容赦はいらない

『二人ともそのまま! 戦闘準備!!』


 通信越しにティファの声が聞こえ、直後にティファの船とサラの船、二つの船にバリアが張られる。

 ティファが仲間になったのだから、とサラの船に装備させたバリア装置。それが作動したのを確認し、トウマとサラは即座にスプライシングとラーマナの背中を合わせ、警戒を始める。


『一体何!?』

「分からんが警戒はしろ! とは言っても、このタイミングは火事場泥棒が来たってことだろうけどな!」


 盾を構えて警戒する二人。

 その二人から少し離れた場所の空間が歪み始め、そこからは船が現れた。

 それも、6隻。その6隻の船のハッチがすぐに開き、ネメシスが射出されてくる。

 その数、12機。


『よぉ、調子がいいみてぇだな、傭兵共』


 オープンチャンネルでの通信を聞いて何となく分かった。

 また宙賊だ。

 やっぱり、とトウマは溜め息を吐き、サラは少し表情を強張らせた。


『またハイパードライブジャマー……トウマ、サラ、やれるわね?』


 どうやら宙賊で確定のようだ。

 ティファはこの間の一件でハイパードライブジャマーを入手し、分解解析した事でハイパードライブジャマーを無効化するハイパードライブジャマーキャンセラーを開発し船に積んだため、逃げられない事は無いのだが、ここで逃げれば他の誰かが犠牲になる。

 ティファ様の言うとおり、トウマは頭の中のスイッチを切り替える。

 対人戦だ。

 自然と初陣で己にかけた暗示が。これはゲームの延長線だという暗示がかかる。

 大丈夫だ。スプライシングもスペックアップしている。片手で操縦したり目隠しして操縦しなけりゃ20機に囲まれようが負けようはない。


「あたぼうよ。な、サラ?」

『えぇ、もちろん。今更宙賊が何よ』

『おっ、女が二人も居やがるのか! こりゃ好都合だ! そこのネメシスは達磨にして持ち帰れ! あの船も鹵獲だ!!』

「こいつら、大型ズヴェーリを3体も倒した俺等のこと怖くねぇのかな……怖くねぇんだろうなぁ……馬鹿だろうし」


 若い女が二人いると知った宙賊共はテンション爆上げ。目先の欲に釣られた馬鹿ほど倒しやすい敵は無いというのに。

 普通なら12機のネメシスで囲めば2機のネメシスなんて敵ではない、というのもあるのだが、にしても調子に乗りすぎだ。


「サラ、模擬戦を思い出せ。いいか、当たらなけりゃ数なんてどうってこと無い。確実に、1機ずつやるんだ」

『わかってる。やってやるわ!』


 この時代は人の命の価値は低い。一般人であれど人殺しを経験する可能性はそう低くない時代だ。故に、サラも覚悟は決まっている。

 宙賊死すべし、慈悲はない。


「んじゃ、撃墜数少なかった方が今度の飯奢りな!」


 戦いが始まり命のやり取りが開始された直後、軽口を叩いてトウマは敵へ向かってブーストを吹かす。


『あっ、ちょっと!!』


 それに気付いたサラも前に出る。


『ハハハ!! 突っ込んできやがったぞ! 撃ち落としてやれ!!』


 直後に向けられる12の銃口。そこから放たれる銃撃を二人は左右にブーストを蒸かして避ける。


「ヤケに反応がいいな……? しかもよく見りゃ知らない機体だ」


 しかし、違和感。

 相手の攻撃が……というよりも、相手の反応がヤケにいいのだ。

 そのため、よく相手を確認してみれば、相手の機体は全て見たことない機体で構成されている。第4世代ネメシス、ファウストシュラークの面影はあるが、別物だ。


『相手さん、結構いい機体使ってるみたいね』

「そうみたいだ。けど、俺達の敵じゃない。だろ?」

『まーね』


 だが、その程度なら2人はやられない。

 1つ心の中のギアを上げ、弾を避け続けていく。

 そして、馬鹿みたいに足を止めてマシンガンを撃つ宙賊ネメシスに対してライフルを放ち、コクピットを穿つ。

 二つの花火が漆黒の宇宙に煌めいた。


『なっ、おい、何してやがる! とっとと達磨にしろ!!』

「数だけの烏合が、雁首揃えてさぁ!!」

『落ちなさい!!』


 足を止める相手なんてただの的。トウマは遠距離から確実にライフルでネメシスのコクピットを撃ち抜き、サラは流石にトウマよりは遅いものの、ライフル弾によって敵の行動を誘導し、ゆっくり着実に撃墜していく。

