丈夫、俺が保証する。今のコイツなら、どんな敵が来ようと負けやしないって」


 トウマの言葉を聞き、ティファの表情が少し晴れる。

 やはり、彼女にとってはトラウマなのだろう。己が作った力が手折られ、仲間を殺しかけたという事実は。

 だが、彼女は乗り越える。いや、既に乗り越えている。

 だから。


『…………そうよね。そうよ!』


 ティファは顔を上げる。

 そうだ、その表情だ。それでいい。


『わたしが作って』

『あたしが手伝って』

「俺が戦う」


 だから。


「こっからは……戦いってのは、男の仕事さ。為せば成る、トウマ・ユウキは男の子ってな」

『何よそれ、時代錯誤な考え方ね……でも、いいわ。その古臭さ、嫌いじゃない』


 ティファの笑顔に頷き、トウマも前を見る。

 さぁ、新たなる1歩だ。


『無事に帰ってきて、トウマ。カタパルト、ユーハブコントロール』

「アイハブコントロール」


 息を吸って、吐いて。

 宙を見る。

 あぁ、やっぱり綺麗だ。

 そして……戦いだ。

 もう、暗示はいらない。あれは、邪魔になる。

 これはゲームの延長線なんかではない。極限の状況での命のやり取りであり、リアルなのだ。

 負ければ死ぬ。勝てば生きる。そんな、どうしようもないリアルなのだ。


「行くか。さっきも言ったしな。トウマ・ユウキは男の子って」


 震える手で操縦桿を握り潰さんばかりに強く握り、そして、前を見る。

 震えが、止まる。

 まるでスプライシングとラーマナが、例え何があっても大丈夫だと言ってくれているみたいだった。

 相棒達が力を貸してくれている。

 ティファが、サラが。そして、スプライシングとラーマナが、背中を押してくれている。心を支えてくれている。

 ならば、恐れる必要は無い。


「……スプライシング、ラーマナ。お前らも、負けっぱなしじゃ嫌だよな。だから、勝ってみせるぞ」


 だから、飛ぶ。

 恐れず、あるがままに。

 右目に備えられたスプライシングの緑色のカメラアイが。左目に備えられたラーマナの黄色のカメラアイが、力を示さんと光を発する。

 ──さぁ、翔べ!


「──スプライシング・パッチワークドラーマナ!! トウマ・ユウキ、行くぞッ!!」


 そして、真空の宇宙へと白黒のツートンカラーのスプライシングが。

 スプライシング・パッチワークドラーマナが飛び出した。

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