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「……無理よ。わたしの腕じゃ、ニコイチ整備したところで…………」


 復讐に動くためには、ティファが動かなければならない。

 しかし、ティファの心は既に折れていた。

 船の格納庫にはスプライシングを修理しようと手を付け、途中で放り投げた跡が散らばっている。スプライシングの残骸は、埃を被っている。

 ティファ自身も、寝るときくらいにしか使っていなかった自室のベッドで時が過ぎるのを待っているだけだった。

 そんなティファを引っ張りだし、トウマが説得しようとしたが、ティファはニコイチ整備の話に首を縦に振らなかった。


「あんた、悔しくないの? 自分の誇りがあんな風に破壊されたのに」

「悔しいわよ!! 悔しいけど……自信がもう無いのよ」


 目に涙を浮かべながら、ティファは俯いた。


「あの赤いネメシスの性能はラーマナ並なのよ。だってのに、今更ラーマナの下位互換の性能の機体を作った所で、今度はトウマを殺すだけよ……」

「なんで下位互換って決めつけるの」

「そんなの、ニコイチ整備したら当たり前よ」

「自信を持ちなさいよ。ラーマナを使えば、ラーマナ並の……それ以上の機体を作れるって」

「そんなの……」

「前のあんたなら、絶対にそう言ったわよ」


 言っただろう。自信満々に。

 すぐ脳裏に浮かぶほど、想像は容易かった。


「……できないわ」

「できる」

「できっこない!」

「できる!」

「なんでそう言い切れるのよ!!」

「あんたは既に一回、できない事を成し遂げてみせたでしょ!!?」

「できない事って…………」


 そう。ティファは既に一回、一人じゃできっこない事を成し遂げている。

 ネメシスを1から作り上げるという、個人では絶対にできやしない事を、成し遂げたのだ。

 その不可能を、一度は成し遂げたのだ。ならば、二回目だってできる筈だ。

 ニコイチ整備による、ラーマナを超えた最強のネメシスの作成を。


「ティファ、俺はお前を信じてる。そして、お前がこれから作る機体を信じる」


 そう、スプライシングの性能を直視しなかったのは、ティファを信じていたからだ。

 ティファの作ったスプライシングの性能が、こんな所で終わるわけがないと。そう信じていたからだ。


「もう俺は、あんな無様な戦い方はしない。ネメシスオンラインのランカーとして…………いや、そんなのはもうどうでもいい」


 そう、ランカーはもういい。

 これはゲームじゃない。現実なのだ。

 だから。


「俺は、一人のパイロットとして、相棒の誇りと一緒に戦って、勝つ。勝ってみせる。絶対にだ」

「トウマ…………」


 ネメシスオンラインの誇りは捨てた。

 ここから先必要なのは、たった一人のネメシスのパイロットとしての意地。

 相棒が作り上げた最高傑作と共に戦い、必ず勝つという意地だ。


「あたしも、役立たずだけど……信じることならできるわ。もちろん、手伝える事は手伝う。だから、あのクソ野郎にやり返しましょう。3人で」


 トウマの言葉による説得を、サラが後押しする。

 自分よりも遥かに危険な場所にいて、危険な目にあった2人がここまで言っている。立ち上がると言っている。立ち上がれと言っている。


「サラ…………」


 2人の言葉にティファは考え込み……

 そして、涙を拭った。


「……やってやるわよ」


 そして、折れた心を無理矢理立て直した。


「やってやるわよ!! スプライシングとラーマナを使って、ラーマナ並の……いえ、ゲームなんかから出てきた機体なんかよりも遥かに強い最強のネメシスを作ってやるわよ!!」

「ティファ……!!」

「あんたらも扱き使ってやるから、手伝いなさい!! 2ヶ月……いえ、1ヶ月で作るわよ!!」

「………………えっ、短くない?」

「短くない!! とっとと作ってまたあそこに行ってリベンジよ!! 分かったら作業着に着替えて格納庫集合! んでもってトウマはいつまで乙女の部屋に居る気よ出てけ変態!!」

「理不じぐべぁ!!?」


 病み上がりのトウマさん、顔面にグーパンをくらって吹き飛ばされるの巻き。

 だが、ティファに殴られたトウマも、トウマを追ってティファの部屋を出たサラも、人一人吹っ飛ぶレベルの威力で元怪我人をぶん殴ったティファも、その表情はガラッと変わっていた。

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