敗北という名の挫折

 軍と賊の戦い。それは軍が一方的であるべきの戦況だ。

 だが、戦況は一方的とは言えなかった。

 数でも質でも勝っているのは軍の方だ。故に一時は一方的に押し返せるのだが、何故か急に一部の進みが遅くなり、足並みを整えている間に少し押し返される。

 そんな戦況が続いていた。

 しかし、戦闘が長引くならば傭兵は稼ぎ時だ。狡い手を狙う賊を己の稼ぎにするために傭兵達は動く。


『クソッ、賊のクセにいい機体に乗ってやがる!』

『おいこっちにも応援をくれ! 奴等数だけは多い!』


 傭兵のネメシスは第4世代〜第5世代。つまり、宙賊のネメシスと性能は変わらないのだ。

 更に、傭兵達は対人戦にあまり慣れていない。故に、数で負けるか同数の場合、戦闘は泥沼となる。

 足を止めて弾をばら撒き、弾切れしたら移動しつつリロードして。その繰り返しだ。

 それをトウマとサラは俯瞰的に見ながら、そろそろ行くかと通信を繋ぐ。


「そこの傭兵。援護はいるか?」

『頼む!』

『取り分は?』

『女の声……? いや、どうでもいいか。敵は6機だから、4機分はやる』

「契約成立だ。行くぜサラ」

『ガッテン!』


 援護の必要と取り分は決まった。

 ここまで決まれば問題ないと、スプライシングとラーマナ。その2機が戦場へと乱入する。

 マシンガンを撃ち込まれる傭兵の前に降り立ち、盾で敵の弾を防ぐ。ティファ特製の盾とラーマナの厳選された盾はマシンガン程度の威力ではビクともしない。

 そして弾切れの間に放った2機の弾は敵ネメシスのコクピットを綺麗に撃ち抜く。


『一撃!?』

『まぐれにしちゃ2機同時に……』

「さーて、お仕事!」

『ゴミ掃除のお時間よ!』


 スプライシングとラーマナが敵を撃墜した勢いで一気に前に詰める。

 その光景を見て残り4機の宙賊ネメシスはマシンガンの弾をばら撒くが、その全ては当たっても問題ない箇所の装甲と盾に防がれる。

 スプライシングはその間に盾を持った左手にビームセイバーを握り、ラーマナよりも速く前に突っ込む。


「足止めてちゃ的だぜ!」


 そして、相手が回避行動を取るのを読んでセイバーを振り抜く。

 それに耐えられる訳もなく、敵ネメシスが1機爆散する。更には近くにいた敵ネメシスへライフルを撃ちながら接近。

 相手のリロードが完了する前にヤクザキックを敵の腕に叩き込み、パイルを作動。

 重苦しい音と共に敵ネメシスの腕が吹っ飛ぶ。更に追撃で肩の3連装ミサイルの1発を零距離で叩き込む。


「やーりぃ」

『相変わらず速いわね!』


 その後ろでラーマナもセイバーを振り抜いて敵ネメシスのコクピットを焼き切り、更にラストのネメシスに対して盾で殴ってからミサイルを放ち、一撃で爆散させる。

 僅か1分程度の速攻。それにより宙賊の6機のネメシスは宇宙の塵に変わったのだった。


「さて、次だ! そこの傭兵、ウチの回収班が来るから、約束忘れんなよ!」

『あっちょっと!』


 好き勝手戦場を荒らした2機のネメシスはまたどこかへ飛んでいった。

 その光景を、口を開いて見ているしかできなかった傭兵達は、ようやくあの戦いに勝ったのだと理解した。


『やべぇな、アイツ等……』

『さしずめ、流星……白と黒の、宇宙色そらいろの流星と言ったところか……』

『エースパイロットってやつか……流石にあれにはついて行けねぇな……』


 トウマとサラはその調子で苦戦している傭兵や裏取りをしようとする宙賊を爆破し、次々と稼ぎを増やしていくのであった。



****

  


 トウマとサラの快進撃は流石と言える。

 だが、そこまで2人が頑張っても、戦いは長引いていた。


「結構長引くな……ティファ、戦況は?」

『どうも相手に手練が居るみたい。こっちが数の暴力で何とかしてるけど、そのせいで思うようにネメシス部隊が進めてないみたいね』

「そうか……俺達が突破口を作れないか?」

『無理よ。たった2機で突出した所でどうにもならないわ』


 トウマが前に出れば確かに敵を殲滅する速度は僅かに上がるかもしれない。

 だが、その程度だ。

 トウマの腕を持ってしても、敵の防衛網を食い破ることなんてできやしない。

 そういうのができるのは、アニメだけだ。


『でも、もうすぐ先頭がコロニーに届くわ。敵だってネメシスの殆どをコロニー外に出しているはずだし、中の占領が始まれば時間の問題よ』

「ならいいけど……」


 どうにももどかしいのは事実。

 自分ならなー、と手を組んで考えつつ、馬鹿に突出した敵がいないかを確認する。

 既にサラの船は格納庫がいっぱいになるまで賊のネメシスの残骸を格納している。これ以上長引いて戦果が増えると、自分達のネメシスを格納する場所すら無くなるかもしれない。

