アオイニチジョウ

 天然食材の確保のため店の前に来た二人だが、店の中は店員以外人がいなかった。

 一言で言えば寂れていた。


「えっと、この店か。人いねー」

「高級品だし買ったところで調理できる人も居ないから……2000年前くらいの調理マシンを持ってたらできるのかしらね?」

「年の単位がやべーなおい。で、どれどれ…………うっわ、こんな小さい袋の米で5000ガルド……一合分も無いんじゃねぇのこれ…………」

「や、野菜がとんでもない値段してる…………」

「おっ、天然の牛ひき肉あるやん。えっと……………………あの、100gで前までのティファの10日分の稼ぎが吹っ飛ぶんですけど…………」

「ご、合成肉ならもう少し安いわよ、ほら! こっちにしましょ!!」


 需要もほぼ無い上に供給も僅かなので天然ではない合成肉でも相当な値段がする。

 トウマの最近のお小遣いはお小遣いの域を超えているので買えないことはない。お金の使い道もないので買ってもいいのだが、やはり値段が値段。

 流石に躊躇してしまう。

 が、偶には贅沢してもバチは当たらないだろう。

 と、言う事でトウマはその場で米、豚肉、卵、ネギ、その他調味料を買った。


「IDチップから支払ったから大金叩いた感覚ねぇのが怖いわ。あと小遣いめっちゃ減った」

「1人で払っちゃうからよ。あたしも出したのに……」

「いや、いいっていいって。俺の金なんてほぼ使わねぇしさ」


 という事で買ったものは一旦車に放り込んで、2人はもう一度ショッピングモールへ。

 ショッピングモールではトウマが売ってるものに対してジェネレーションギャップを発動し、サラは呆れながらも欲しいものを買って。

 傍から見ればデートなのだが、そんな気は一切ない2人は気になる物から欲しい物まで色々と買った。ついでに調理器具も売ってる範囲で買った。


「いやー、買った買った。こんな買い物したの久しぶりかも」

「俺も最近、カートリッジ買いにいったくらいだったし買い物したの久しぶりだわ」


 色々と買って、荷物は9割トウマが持っている。流石に外見年齢が14歳くらいのロリっ子に荷物を持たせるのははばかられた。

 そんな2人は荷物片手にショッピングモールをぶらぶらとしていたのだが、ふとサラが足を止めた。

 トウマもそれにつられて足を止める。

 サラが足を止めて見ていたのは、ショッピングモールにはありがちなゲームセンターらしき所だった。


「…………」


 ──サラの素性は分からない。本人が語らないからだ。

 だが、何かしらの事情があることは分かる。

 18歳で自分の小型船を持ち、傭兵業。まず、18歳で小型船を買うほどの金なんて貯められないし、女一人で傭兵業なんて正気ではない。

 それが普通なのだ。

 そうではないサラの素性は──


「…………おっ、ゲーセンか? へぇ、こんな時代にもあるんだな。気になるから行ってみないか?」


 トウマは普段通りの声色でサラに話しかける。

 その言葉にサラはハッとしてからトウマの方を振り向き、いつも通りの表情を浮かべてからそうね、と呟いた。


「まぁあんたにとっては新鮮だろうし行きましょっか。っていうか、あんたの時代もゲーセンってあったの?」

「そりゃあったさ。まぁ……」


 再びゲーセンの中を見る。

 うん。


「あんなハイテクなゲーム無かったけど…………」

「そ、そう……」


 なんかUFOキャッチャーらしきものは最早UFO部分が無線で動いてるし景品は見たことない玩具だし。

 他のゲームもなんか超能力体験みたいな感じで手に装置をつけて物浮かせたりしてるし、レースゲームからは凄い音聞こえてくるし。多分あれマジでぶつかったときのGとか感じるやつ。

