新たなる流星。その名は──

撃て、撃て

 サラが仲間に加わってから更に2ヶ月ほど。

 トウマ&ティファ、戦闘力特化の傭兵が更に最近名が上がり始めてきたサラを仲間に加えたらやることは一つ。

 付近のコロニーにあるズヴェーリ討伐の依頼を片っ端から受ける事である。

 勿論格安で雇ってきやがったコロニーの周辺は除くが、目に付くズヴェーリ討伐を片っ端からやった結果、最近は民間船や他の傭兵がズヴェーリに追われたりズヴェーリ関連の事故にあった、という報告がかなり減った。

 この馬鹿共はたった2ヶ月でズヴェーリによる被害を抑え始めたのである。

 そりゃ本来は軍が本腰挙げなきゃならない相手をたった2機のネメシスが異常な速さで駆逐しているのだから、ズヴェーリの湧き速度が追い付かないのである。

 ちなみにこの三人、ついこの間傭兵協会経由で軍から礼を言われた。治安維持の協力ありがとうと。


「へぇ、じゃあこういう時は反撃はせずに逃げた方がいいのね」

「そうだな。特にラーマナは装甲が薄いから、時には逃げ続ける事も視野に入れなきゃいけない」


 そして依頼を受けては次の依頼までのインターバルはそれぞれの自由時間。

 この日はサラがティファの船に上がり込み、トウマと直近の模擬戦での感想戦をしていた。自分の船はオートパイロットでこの船を追わせている。

 時折依頼のあとに行う二人の模擬戦は現状10割トウマが勝っているものの、サラも反省点は反省点として取り入れる事でメキメキと実力を付けてきている。


「ふーん、このパーツはこれで代用できそうね……そろそろ関節パーツも摩耗し始めてるし、交換して……」


 その横ではティファが端末を弄りながら難しい顔をしている。

 ラーマナの整備を請け負ったはいいが、やはりあの機体の構成パーツは9割がオーパーツだ。代用可能な物は探せばあるものの、探すまでも難しい。

 が、ラーマナの中身を見ていたティファはラーマナに使われている技術を吸収してメカニックとしての腕をかなり上げている。

 そのためか、スプライシングも最近は第4世代ネメシスと同等と言ってもいい程のスペックを手に入れている。


「しっかし、あんた達と組んで正解だったかもね。あれからあたしの貯金、割ととんでもない事になってるんだけど。中型の船とか一括で買えそう」

「ウチもそんな感じよ? ね、トウマ」

「だな。俺の小遣い、最近とんでもない額になってるし。普通に使いきれん」

「あんた小遣い制だったの…………? って、そういえば前ちらっとそんな事言ってたわね……」


 実は小遣い制なんです。

 もっとも、生活に必要な物はティファが支払っているし、トウマ自身、金よりもネメシスなので何も問題はない。

 ちなみにティファは金はあるが余った金は消し飛ぶのが基本なので、貯金は結構最低限だったりする。


「さて、そろそろ次の依頼の時間ね。ここら辺に大型のズヴェーリが三体ほどいるみたいよ」

「大型か。俺一人で行くか?」

「んー、早めに終わらせたいからサラも行っちゃって。一旦船に戻る?」

「いえ、このまま出ちゃうわ」


 ティファの指示にトウマとサラが頷き、後部格納庫へと向かう。

 格納庫に着けば、すぐに服の上からパイロットスーツを身に纏い、互いの愛機のコクピットへ乗り込む。

 トウマの目の前のモニターにはスプライシングの文字が。そして、サラの目の前のモニターにはラーマナの文字が浮き上がる。


「まずは俺から出る。ティファ、ハッチとカタパルトを」

『はいはい。そんじゃ、行ってらっしゃい。期待してるわ』

「任せなって。トウマ・ユウキ、スプライシングが出る!」

『次はあたしね。ラーマナ、サラ・カサヴェデス、行ってくるわ!』


 カタパルトから射出された、黒と白のネメシスが宙域を飛ぶ。

 当初サラは発進するときは特に何も言わなかったのだが、これがネメシス乗りの通なのだとトウマに嘘をふっかけられ、気が付けばそう言うようになっていた。