 それに、ずっとコクピットに座ってるとちょっと疲れてくる。そろそろ一回伸びでもしたいものだが。


『あっ、そろそろね。もうすぐ先頭部隊のネメシスがコロニーに接触するって……』


 ティファからの朗報が聞こえたときだった。

 コロニーの近くで幾つもの花火が咲いた。


『……駄目、だったようね?』


 何か罠でもあったのだろうか。

 そう思っていると、花火が咲く頻度が上がった。

 中央から左翼側。そちらへ回り込むように花火が断続的に咲き、暫くしてからようやくトウマ達も状況を理解した。


『……は? 戦闘領域を迂回して母艦部隊に突貫を仕掛けられている? その領域の傭兵は………………か、壊滅?』


 明らかに良くないことが起こっている。

 そう理解した瞬間だった。最も左側に展開していた軍の船が一隻、花火となった。


「ティファ!!」

『たった数機のネメシスに横っ腹ド突かれてる!? しかも周辺のネメシス部隊と傭兵はほぼ壊滅って……』

「俺とサラでやる!! なんかヤバいぞ、そいつ等!!」

『え、えぇ。わたしもすぐに向かうから、先に行ってて! このままじゃ中央まで食いつかれる!』


 そうこう言っている間に、更に船が一隻、光った。それにより指揮系統が混乱し、一部の軍のネメシスの動きが止まる。

 このままじゃマズイ。そう判断した二人はその光を頼りにスプライシングとラーマナを走らせる。

 流石に右翼側から左翼側へ向かうには時間がかかったためか、もう1隻の船が花火となってしまったが、なんとか現場に辿り着いた。


「あそこ、か?」


 軍の船らしき残骸。それが漂う宙域。

 そこには3機のネメシスがいた。

 内2機は大量の武器を搭載しているものの、自分がそれを使う事は考えていない。

 まるで武器を運ぶために存在していると言わんばかりだ。

 それを従えるのは、赤色のネメシス。

 ファウストブラウでもファウストシュラークでもない、見たことが無いのにも関わらずそれぞれのパーツは見たことがある気がする。

 不思議な感覚に襲われていると、サラが口を開いた。


『えっ、何? マッドネス、パーティー……? これ、ネメシスの名前? その下の、えっと……メリー、ガン? な、なんなの、これ? 人の名前なの……?』


 ネメシスの名前ともう一つ、人名には聞こえない名前。

 それにトウマは見覚えがあった。

 そう、それは、ネメシスオンラインの対人戦にて敵をロックオンした際に出てくる表記。

 それが、発生している?