 なんか、全体的に未来だった。


「ま、まぁ、入るか」

「そうね」


 と、いう事でゲーセンに入った二人は。


「おいこれどうやって遊ぶの!? えっ、そもそもこれどうやって動かすの!? ボタンは!?」

「あー、これアレね。ここに手を置いて念じると…………ほら動いた」

「UFOキャッチャーでキネシス使うなんて嘘だろオイ!?」

「あっ、これがメダルゲーム……買ってみましょ」

「……あの、買ってもメダルが出てこないんですけど?」

「IDチップに記録されるに決まってるじゃない」

「すげー……で、メダルって何で遊ぶの?」

「ほら、あそこのVRプッシャーがあるじゃない。あれで遊んで増やす……筈よ」

「えっ、プッシャー……? あっ、VRのメガネがある……これかけるの? うわっ、すげぇこれ!! フルダイブ式じゃねぇけど相当スペックたけぇぞこれ!!」

「へぇ、凄いわねこれ」

「あっ、ちょっ、恐竜が!? 食われる食われる!!?」

「VRなんだから食われないわよ…………」


 と、主にトウマがはしゃぎまくった。

 サラの方は自分よりもとんでもない反応する馬鹿を見てなんか冷静になった様子。

 そしてはしゃぎ疲れたトウマは肩で息をしながらもうやるか! とVRメガネを外し、他のゲームの品定めに入った。


「はー……もう少し俺に優しいのを…………ん? あれは……」


 周りを見渡したトウマが見かけたのは、傭兵協会にあるネメシスのシミュレーターに似た筐体だった。

 筐体の側面にはバトル・オブ・ネメシスの文字が。


「あーこれアレね。確か、ネメシスを使ってバトルするってやつ」

「えっ、シミュレーターみたいな?」

「あそこまでガチガチじゃないわよ。ただ、確かオンライン対戦とかもできるんじゃなかったかしら?」

「──へぇ?」


 なるほど、ネメシスでオンライン対戦。


「ちょっと荒らしてくるわ」

「え?」


 そう言ってトウマは笑いながら筐体に入った。

 最初はチュートリアル。そしてすぐに対戦。

 サラは筐体横のモニターで対戦の様子を見ていたが、すぐにうわぁ、とドン引きした。

 そして30分ほど経って。


「いやー、遊んだ遊んだ。けど手応えなかったわ」

「あんた……色々と大人気ないわよ…………」

「ん? まぁまぁ、いいじゃん?」


 このゲームはシミュレーター程ガチガチではなく、ネメシスの操作は大分簡略化されているし、攻撃が当たってもHPが減るだけで当たりどころが良ければ一撃で落とせる、なんてことも無い。

 ないのだが、この男はゲーム側が用意した機体でいとも簡単に敵プレイヤーをなぎ倒し、ゲーム側が規定した連勝回数の上限に達し、強制ゲームオーバーとなったのだった。


「サラもやってみたらどうだ? 案外楽しいぞ」

「……まぁ、やってみますか」


 ちなみに、サラも普通に連勝回数の上限を叩くのだった。

 このゲームは本職の方のプレイを想定しておりませんので。



****



 2人の買い物と遊びは結局その後も暫く続き、ほくほく顔でショッピングモールまでやってきたティファと合流する形でお開きとなった。

 たった1日一緒に遊んだだけだが、大分サラとも打ち解けられた気がする。


「ところで、ティファは何買ってきたんだ?」

「あー、気になる? 気になっちゃうう?」

「お、おう」

「実はねぇ……これ、買ってきたのよ!」

「……これは、基盤? 何これ」

「これね、ハイパードライブジャマー!! まさかまさかのどこかの宙賊が持ってたらしい横流し品が売ってたのよ!!」

『…………は?』

「早速こいつを解析してハイパードライブジャマーの対策するわよ!! もう今からワクワク止まんない!!」


 注意。ハイパードライブジャマーは所持だけだも犯罪です。バレたら捕まります。

 果たしてお目々キラキラしいたけなティファさんは気付いているのか気付いていないのか。

 多分気付いているけどそんなの関係ねぇで済ませてるのだと思われる。


「…………ごめんサラ。今日お前の船に泊まっていい? というか、ティファがアレ捨てるまで泊まっていい……?」

「……うん。あと、あたし、暫くティファとは距離取るわ…………」

「俺も……捕まりたくないし……」

「何してんのよ、早く帰るわよ!!」

『ハイ……』


 この日から1週間ほど、トウマはサラの船で寝泊まりすることになった。

 その間、トウマは買ってきた食材を使って一つ料理を作った。


「はい、炒飯。雑だけどな」

「へぇ、何作ってるかと思ったら。どれどれ…………うん、ご飯はなんかパラパラしてないし、なんか微妙」

「うっせ。男飯なんてこんなもんだよ」

「まぁでも……うん。なんか美味しいかも」

「そーかい」


 高い金を払ってでも食材を買って調理する人がいるのも分かる気がする。

 サラはトウマのあまり美味しくない炒飯を食べながら、そんな事を思ったのであった。

 ちなみにハイパードライブジャマーは用済みになったらしっかりとスプライシングのミサイルでこの世から消し飛ばしましたとさ。

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