サンブンノイチ
スプライシングとラーマナを使ったニコイチ整備はすぐに始まった。
「ニコイチ整備……っていうよりも最早悪魔合体みたいなもんだけど、まぁ始めるとして。ただニコイチするだけじゃ精々ラーマナ以下。だから、なんかこう……強い機体になりそうな案を出しなさい!」
「はい! 羽つけようぜ羽! 強い機体って羽生えがち!!」
「デッドウェイトだから却下!!」
「動力炉2個搭載して出力2倍なんてどう?」
「採用!!」
「えっ、嘘。えっ、マジでやるの!? 素人目線でも爆発しそうなのが見えてるけど!?」
「出力2倍は流石に無理だけど何割かは上げれるはず! 理論上はいけるわ!!」
「それ机上の空論って言わない!?」
「なぁビームライフル持たせようぜビームライフル!!」
「流石にビームライフル作るには時間が無いから却下! でもエネルギー関連の何かは付けるわよ!! 例えば超巨大ビームセイバーとか!!」
「ねぇそれそもそも理論があるの!!? 机上の空論でしょそれ!!? っていうかこの間、どっかの企業で研究してる最中みたいなの見たわよ!!? 何年後の技術を再現する気よ!!」
「うっさいわねやるっつったらやるのよ!!」
「根性論で机上の空論を実現できたら苦労しないでしょうがぁ!!」
そして、スプライシングとラーマナのニコイチ整備計画……いや、スプライシングとラーマナを組み合わせた、最強のネメシスの開発が始まった。
最早悪ノリと深夜テンションと狂気を織り交ぜたナニカを込めた、多分1回冷静にならなきゃならない状態での最強ネメシス開発が始まったのだ。
ブレーキは居ない。というか、ブレーキ代わりのサラは最早ブレーキになり得なかった。
初っ端からフルスロットルである。
「流石あの馬鹿げた馬力と推力をたたき出したラーマナの動力炉ね……これとスプライシングの動力炉を直結なんてしたら……」
「エネルギーが溢れるか……なら、それをどこかに逃さないか?」
「その案採用。けど、不安もあるから普段はリミッター噛ませて溢れるギリギリで抑えるようにするわ」
「ねぇ、エネルギー兵器開発の論文、こんだけかき集めたわよ。あたしには理解できないけど……」
「ありがと、データはこっち送っておいて。後で読むわ」
「わかった。じゃあトウマ、あたし達は」
「だな。ちょっとシミュレーターに行ってくる」
「えぇ。わたしはその間に一人でやれる事やっとく」
基本的には3人でスプライシングにラーマナのパーツを組み合わせる形で整備をしつつ、今までの常識からは考えられなかった物を徐々に形にしていく。
そして、2人が手伝えない範囲やティファが1人で集中したい場合は、トウマとサラは傭兵協会へと向かってシミュレーターに乗り込む。
「つ、つらっ……!! くそっ、体は正直だなオイ……!!」
「その台詞もっと別の場所で使うもんじゃないの……? あーしんど…………」
そして、毎回死にそうな顔で出てくる。
サラはわかっていた事だが、やはりと言うべきかトウマにもサラと同じ症状が出ていた。
コクピットに乗ると当時の事がフラッシュバックし、冷や汗に動悸が止まらず、手も震える。だが、それにも自分なりに向き合い、最近は何とかAランクの成績を叩き出すことができていた。
そしてサラも、同じように自身の心の傷にしっかりと向き合い、徐々にネメシスに乗れるようになってきている。
シミュレーターだけでは不安なので無事だったラーマナのコクピットに乗りこんでの確認もしているが、そちらもシミュレーターと同じようになんとかなっている。
恐らく二人が前向きではなく、トラウマからただ逃げているだけなら、こうも劇的な回復はしなかっただろう。
二人の前向きな精神と根性論が己の心の傷を受け入れ始めていた。
──そして、1月の時が流れて。
「……完成、ね。いや、我ながら恐ろしいもんが作れちゃったわ……」
スプライシングは新たな姿を完成させた。
スプライシングとラーマナのニコイチ整備とは名ばかりの魔改造計画。スプライシングを主軸に行われたソレは、当初の宣言通りたったの1ヶ月でなんとか形となったのだった。
「……改めて見ると、凄いな。これが新しいスプライシングか」
「黒と白のツートンカラー……本当に2機が合体したみたいね」
「最早悪魔合体の領域よ。この一ヶ月、なんか歯車が変に噛み合いまくったというか、ポンポン出てきた発想が恐ろしいというか……」
武装はシンプルにライフルとセイバーのみ。補助武装兼地上での姿勢補助、移動アシストとなる足のパイルバンカーとキャタピラはそれぞれの残っており、盾にはミサイルが仕込まれている。
装甲は薄く、機動力特化。その証と言わんばかりに、バックパックは大型化。
そして動力炉はスプライシングの物とラーマナの物を直結した、正しく2機分の推力で動く化物機体。
それが、新たなるスプライシングだった。
そして、この新たなるスプライシングには切り札も搭載している。奇しくもトウマがノリで言ったアレコレが基になってしまった、切り札が。
この切り札の搭載により、スプライシングはこの世界最強の機体となった。
ティファはそう自負しているし、トウマとサラも頷いている。
これで勝てなければもう無理だ。逆立ちしたってどうにもなりやしない。
「……まぁ、何もかもがプラスに働いたし文句はないわね。さっ、行くわよ。まだあの宙域は軍が押さえつけてくれている」
「そこに俺達が乱入して、奴をピンポイントで叩く」
「やれるわ、あたし達なら」
ツートンカラーの機人は何も言わずにそびえ立つ。
だが、機人の言いたいことはハッキリとわかる。
リベンジを。奴を倒す機会をくれ。
そう告げている。
「トウマ、準備しなさい。わたしも準備する。サラは船の方を任せるわ」
「了解。華々しい初陣にしてやるさ」
「任せなさい。だから、ティファも頑張って」
「やってやるわよ。あの時わたし達にとどめを刺せなかったこと……後悔させてやるわ!!」
そして、3人は戦場へと向かう。
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