 今のラーマナがスプライシングを始めとしたこの時空産のネメシスをロックオンした時に何が出てくるのかは分からないが、それが出てくるという事は。


『あ? 何だテメェ等…………おっ、なんだあの機体? って、マジかよランカー様の機体じゃねぇか!!』


 ヤバい。

 アイツは、ネメシスオンラインのプレイヤーだ。


「サラ下がれ!! アイツ、俺と同郷だ!!」

『え?』

『テメェ等はあっちの黒いNPCを相手してろ! 俺はあの36位を殺る!!』


 ランカーの機体名とプレイヤー名の横には順位が表示される。

 36位というのはトウマの順位だ。それが分かるのならば、最早確定。

 あの機体はラーマナと同じ、この時代においてオーパーツ並みの機体であり、パイロットは対人戦のノウハウを持つプレイヤー。

 サラでは荷が重い。故に、トウマが相手取ろうとしたが、敵プレイヤーの横にいた2機のネメシスが大量に持っていた武器を捨て、トウマへと一斉に弾を放ってきた。


「クソッ!!?」

『ちょっ、トウマ!』

『テメェの相手は俺だよ、ランカー様ァ!!』

『こ、こっちに真っ直ぐ!?』


 回避運動を余儀なくされたトウマは何とか敵の攻撃を回避するが、その間にサラが敵プレイヤーとの戦闘に入ってしまった。

 マズい、あのままではサラは確実にやられる。


「邪魔を、すんじゃねぇ!!」


 サラの救援のため、トウマは焦りながらも2機のネメシスを相手取る。

 ネメシスオンラインにおける1on1の戦闘時間の平均はおよそ2分前後。サラの場合は不慣れ故に持って1分。

 その事実はトウマを更に焦らせた。

 そして、焦るトウマを尻目に、サラは襲ってくる敵プレイヤーから何とか逃げていた。


「何なのよこいつは!!」


 セオリー通り、足を止めずにライフルを撃って牽制する。

 機動力はラーマナが勝っている。しかし、先程から敵ネメシスが馬鹿みたいな量で垂れ流してくる弾幕の雨霰がラーマナに浅くない傷を刻んでいく。


「メリーガンとかマッドネスパーティーとか、よくわかんないのよ!!」

『Marry-gun(マリガン)っつーんだよ、洒落てんだろォ!?』

「知るか!!」

『つれねぇなぁランカー様がよぉ!』


 ネメシス名、Madness-Party。プレイヤー名、Marry-gun。それがサラの目の前にいる敵の正体であり、ネメシスオンラインのプレイヤーだ。

 ランカーではないが、サラよりも腕は勝っている。更に、サラはネメシス戦の知識があまり多くないが故に、弾幕戦を仕掛けてくるネメシスへの対応策が分かっていない。


「いつ、いつ反撃すれば……!!」

『逃げてばかりじゃ終わんねぇぞオイ!!』

「こいつ、言わせておけば……!」


 盾で機体をカバーしつつ、時折切れる弾幕の合間にライフルを撃つが、狙いが浅く避けられる。

 敵ネメシスの武装は見えるだけでも両手にガトリングガン。更には背中に巨大なミサイルポッドを背負っており、腰部には予備の武装なのであろうマシンガンが2丁備えられている。

 そして、肩部にもミサイルハッチが見えているなど、明らかに現行のネメシスではありえない武装構成をしていた。


『ランカーにしてはやりごたえが無い……? まぁいい、コイツに勝てば俺の方がランカーよりもつえぇって事が証明されるしな!!』

「ランカーランカーって、意味分かんないことを!!」


 弾幕の切れ目が再び来た。

 故に、盾から身を出し、移動しながらライフルを構えた。


『そこォ!!』


 その瞬間。読んでいたと言わんばかりに肩部のミサイルハッチが開き、高速ミサイルがラーマナの右足を吹き飛ばした。

 ラーマナの右足だった物が宙域を流れていく。


「きゃっ!!? あ、当てられた!? しかも足、機体の制御と、スピードと、ど、どうしたら」

『どうした舐めプしてんじゃねぇぞ!!』


 ラーマナに乗ってから……いや、ネメシスに乗ってから初めての被弾と部位の欠損。

 足というバランサーを失ったが故にラーマナの制御が急に難しくなり、更にスピードまでもが落ち始めた。

 更に被弾時の衝撃がそのままコクピットにダイレクトに伝わり、サラの体が何度もシートに叩きつけられ体力を急激に奪う。

 その衝撃と体への痛みに動揺して動きが止まったのは5秒も無かった。

 だが、その5秒は追撃には十分。マッドネスパーティーの肩部ミサイルが更に同時に放たれ、盾に直撃。

 今までガトリングとミサイルの雨霰からラーマナを守っていた盾と徐々に負担が溜まっていった左腕がそのミサイルの連撃により、吹き飛ぶ。


「きゃあああ!!?」

『舐めプ野郎は死んじまえよ!!』


 更にマッドネスパーティーの背部ミサイルポッドからミサイルが放たれる。

 それを何とか避けようとするものの、避けきれず。ラーマナの右手と左足にミサイルが直撃し、吹き飛ばされた。

 コクピットがある胴体を守れたのは、奇跡だった。だが、もうラーマナに抗うすべは無い。

 文字通りの達磨だ。


「う、ぅぅ……! だ、脱出、しないと……!」


 何度も連続で機体の部位が吹き飛んだことによる衝撃で体を何度もシートに打ち付けた事により、意識が朦朧とするサラだったが、それでもこのままコクピットにいれば死ぬことはわかった。

 故に、コクピットハッチを開いて脱出しようとする。

 が、その前にマッドネスパーティーが左手のガトリングガンを投げ捨て、ラーマナの頭部を掴んだ。

 もう脱出したとしても遅い。ネメシスのバーニアにでも炙り殺される。


『折角骨のあるやつが来たと思ったのに、舐めプ野郎かよ。あーあ、どーせこいつ、チートとかそういうのでランク上げたんだろうな。つまんねー』

「殺し…………なさいよ……!!」

『えー、弾勿体ねぇし……コイツ持ち帰って売っぱらうか。中の奴も女みたいだし、いい値段で売れるだろ』


 意識が途切れ始める。

 こんなところで、こんな奴に、人生を終わらせられる。

 その事実がのしかかり。


『テメェ、サラから手ぇ離しやがれッ!!』


 トウマの叫びと共に、ラーマナの頭を掴む手に向かってセイバーが振るわれた。



―――――――――――――


後書きになります。

今回も軽く設定をば。


・トウマの順位

本編開始時点で36位。最高12位。

50位より上のランカーの実力は一人の例外を除き横並びで拮抗してる。

そのため、トウマはネメシスオンラインでは最強に最も近い腕を持っているし、50位以上のランカーとは基本的に知り合いでありライバル(顔は見た事無いが)。

ランカーは基本、横並びの実力だが、唯一の例外は1位。ランキングの中にその名を見せたときから常に1位をキープしている化け物。ランカー内では『全一』と呼ばれる存在であり、トウマでも3.5割勝つのが精一杯。実はトウマはこの『全一』と仲が良く、PvEのレイドの際はよく組んていた。

ちなみに今回出てきた敵キャラ、マリガンは非ランカー。

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