鎮 -requiem-
『テメェ、サラから手ぇ離しやがれッ!!』
トウマの叫びと共に、ラーマナの頭を掴む手に向かってセイバーが振るわれた。
そう、先程の2体のネメシスをたった1分で落としてみせたトウマが救援に間に合ったのだ。
が、マッドネスパーティーはそれを避け、ラーマナから距離を取ってから先程投げ捨てていたガトリングガンを再び手に取った。
『チッ、NPCが邪魔してんじゃねぇよ』
『黙りやがれ、クソ野郎! サラ、まだ動けるか!?』
「……少し、だけ…………」
『もうすぐティファが来る! ラーマナを捨ててでも船に戻るんだ!』
「あんたは……」
『俺はこのクソ野郎をぶっ殺す!』
『はっ、NPCが何言ってやがる』
『ゲーム感覚の異常者が、物事を語るな!!』
そして再びスプライシングがマッドネスパーティーに斬りかかったのを契機に、スプライシングとマッドネスパーティーの戦闘が始まった。
その光景はサラが今まで見てきたどの戦闘よりも苛烈だった。
『サラ、無事!?』
「ティファ……」
その光景を少し眺め、もう瞼が重くて仕方が無くなったとき、ようやくティファがサラの船と共に到着した。
『すぐにラーマナのパーツも含めて回収するわ! ラーマナは格納庫に入れてくれたら大丈夫だから、もう少し頑張って!!』
後部ハッチを開き、ラーマナの吹き飛んだ四肢の回収作業に入ったティファを尻目に、サラは何とかラーマナを動かして格納庫にラーマナをぶつけるように入れ、気絶した。
その光景すらトウマは目に入らず、ただひたすらに目の前の敵と戦っていた。
その理由は、目の前の敵はスプライシングと相性が悪いからだ。
考え得る限りでは、スプライシングで相手にするには一番分が悪いタイプのネメシスが出てきてしまった。
「重装甲の弾幕型……! クソッ、一番分が悪い!!」
『何だ、さっきの舐めプ野郎よりもお前の方がやり応えあるじゃねぇか!! もしかして恋人に自分の機体でもプレゼントしてたか!!?』
「悪いが俺は初恋も未経験なんだよ!!」
ライフルで何とか牽制するものの、相手ガトリングを撃ち続ければトウマが近寄れないと分かっているため多少のダメージは装甲で受け止め、ガトリングを止めない。
普段ならば相手の旋回性能以上の旋回速度で動きを翻弄し、何とか隙を見つけてコクピットにライフルを当てるかセイバーによる近距離戦を仕掛けるのだが、それができずにいた。
その原因はスプライシングの性能の限界だ。
スプライシングの旋回性能と旋回速度では、敵を翻弄しきれていないのだ。
ここに来て、とうとうトウマの腕では誤魔化すのに限界が来てしまったのだ。
ネメシスオンライン産の機体とネメシスオンラインのプレイヤー。このコンビを相手取るには、スプライシング側が非力過ぎた。
何とか肩の3連装ミサイルで逆転を狙うものの、ミサイルは敵のガトリングに潰される。
『だったらテメェがランカーの中身か!』
「そうだっつってんだろうが!!」
セイバーを手に持ち、スプライシングの手首を高速で回転させて当たりそうなガトリングの弾は切り払う。
その勢いのまま、なんとか射線を外しつつ接近戦を仕掛けるが、相手はミサイルとガトリングで接近戦を拒む。
「クソッ、ここまでやって互角かよ!」
機体スペックとトウマの腕。それを合わせてようやく今の相手と互角。
もしもスプライシングがラーマナであったら、トウマは戦況を有利に進められていたであろう。
スプライシングとラーマナの決定的な差。それを腕で補うにはこの相手は強すぎた。
『こっちの方が性能がいいのに、仕留め切れねぇか……! 流石ランカー様、だが……』
左手のガトリングと左肩のミサイルを放ちながら、マッドネスパーティーの視線が別の方を向いた。
その方向にあるのは、ティファの船。
『女を連れてきたのはマズかったなぁ?』
「なっ、こいつ、まさか!!?」
察した時には既に遅く。マッドネスパーティーの右手のガトリングと右肩、背部のミサイルが一斉に船に向けて放たれた。
幸いにも船はバリアを貼っている。貼っているが……ネメシス1機の火力とは思えないその攻撃により、ティファの船を守るバリアが明滅を始めた。
『チッ、無駄に頑丈だな』
「やめろおおおおおおおおおお!!」
もう時間はかけられない。かけてはいけない。
幸いにも相手はこっちを見ていない。今仕留めなければ。
そんな焦りがトウマを動かし、少しでも機体を軽くしようと盾を捨て、ライフルを放ちながらセイバーを構えて。
『まぁ、狙い通りだがな?』
マッドネスパーティーの視線がスプライシングと交わった。
今のスプライシングは盾を持っていない。
そんな機体が真正面から突っ込んできている。
ネメシスオンラインのプレイヤーならば……この状況は、勝ち確の瞬間だった。
「ま、にあ……」
『死ね』
セイバーを振るおうとするが、間に合わず。
なんとか手を前に出し、先ほどと同じように手首を回してガトリングの弾を斬ろうとする。
が、その程度でガトリングの圧倒的弾幕を防ぎきれる訳もなく、数秒の斉射がスプライシングの体に風穴を開けていく。
コクピットのモニターが弾け、体のすぐ横をガトリングの弾が突き抜ける。
まさに死の嵐。鋼が打ち砕かれる音が次はお前の命を刈り取る番だと告げているようで、それをダイレクトに伝えるかのように砕けたモニターや計器、コクピットのパーツの破片がの体に突き刺さり熱を持った痛みを与える。
だが、斉射が終わっても奇跡的にスプライシングとトウマは無事だった。
「ぐ……ぁぁ、い、た……」