 足を動かし続けての高機動戦闘を行う二人に宙賊共はなす術無く、次々と命を落としていく。


「そぉら、これで6機目、と7機目!!」

『あっ、ちょっ、あたしのスコア!!』


 そして、トウマのセイバーによる斬撃と肩ミサイルにより、11、12機目のネメシスが宙の藻屑と消えた。


『ば、馬鹿な……第5世代のネメシスが、たった2機のネメシスに、10分で……!?』

「相手が悪かったな、悪人共」

『ホールドアップ。下手な事したらあの世でお仲間との感動の再開をする事になるわよ。まっ、どーせすぐにあの世で再開する事になるでしょうけど』


 もっとも、この世界において宙賊は捕まったら最後、監獄コロニーへ送られ、すぐに資源惑星に送られ使い捨ての道具として使い潰される。

 持っても1ヶ月といった所か。

 そんな罰が許されるくらいに、宙賊というのは裏で何でもやっているし、犠牲者だって出ているのだ。

 ティファとサラは勿論、トウマだってネメシスオンラインの設定としてそれは知っている。故に、少しでも動こうものなら即座に殺す。

 ──トウマとしてはあまり人殺しはやりたくないというのも本心には残っているのだが。


『く、くそっ、やってられるか! おい、とっとと逃げ』

『じゃあ死になさい、クズ』


 そして、すぐにでも逃げようとした宙賊の船が、ラーマナのライフル弾によりブリッジを破壊され、更に脱出者が出ないよう念入りにエンジンまでもを破壊して爆破した。

 やはり命のやり取りに多少なりとも忌避感がまだあるトウマは反応が遅れていた。


「わりーな。反応遅れた」

『別にいいわよ。あたしの方が早く気付けただけ』


 最初の宙賊戦でもトウマはネメシスのパイロットであった宙賊を一人脱出させた。

 余裕があったからやったのだが、あの後あの宙賊は軍に確保された様子はなく、トウマとティファも確保していない。

 おそらく、あの近辺の宙域を流され、酸欠で息絶えたかネメシスの爆発か流れ弾に巻き込まれたのだろう。

 だが、あの宙賊が奇跡的に生き残りまた罪を犯す可能性もあった以上、脱出させたのは悪手だ。トウマはそれを、宙賊戦からしばらく経ってから知った。

 故に今回は慈悲など持たずに殺したが、それでも咄嗟の殺人には反射的に行動できずにいた。


「はー……ったく、ゲームならもっと早くやれてたろ、俺」


 まだ咄嗟の殺人には慣れていない。暗示も万能ではない。

 その自覚を、自身への不満を口にすることでなんとか呑み込む。


『トウマ、サラ。あと10分くらいで軍が来るから、警戒はそのままね』

「おうよ」

『わかってるわ』


 その後、軍は何事もなく現れ、宙賊達を連行していった。

 あの宙賊達は罪の大小に多少は問われるが、それでも最後は資源惑星に送られて使い捨ての道具として運用される。

 それぐらいの罪が。なんの罪もない他人の命をただの金儲けの道具として扱ったという罪が奴等にはあるのだ。

 それが妥当だ。


「……しっかし、本当に妙ね。奴等の装備、本当に宙賊の物なの? いえ、宙賊で間違いないんでしょうけど……」


 そしてトウマとサラが帰還し、汗を流してからの事。ティファは操縦室へと集まった二人を前に、そんな声を漏らした。

 さもありなん。宙賊共の装備は明らかに一宙賊としては異常だった。

 第5世代ネメシス。つまりは現行で最新の世代となるネメシスを奴等は12機も保有していた。

 この数は異常だ。あっていいはずがない。

 更にそこにハイパードライブジャマーまであるとなれば、本当に何か起きているとしか考えられない。


「……第5世代ネメシス、ファウストブラウ。とてもじゃないけど宙賊が買える値段じゃないし、例え金があったとしても身元がしっかりとした人じゃなきゃ買えやしないわ」

「宙賊特有の裏のルートがあるとか? 俺達が行ったブラックマーケットとは別に」

「あると思うけど、そんな所にファウストブラウまで流れてるなんて……宙賊の装備が軍に匹敵し始めてるってことよ?」


 宙賊が最新鋭の装備を整えている。練度が烏合の衆とはいえ、ネメシスを保持している傭兵からしてもそれはかなりの脅威だ。

 今回だってトウマとサラでなければ、あの宙賊共は己の欲望を満たしていただろう。

 軍が戦ったとしても、果たしてどれだけの損耗が出るか。


「一応軍にはそれも含めて報告済みだけど、重い腰を上げるかどうか……」

「上げる事を祈ろう」


 そして、三人は軍が重い腰を上げた事を、己等に舞い込んだ依頼で知る事となる。



―――――――――――――


後書きになります。


前話の終わりがこれからボスが出てくる、みたいな引きだったのに敵がただの宙賊だったのは少し申し訳無さ。

もうすぐ本作初のボスが出てくるので、お楽しみをば。


キングズヴェーリ? あれは強すぎるので出禁です。

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