 ロボットに乗って発進するならやっぱ名乗りは必要だろう、とはロボオタトウマの言葉だ。


『しっかし、スプライシングも見た目は普通のネメシスになったわね。所々キメラみたいな所あるけど』

「かっこいいべ? マジでティファのセンスすげぇよホント。俺の性癖にガン刺さりだもん」

『せ、性癖……?』

『あぁ、こいつ興奮するとネメシスにエッチとか言うやつだから気にしないほうがいいわよ』

『そ、そうだったの……?』

「いやだってエッチじゃん。足パイルとか片足キャタピラとか三連肩ミサイルとか、その付け根とか。マジエッチ」


 ロボオタはロボットの関節や武装に性を感じがちである。ちなみにサラは仲間ではあるが、そこまでロボに性を感じる馬鹿をこの2ヶ月間見てなかったのでちょっと引いてる。


「さて、で、大型だったか。そんじゃ、まずは1匹っと」


 そんな女性陣はさておき、トウマはとっとと仕事を終わらすため、近付いてきたデブリ帯のデブリに擬態していた大型ズヴェーリにミサイルを一発。

 擬態中、核に直接ミサイルをくらったズヴェーリはそのまま死亡。次いで、2体の大型ズヴェーリが擬態を解除して仲間の仇と言わんばかりに突撃してきた。

 八十メートルはある不定形の生き物による襲撃。それをトウマとサラは機動力に物を言わせて簡単に避けてみせる。


『ちょっ、早いわよ! なんでそんな簡単にわかるわけ!?』

「経験だよ、経験」


 ファーストアタックを取られたサラは文句を言いながらも、こちらへと伸ばされた触手攻撃に対して全ての触手をライフルで撃ち抜き対処してみせる。

 更には触手を剣のような形にして振るわれる斬撃をセイバーで迎撃し、真っ向から斬り落とす。

 そこから更に伸ばされる触手は機動力で回避。


『昔は苦戦してたけど、今じゃ楽勝ね』


 と、言いながら反撃でシールドに備えたミサイルをサラは発射。その一撃が核を破壊し、大型ズヴェーリは息絶えた。

 2ヶ月前に見定められ、そして開花し始めているサラの腕前は既にエースパイロット級。ネメシスオンライン的には中堅プレイヤー程度だが、それでもここではネメシスの操縦技術だけで食っていけるほど。

 ネメシスによる大規模戦闘に混ざれば即座にトップエースとなる事だろう。

 そしてもう一体は。


「うぃーす」


 と、言いながら触手攻撃に突っ込み、その全てを避ける変態技を披露したトウマが。


「うぃーす」


 と言って体内に突入し。


「うぃーーす」


 と言って核をセイバーでぶった斬って息絶えた。


『……やっぱ頭おかしい』

「真似してもいいのよ」

『するかボケ』


 1歩間違えればただの自殺である。

 当初はやりたくないと言っていたこのやり方も、実は機体への損害はほぼない上に弾代もかからないのでティファも認めてくれた立派な時短術だ。

 1歩間違えれば自殺であることに変わりはないが。


「まぁ、さっきのはさておき、サラも結構動きが良くなったな。さっきの動きは前までのサラじゃできなかったろ」

『そうね。癪だけど、教師が無駄に優秀だからね』

「そうかなぁ……」


 トウマはあまり人にゲームの事を教えるという真似はしてこなかったので、果たしてその言葉がおべっかなのか真実なのかはわからない。

 だが、サラの動きが良くなっているのはすくなくとも彼女に才能があるということでもある。

 実際、手解きをされたとはいえサラの成長スピードには目を見張るものがある。様々な相手との対人戦を経験してないのにここまで来れるプレイヤーは本当に稀だ。

 この世界の宙賊や、映像で確認できる範囲ではあるが軍のネメシス乗りの腕を見るに、サラなら一人で6機のネメシスを相手取り勝つ事は不可能では無いだろう。

 そんな事を思いながら船に帰ろうとしていたのだが。

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