無事、ではあるが。
その機体には風穴が空き、奇跡的に動力部に被弾しなかったが故に爆発しなかったというだけ。
トウマの体には様々な破片が突き刺さっているし、スプライシングの操縦桿も吹き飛び動かしようがない。
手も足も吹き飛び、バックパックそのものも機能不全。推進剤にも火がつき爆発し、背部の殆ども吹き飛んでいる。
頭部の一部とコクピットと動力部が、セイバーの回転により奇跡的に無事だった、という状況だ。
「に…………げ……」
コクピットハッチももう機能していない。穴が空いたハッチから外の光景が見えている。
更にスプライシングに追撃をかけ、トウマを確実に殺そうとするマッドネスパーティーの姿が。
トウマの体も満足に動かない。スプライシングも爆発していないのが不思議な状況。
もう、抗う術は。
『こうなりゃ賭けよ!!』
──そんな声が聞こえたのは、幻聴か。それとも、スプライシングの最後の意地だったのか。
それが聞こえた直後、マッドネスパーティーを何かが轢き飛ばした。
見間違えでなければ、アレはサラの船だったはず。
そのあまりにもあんまりな光景に死に体の筈のトウマが目を丸くした。
『バック!! で、収納&ハッチ閉鎖!!』
その直後にまさかのバック走行で格納庫に直接ティファがスプライシングを格納し、ハッチを閉じた。
ハッチが閉じられたことで格納庫に重力が発生。スプライシングが落下し、同時にトウマの体に激痛。
その痛さにトウマは白目を剥いて気絶した。
もはやギャグだよ。
「っしゃあ!! どんなもんよ!!」
この一連の流れを僅か数秒で成し遂げたのは誰でもない、ティファだった。
己の船を撃たれ、バリア発生装置が過負荷により故障。身を守る術が無くなったため逃げようとしたが、その直後にスプライシングが蜂の巣にされている現場を目撃。
トウマを救出するため、事後承諾でサラの船を遠隔でマッドネスパーティーに突撃させて無事交通事故成功。それとほぼ同時に己の船を動かし、バック走行で格納庫にスプライシングを放り込み、ハッチを閉じた。
これがトウマ救出の一連の流れだ。
更に、ティファは万が一に備えておいた最後の策を起動させる。
それは。
「悪いけど、命あっての物種という事で……ハイパードライブジャマーキャンセラー起動!」
ハイパードライブジャマーへの対抗策、ハイパードライブジャマーの効果を打ち消す装置、名付けてハイパードライブジャマーキャンセラーの起動だ。
ティファが購入したハイパードライブジャマーは解析のために使われ、そしてハイパードライブジャマーキャンセラーの礎となったのだ。
この状態でなら、ハイパードライブジャマーの影響下でもハイパードライブが可能になる。
「ハイパードライブ!!」
こうなれば後は逃げるのみ。即座にハイパードライブを起動。とにかくガベージ・コロニーとは反対の方向へと逃亡した。
マッドネスパーティーのパイロット、マリガンはそれを見逃すしかなかった。
「ここら一帯はジャマーがあったはずだが……チッ、まぁいい。ランカーを倒したんだ、俺が最強だ!!」
そう叫びながらマップで戦況を確認すれば、宙賊軍は指揮系統が混乱した部分から逆侵攻を始め、徐々に優勢に立とうとしていた。
この男は知ってのとおり、宙賊側の人間だ。
そして。
『首領! こっちの方が持ちそうにねぇです!!』
「あー? 知らねぇよ、雑魚は死ね」
『そ、そんな、た、助け……』
「はー、つっかえねぇ。折角俺の軍隊を作り上げたってのに、こんな軍にも勝てねぇのかよ。もうつまんねぇわ」
この宙賊組織の、首領。
「まぁ、元から雑魚の集まり、クズばかりだったしな。けど、折角俺が雑魚の船鹵獲した所から始めた国作りをこれ以上邪魔されんのもうざってぇし、補給したら全部殺すか」
この男もトウマと同じ漂流者だった。
違いがあるとすれば、この男は自分の愛機であるマッドネスパーティーと共に漂流し、己を見つけ銃口を向けてきた宙賊を武力により支配。
そして次々と宙賊を力で支配していき、ガベージ・コロニーを作るに至った。
ハイパードライブジャマーはその最中に見つけた軍の施設を強襲した際に見つけ、強奪したものだった。
そして、ファウストブラウを始めとしたネメシスも、輸送中の物を強奪、もしくは傭兵が使っていた物を強奪、更にはブラックマーケットで買い集めた物だ。
マリガンの腕はそれをたった一人で成せてしまうほど、この世界では突出していたのだ。
ガベージ・コロニーを作ったのは単純。自分が王となる国を。自分が法である国を作るため。
邪魔者を殺す力はある。無い物は奪えばいい。そんな思考だけで作られた、この男のためだけの国土。
この男、マリガンは正しくこの世界に舞い降りた、災厄の一つだった。
それを止めるすべは、この世界の軍には、無かった。
―――――――――――――
後書きになります。
今回は設定というよりも裏話に近いかもです。
・トウマとマリガンの戦闘
実の所、トウマがラーマナに乗っていたら9割の確率で勝てていた。
しかし、その場合でもティファが戦闘に巻き込まれ同じ展開になり負けていたため、この敗北は必然だった。
ちなみに、トウマ&スプライシングが卑怯な手無しのマリガンとガチンコした場合の勝率は3割程。シンプルに機体相性が悪いのが勝率が低い原因。
Q:トウマ闇落ちルートとかあったらどうなるの?
A:マリガンの数倍はタチが悪い事になります
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